心臓疾患で障害年金はもらえるの?障害年金の仕組みと認定基準を徹底解説

公開日 2022年10月13日 最終更新日 2024年2月18日

障害年金は、さまざまな病気やケガなどで生活や仕事が制限される場合に受給できる年金制度です。

年を取って受け取る年金と異なり、65歳未満の人でも一定の要件を満たしていれば受給できます。本記事では障害年金の仕組みや支給額、障害年金を受給するための方法をわかりやすく解説します。

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監修:ami

精神保健福祉士/社会福祉士/介護支援専門員/男子高校生と、肺動脈閉鎖症/右心低形成の女子小学生の母。地域密着型の精神科診療所に17年間ソーシャルワーカーとして勤務。相談支援、デイケア運営、訪問等幅広い支援をチーム医療の一員として行う。病児出産後退職。現在は患者家族会活動と娘の推し活を一緒になって楽しむ毎日。Twitter:@ami7color

 

【目次】

障害年金とは?制度を徹底解説

障害年金は公的年金に加入し、一定期間保険料を納付(★)した人が病気やケガが理由で働けなくなったり、生活が制限されてしまったりした場合に受給できる年金制度です。

対象となる疾患はがんや糖尿病、腎臓病、心臓病などの内部障害、手足の麻痺や切断、失明、難聴など多種多様です。若い人でも受給が可能で、多くの人の療養生活を支えるために欠かせない制度です。

障害年金受給の3条件

  • ①初診日に国民年金又厚生年金に加入していること
  • ②障害の状態が障害認定日に障害等級表の1~3級(国民年金は1~2級)に当てはまること
  • ③保険料の納付要件(★)をクリアしていること

★「納付要件」初診日の前日において初診日がある月の2か月前までの

  • (1):加入期間のうち3分の2以上の期間が納付又は免除されていること
  • (2):直近1年間に保険料の未納期間がないこと

初診日の前日という所が重要で、病気になってから保険料を納めても年金はもらえません。特に自営業や学生は注意が必要です。(経済的に厳しい時は納付免除、納付猶予、学生納付特例の手続きを。決して「未納」にしないこと。)

★「障害認定日」初診日から1年6ヶ月を過ぎた日(症状が固定しそれ以上治らないと判断される日)

障害年金の種類

日本の公的年金制度は2階建ての制度です。1階部分が「基礎年金(国民年金)」2階部分が「厚生年金、共済年金」となっています。障害年金は、障害基礎年金・障害厚生年金(障害共済年金は平成27年10月1日厚生年金に統一)に分かれています。

障害の原因となった病気やけがで初めて受診した日(初診日)の時点で国民年金にのみ加入していた場合は障害基礎年金だけ、働いて厚生年金に加入していた場合、同時に国民年金にも加入しているので、1.2級なら障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受給できます。

①障害基礎年金(国民年金)
1階部分
初診日が、国民年金の給付対象期間中の人や国民年金の給付対象になる前(20歳未満)の人、給付資格をを失った後(60歳以上65歳未満)の人に支給されます。(学生、専業主婦、自営業者などは国民年金のみ)
給付対象に認定されるタイミングは以下です。

  • 初診日が20歳より前の場合は、20歳に達した時点
  • 初診日が20歳以降の場合は、初めて受診した日から1年6か月経過したとき(障害認定日)
  • 障害認定日~65歳までの間で申請した場合は、申請した時の「障害の程度」が障害等級表1級・2級のいずれかの場合
②障害厚生年金
2階部分
初診日が、厚生年金の給付対象期間の場合に支給されます。(会社員など)
障害の程度が障害認定日または、それ以後65歳までの申請した時点で、障害等級表1級・2級または3級のいずれかの場合に支給されます。
③障害手当金
(軽度)
初診日が、厚生年金の給付対象期間で、障害厚生年金3級より軽い障害の状態である場合「一時金」として支給

障害年金の対象となる病気は?

障害年金の対象となる病気は、視力障害や聴力障害・肢体不自由など目に見える病気だけではありません。がんや糖尿病、心臓病、呼吸器疾患、心の病気などの内部障害も支給対象です。(その病気が原因で「障害の状態」になったと判断された場合)

引用:障害年金の制度をご存知ですか?がんや糖尿病など内部疾患の方も対象です。

「障害の程度」とは?

障害の程度とは「国民年金法施行令」および「厚生年金保険法施行令」で定められている指標です。障害の程度や日常生活の状態を、障害の程度に応じて1~3級の等級で区分しています。この等級は障害者手帳の等級とは異なっています。

障害等級 障害の程度
1級 身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身の回りのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方が、1級に相当します。
2級 身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。
3級 労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活には、ほとんど支障はないが労働については制限がある方が3級に相当します。
障害手当金 傷病が治ったもので、労働が制限を受けるか、労働に制限を加えることを必要とする程度のもの

引用:障害年金の制度をご存知ですか?がんや糖尿病など内部疾患の方も対象です。

障害年金はいくらもらえる?

障害年金の支給額は、以下の条件で決定します。

  • 加入している年金の種類
  • 障害の程度(障害の等級)
  • 配偶者・子どもの有無

すべての人に支給される『障害基礎年金』の年間支給額は以下のとおりです。(令和3年度)

  • 1級:976,125円 月額8万1,000円
  • 2級:780,900円 月額6万5,000円

厚生年金に加入している方は、障害基礎年金に加えて障害厚生年金も受給できます。

障害厚生年金の支給額は、厚生年金に加入していた期間の平均年収と加入期間で計算されます。たくさんの収入を得て長い期間障害厚生年金に加入している人の方が、障害厚生年金をたくさん受給できるため「報酬比例の年金額」といわれています。障害厚生年金1級は報酬比例の年金額の1.25倍、2級は報酬比例の年金額が障害厚生年金として障害基礎年金に上乗せして支給されます。

子どもがいる場合は、子ども2人までは1人につき224,700円、3人目以降は1人につき74,900円上乗せして支給されます。また、65歳未満の配偶者がいる場合は、224,700円加算されます。3級の障害厚生年金および障害手当金は、厚生年金に加入していた場合のみ支給されます。

引用:障害年金の制度をご存知ですか?がんや糖尿病など内部疾患の方も対象です。

「障害年金」と「障害者手帳」の違い

障害年金と障害者手帳は全く別の制度で、認定基準や認定審査機関が異なっています。たとえば身体障害者手帳1級を取得しているからといって、障害年金1級を受給できるとは限りません。

反対に障害者手帳の受給対象でない人も、障害年金の受給を受けられるケースもあります。

障害年金を受け取るメリット

障害者年金を受け取るメリットは以下の通りです。

  • 一定の要件を満たせば受給できる
  • 仕事をしていても受給できる
  • 障害年金1・2級は申請すると国民年金保険料の支払いの法定免除を受けられる
  • 障害年金は非課税である

障害年金を受け取るデメリット

障害年金を受け取るデメリットは以下の通りです。

  • 申請書類の準備や手続きが煩雑
  • 受給金額が多いと社会保険の扶養から外れるケースがある
  • 寡婦年金及び死亡一時金が受け取れなくなる可能性がある

心疾患で障害年金を受給できるのはどんな人?認定基準を解説

心疾患を持っている方で障害年金を受給できるケースはどのような状態の方でしょうか。

心疾患の認定基準

心疾患の障害の程度は以下より総合的に判断されます。

  • 呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、 浮腫等の臨床症状
  • X線、心電図等の検査成績
  • 全身の状態
  • 治療及び病状の経過

病状を的確に把握するために、血液検査(BNP値)、心電図、心エコー図、胸部X線、X線 CT、MRI等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、 心血管造影法、冠動脈造影法等)などの検査がおこなわれます。

検査結果や全身状態をもとに、障害が認定された時期以降少なくとも1年以上の療養が必要なケースに対して、病状や障害の状態、日常生活や仕事への影響に応じて等級が認定されます。各等級の障害の程度と状態は以下のとおりです。

障害の程度 障害の状態
1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることがを不能ならしめる程度のもの
2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの

引用:第11節 心疾患による障害 国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 

検査項目の所見や病状で等級は判定される

異常検査所見・一般状態区分・身体活動能力の判定には以下の共通した基準が用いられます。

【異常検査所見】

区分 異常検査所見
A 安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは 0.5mV以上の 深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
B 負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C 胸部X線上で心胸郭係数 60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性 肺水腫のあるもの
D 心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能 の制限、先天性異常のあるもの
E 心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
F 左室駆出率(EF)40%以下のもの
G BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が 200pg/ml 相当を超えるもの
H 重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に 50%以上の狭窄、あるいは、3 本の主要冠 動脈に 75%以上の狭窄を認めるもの
I 心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの

【一般状態区分・身体活動能力】

区分 一般状態 身体活動能力
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの 6Mets以上
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの。例えば、軽い家事、事務など 4Mets以上6Mets未満
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、 軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの 3Mets以上4Mets未満
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの 2Mets以上3Mets未満
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、 活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの 2Mets未満

★Mets(メッツ)=代謝当量 安静時の酸素摂取量を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すもの

さらに、等級判定基準は心疾患ごとに7つのグループに分けられます。

  • 弁疾患
  • 心筋疾患
  • 虚血性心疾患
  • 難治性不整脈
  • 大動脈疾患
  • 先天性心疾患
  • 重症心不全

心疾患ごとの等級判定について、より詳しく知りたい方はこちらのサイトをご覧ください。

心臓疾患障害者年金の請求方法

障害年金の請求の仕方には、次の4つの方法があります。(④は国民年金のみ)

  • ①障害認定日請求
  • ②事後重症請求
  • ③初めて2級の請求
  • ④20歳前の初診による請求

①障害認定日請求

初診日から1年6か月経過した日、もしくは、それ以前の「治った日=障害認定日」の障害の程度が障害等級に該当していて、他の要件を満たしていれば、その日以降いつでも請求手続きができます。

この請求では、請求の時期が遅れても障害認定日の翌月分から最大5年分を後からさかのぼって受給できます。(遡及請求)

②事後重症請求

障害認定日には障害の程度が軽く障害等級に該当しなかったが、その後悪化し該当するようになった場合には、その時点から障害年金の請求ができます。事後重症請求の場合の年金受給は、請求手続きを行った翌月分からで、遡及して受給することはできません。

③初めて2級の請求

すでに障害のある人がさらに障害を負い、それらの障害を併合して初めて2級に該当する場合に請求できます。

④20歳前の初診による請求

初診日が20歳前、どの年金制度にも加入していなかった場合は原則として20歳に達した日、又はその後に障害等級に該当した場合は障害基礎年金が請求できます。

しかし障害年金の手続きはとても複雑です。

その理由は、受給の理由となる病気によって揃えなければならない書類が異なるからです。さらに、障害の原因となった病気やけがで初めて受診した日から現在までに複数の医療機関で診察や治療を受けている場合には、それぞれの医療機関で診断書や意見書を取得する必要があります。また、配偶者や子どもの有無によって必要書類が異なるため、注意が必要です。

複雑な障害年金の手続きをスムーズにすすめるために、公的な相談窓口が複数あります。

街角の年金相談センターは各都道府県に複数配置されており、社労士が常駐しています。そして、事前予約は必要ですが手続きに関する相談を、社労士に直接行うことが可能です。自分1人の力で手続きをしようとすると、時間が無駄にかかってしまったり、そもそも手続きを完了できなかったりする場合があるので、迷ったらまずは相談してみましょう。

申請のポイント

窓口に相談の際には、基礎年金番号やマイナンバーがわかるようにしましょう。障害者手帳などをお持ちの方は、合わせて持参するようにしてください。相談前に障害年金の受給の理由となる病気の経過や病状・障害の程度も確認するため、ご自身の病気の経過や病状をあらかじめまとめておきましょう。請求の方法が変わる可能性があります。

主治医に相談、診断書を依頼する際には、事前にこれまでの受診歴、病歴を時系列にまとめ、日常、社会生活上の困難エピソードを書き込んで渡しましょう。初回の診断書作成は医師にとって大変な作業です。

診察室での短時間のやりとりでは意外に日常の様子が伝わっていないことがあり、診断書の文章記入欄がお決まりのひとことで片付けられてしまうケースが殆どなのです。

年金申請の際は、他に「病歴・就労状況等申立書」という請求者が自分で記入する書類も必要になります。記入方法はよく確認し、清書前に医師の診断書と齟齬がないか確認しましょう。

●整理しておく事 (時系列で)

・受診歴、病歴、手術歴
・自覚症状
・体調が悪い時の様子
・仕事の様子(どのような内容の仕事をどうこなしているか)
・職場にお願いしている配慮
・自分にはできない事

●提出前の診断書、申立書は必ずコピーを取って保存しましょう

提出書類の準備が整ったら(ここまでで最短1~2か月)、年金請求書と各種添付書類をまとめて年金事務所に提出します。提出後のフローは以下のとおりです。請求書提出から、障害年金の受給までにかかる期間はおおよそ3~6カ月が目安です。

引用:障害年金の制度をご存知ですか?がんや糖尿病など内部疾患の方も対象です。

障害年金が不支給になったら

障害年金の申請が認められず「不支給」となるケースがあります。

新規に障害年金を申請した人の支給決定割合は、障害基礎年金は70~80%台、障害厚生年金は80~90%台で全ての人が受給できるわけではありません。

不支給になってしまう原因には以下が考えられます。

  • 障害年金を受給できる障害の状態に達していなかった
  • 提出した資料に不備があった
  • 医師の診断書に適切に病状が記載されていなかった

もし不支給通知が届いてしまったら、書類を受け取った日から3か月以内に審査請求書や再審査の手続きをおこないます。不支給の理由や手続きの方法については、最寄りの年金事務所に確認しましょう。

自分で申請できないときにサポートを受ける方法

障害年金の支給を受けるには、本人もしくは代理人が支給申請を行う必要があります。しかし体調が悪かったり、初めて手続きをしたりする場合にはお一人での申請が難しいケースもあるでしょう。

障害年金の申請サポートは、年金事務所やかかりつけ医療機関や福祉事務所のソーシャルワーカーから受けられます。また有料にはなりますが、社会保険労務士や行政書士など障害年金の申請サポートを専門におこなう専門家もたくさんいます。一度不支給になると覆すのは難しく、診断書料が余分に必要になる事もあります。

お一人での申請が難しい方、申請に困っている方、不支給通知が届いてしまった方はインターネットサイトで「障害年金 申請 サポート」と検索してください。

心臓疾患の人は障害年金の受給を検討しよう

心臓疾患は障害年金の受給対象疾患です。ペースメーカー植え込みや弁置換手術のように治療内容によって障害年金の等級が決まるケースと、検査結果や病状によって障害年金の等級が決まるケースがあります。

障害年金は自分で請求しないと受給できない制度です。提出書類も多く受給までに時間もかかるため面倒だと申請しない方もいます。医療費や生活費への不安を軽減し、治療に専念するためにも心臓疾患の方は障害年金の受給を検討してみてはいかがでしょうか?

※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

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大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし医療ライター・監修者として活躍中。https://odaakari.com/