心臓病患者の休職から復職するまでの流れを解説!注意点と使える制度も紹介

「心臓疾患でしばらく働けなくなった」「長期間休職することになった」

そんな労働者の休みを保証するのが休職制度です。

休職中は賃金の支払いがない会社も多く、復職したいと考えている方も多いのではないでしょうか。

今回は心疾患で休職する方を対象に、休職から復職するまでの流れを解説します。これから休職する方は、この記事を読んでぜひ今後の流れをイメージして見てください。

先のことが分かると、現状の整理や、ストレス軽減につながるはずです。

【目次】

復職までの流れ

休職から復職までの流れは下記の通りです。

  • 1. 休職手続きを行う
  • 2. 治療やリハビリ行う
  • 3. 主治医から職場復帰についての診断をもらう
  • 4. 会社へ復職についての相談する
  • 5. 産業医の意見もふまえて会社が決定する
  • 6. 仕事に戻るまでの準備をする

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①休職手続きを行う

まずは治療を行うために休職の手続きを行いましょう。

休職は、業務外の傷病を理由にした「傷病休職(病気休職)」、傷病以外の私的な事故を理由にする「事故欠勤傷病」などの種類があります。

心臓病をはじめとした、「病気の治療」のための休みは「傷病休職(病気休職)」に該当します。

【休職手続きの流れ】

  • 1. 就業規則・休職制度の有無を確認する
  • 2. 医師から診断書をもらう
  • 3. 必要な書類を上司へ提出する

手続きに必要な書類は「診断書」「休職届(休職願・休職申請書)」です。

事前に、「そもそも休職制度があるのか?」「休職期間の給与の支払いの有無」や、「上司との連絡」「休職期間」を確認します。

事前の受診で入院治療が必要なことが分かっていれば、事前に医師から診断書をもらっておきましょう。

【注意点】

  • 就業規則・休業期間・給料の有無の確認
  • 上司や、必要部門へ連絡方法を確認しておく

なお、休職中の賃金については就業規則にしたがうのが基本となりますが、一般的には受け取れません。その場合、「傷病手当金」を受給できる可能性があります。(※そちらについては後述します。)

また、病気になった原因と仕事との関連が認められた場合は「労働災害」となり、補償が得られるので、自分の状況をよく確認しておきましょう。

労働災害については、こちらの記事「​​心疾患は労災になるのか?5つの心疾患と認定の条件とは?」で詳しく解説しています。

②治療やリハビリを行う

入院後は疾患に応じた治療を行います。

治療に応じて入院期間が異なりますので、事前にある程度の目処が分かる場合は会社に伝えておきましょう。

治療後、心疾患の場合は「心臓リハビリテーション」を行う場合があります。

リハビリ室での自転車こぎや、歩行などの有酸素運動、筋力トレーニングなどを行います。

期間は保険適応となる「150日(5ヶ月)」間で、全てを入院中に行うわけではなく、退院後も、外来へ通院しながら行います。​​

心臓リハビリについては、こちらの記事「心臓リハビリテーションって何をするの?心リハ指導士が伝えるリハビリの意義」で詳しく解説しています。

③主治医から職場復帰についての診断をもらう

治療や、リハビリが進み退院の目処が立てば復職に向けて準備に入りましょう。

入院中に確認しておきたいのが、「復職についての主治医の意見」です。

口頭で、復職についてのアドバイスをもらうだけではなく、かならず「診断書」を記載してもらいましょう。

診断書をもらう流れは以下の通りです。

  • 1. 退院日が決まる
  • 2. 主治医へ復職についての相談、注意点の確認
  • 3. 業務内容に制限、休職期間への意見があれば診断書へ記載してもらう

診断書については、こちらの記事「心臓病患者は診断書が必要?診断書の必要性や疑問を徹底解説」で詳しく解説しています。

④会社へ復職について相談する

主治医から復職に関する意見をもらったら、会社と復職の調整に入りましょう。

流れは以下の通りです。

  • 1. 職場へ復職の意向を伝える
  • 2. 運動制限があれば業務調整を依頼する
  • 3. 必要な手続きについて確認する

心疾患の場合は、運動制限や、通院などの長期的な配慮が必要となるケースがあります。

主治医の意見をもとに「どの範囲までの業務ができる見通しがあるか」は話しておきましょう。

なお、活動制限の指標については「METs」が用いられます。

【METsとは】

運動強度の単位で、安静時を「1」とした時に​​何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの。

いくつかの例を挙げてみましたのでよければ参考にしてください。

活動状況 METs
静かに座っている(安静) 1
歩く/軽い筋トレをする 3
階段をのぼる/通勤で自転車に乗る 4
ランニング/重たい荷物の運搬 8

出典:厚生労働省eヘルスネット

⑤仕事に戻るまでの準備する

退院後は、復職するための準備期間となります。

復職の判断基準は後述しますが、「生活リズムは大丈夫か」「本人に意欲はあるか」などがみられます。自宅療養中に、「入院中に乱れた生活リズムを整える」「気持ちを整理する」「体力を戻す」ことに時間を使いましょう。

退院後は、内服薬を継続している場合が一般的です。また体調が戻ったからといって、自己判断で中断しないようにしましょう。心臓に関連した「食事」「睡眠」をはじめとした生活習慣の注意点については下記をご覧ください。

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⑥産業医の意見をふまえて会社が復職を決定する

あなたが所属している会社が50名以上の社員がいる企業の場合、復職については「主治医の意見書」「産業医の意見書」の2つをふまえて決定されます。

【産業医とは】

産業医とは労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める一定の要件を備えた者です。

常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないこととなっています。

出典:産業医について 厚生労働省

復職の判断基準は一言でいうと「長期的に就業が継続できるか」です。

具体的には下記の5つがポイントとなります。

  • 従業員が復職に対して十分な意欲を示している(=就業意欲力)
  • 食事や外出などの生活リズムが整っている(=リズム力)
  • 1日の疲労が翌日までに回復できる体力がある(=回復力)
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤できる(=通勤力)
  • 職場環境に適応できるかどうか(=適応力)

必要書類(※後述します)を提出後、産業医の意見を元に、会社から復職についての回答があるのを待ちましょう。

復職に必要な書類

では、復職について必要な書類を見ていきましょう。

下記の通りです。

  • 復職届
  • 主治医師の診断書
  • 産業医の意見書

復職に必要な書類は、休職の理由によって異なります。

病気や、怪我で休職となり復職するときには上記の3つは必要となるでしょう。

また、復職の判断材料とするために会社から「生活記録表」の提出を求められる場合があります。

【生活記録表とは】

メンタルヘルスや傷病による休職者が記載する様式です。これを参考に産業医が復職の決定を行います。詳細な様式は会社ごとに異なりますが、多くは24時間×数日の行動を記載できるようになっています。

出典:高齢・障害求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター

必要な書類や様式については会社によって異なるので事前に確認しておきましょう。

復職後の注意点

これから復職を目指す方に向けて注意点もまとめました。

以下の通りです。

  • 就業規則の確認する
  • 制限がある場合は業務調整を行う
  • 上司や、同僚、必要機関への周知を図る

心疾患の多くは退院後も継続した通院を必要とします。

有給、病休、時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など、体調を最優先して働き方を柔軟に考えましょう。また、心疾患を含めた内部障害(内臓の障害)は周囲からは分かりづらいものです。配慮を得にくい場面もあるでしょう。

周囲の理解を得られずに、退職にいたるケースもあります。「自分の体調に気を使ってほしい」と言い回る必要はありませんが、信頼のおける仲間には情報を共有しておきましょう。

復職までに活用できる制度

ここまで「復職」について解説してきましたが、大まかな流れについては理解していただけたでしょうか。

今回は、さらに「心疾患の方の生活を支える制度」についてもまとめました。

これから復職や、休職を考えている方はぜひご参考ください。具体的には下記の通りです。

  • 傷病手当
  • 障害者年金
  • 身体障害者手帳
  • 高額医療制度

それぞれ見ていきましょう。

傷病者手当金

「傷病手当金」とは、​​病気休業中に本人とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。

病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。なお、支給金額は下記の式で計算されます。

【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)

だいたい「平均給与の約2/3程度」となっています。

傷病手当の条件は下記の通りです。注意点と合わせて見ていきましょう。

【傷病手当の受給条件】

条件 注意点
①国民健康保険の被保険者である
②業務外の病気やケガで療養中である 業務中が原因の病気、怪我は労働災害となる
③療養のため労務不能(働けない) 労務不能かは医師の意見や、本人の業務内容などによって判断される
④4日以上仕事を休んでいる 休みが始まってから連続した3日目までを除いて4日目から算定して支給される
⑤給与の支払いがない 給与が一部だけ支給されている場合、傷病手当金から給与支給分を減額して支給される

必要書類は本人の状況によって異なります。下記にてダウンロード可能なのでご参照ください。

出典:健康保険傷病手当金支給申請書 全国健康保険協会

提出先は、「健康保険被保険者証(健康保険証)に記載されている管轄の協会けんぽ支部」となっています。

障害者年金

復職に関連するのが「障害者年金」です。

障害者年金とは、病気や怪我により、仕事や生活に制限が出てきた場合に、現役世代も含めて受給できる年金です。心疾患で、働くことができなくなくなった場合にも該当します。

受給金額は「配偶者、子どもの有無」「加入している年金の種類」「障害等級」によって金額が異なります。なお、すべての人に支給される『障害基礎年金』の年間支給額は

  • 1級:976,125円
  • 2級:780,900円(令和3年度)

上記となっています。

生活の全てをまかなえる額ではありませんが、収入の柱としては十分な金額だと言えます。

受給の要件は3点です。

【障害者年金の受給要件】

要件 内容
①初診日が特定できる
  • 障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師の診療を受けた日
  • 障害年金の申請には、初診日を証明できる書類を付ける必要がある
②保険料の納付要件を満たしている 下記の2つのうちどちらかの条件を満たしている

  • ​初診日のある月の前々月までの、公的年金の加入期間の2/3以上の保険料が、納付または免除されている
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に、保険料の未納がない
③「障害認定日」に、国が定めた「障害認定基準」に該当している 初診日から1年6ヵ月経過した日、またはその期間内に治った日(症状が固定された日)のこと

障害の等級は下記の通りとなっています。

【障害者年金の等級】

等級 内容
1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの

出典:日本年金機構

なお、障害者年金は働きながらでも受給することができます。実際に受給者の3人に1人が働きながら障害年金を受給しています

申請方法や、対象者については、こちらの記事「心臓疾患で障害年金はもらえるの?障害年金の仕組みと認定基準を徹底解説」で詳しく解説しています。

身体障害者手帳

心疾患により障害が残った際、生活面でサポートしてくれるのが「障害者手帳」です。

メリットは以下となっています。

  • 障害者雇用枠での就労が可能
  • 医療費の助成や税金の控除
  • 公共交通機関・サービスの割引

デメリットはないため対象となる方は取得することをおすすめします。

対象となるのは、心疾患をはじめとした障害を負っており、国に認定された方です。

【等級と条件】

  • 1級:身の回りの日常生活動作が極度に制限されている状態
  • 3級:家庭内での日常生活動作がいちじるしく制限されている状態
  • 4級:社会での日常生活動作がいちじるしく制限されている状態

出典:心臓機能障害【障害程度等級表】

なお、この等級は「障害者年金の等級」とは異なります。

障害者手帳については、こちらの記事「心臓疾患の人は障害者手帳を持つべき?メリットや申請方法について解説」で詳しく解説しています。

高額医療費制度

「高額医療費制度」は、​​医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額を超えた分が、あとで払い戻される制度です。

心疾患の治療は手術や、入院により高額になるケースが多いため、ぜひ利用したい制度です。払い戻される金額ですが、「年齢」「所得状況」によって自己負担額が決められています。

【自己負担額の計算(70歳未満)】

区分 内容
① 区分ア
(標準報酬月額83万円以上の方)
(報酬月額81万円以上の方)
252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
② 区分イ
(標準報酬月額53万〜79万円の方)
(報酬月額51万5千円以上〜81万円未満の方)
167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
③ 区分ウ
(標準報酬月額28万〜50万円の方)
(報酬月額27万円以上〜51万5千円未満の方)
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
④ 区分エ
(標準報酬月額26万円以下の方)
(報酬月額27万円未満の方)
57,600円
⑤ 区分オ(低所得者)
(被保険者が市区町村民税の非課税者等
35,400円

※「総医療費」とは保険適用される診察費用の総額(10割)です。

出典:全国健康保険協会

申請方法についてですが加入している保険によって下記のように異なります。

①健康保険

ある月の医療費が自己負担額を超えた場合に健康保険証に記載してある「協会けんぽ支部」へ高額療養費支給申請書」を提出します。

②​​国民健康保険

自己負担限度額を超えていた月の3〜4か月後に自治体から、該当する世帯に申請書が郵送されてくるため、申請書に必要書類を添付して郵送します。

細かなルールは自治体によって異なります。

注意点として、受診時の領収書の提出が求められることがあるので、紛失しないように保管しておく必要があります。

また、申請期限は「診療を受けた翌月1日から2年を経過するまで」となっており、それをすぎると時効となってしまうので注意しましょう。

まとめ

今回は、休職や復職について解説しました。

  • 休職から復職までの流れ
  • 復職の際の注意点
  • 復職に必要な書類
  • 休職者におすすめの制度

長期休職後の復職は、誰もが不安なものです。早く復職しようと無理をする必要はありません。

重要なのは病気が再発しないことです。健康で、長く働けるように、復職後は治療と仕事を両立することが大切です。

先のことを意識しながら少しずつ行動していってはどうでしょうか。

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看護師&WEBライター。介護士歴7年、資格取得後に看護師へ転職。国立病院の循環器科を経験。現在は地域医療を学ぶために田舎の救急病院に勤務。検査、救急対応、外来対応、病棟看護なんでもやってます。(Twitter:@ns_shokpan)