心室中隔欠損症とはどんな病気?大人になってからの変化や仕事上の注意点を解説

公開日 2023年5月30日 最終更新日 2024年2月18日

子どもが生まれつき心室中隔欠損症だと、今後どのような生活を送らせてあげればいいか不安になりますよね。心室中隔欠損症は適切なタイミングで治療をすれば、その後も普通の子どもと同じような生活を送りやすくなります。しかし重症だったり、成人後も症状が再発症したりする場合、医師の指示にしたがって身体に負担のないような生活を送る必要もあるでしょう。

この記事では心室中隔欠損症についてと、年代ごとの症状や生活上の注意点などについて解説します。心室中隔欠損症の経過やその後の対応についておさえておくことで、どのような生活を送ればいいかが明確となるでしょう。

 

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監修:谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

【目次】

心室中隔欠損症とは

心室中隔欠損症とはどのような疾患なのでしょうか。ここでは概要について解説します。

心臓の部屋に穴が開く先天性心疾患

心室中隔欠損症とは、心臓にある「心室中隔」に穴があく先天性心疾患(生まれつき持った心臓の疾患)です。心臓はそれぞれ左右の「心室」と「心房」の計4つの部屋に分かれています。そのうち、左右の心室の間を隔てる壁のようになっているのが心室中隔です。

心室中隔に穴があくことで血液の流れが不規則となり、さまざまな症状を引き起こすのが心室中隔欠損症の特徴といえるでしょう。先天性心疾患は100人に1人の割合で起こり、心室中隔欠損症はその約20%を占めるといわれています。そのため、心室中隔欠損症は決して珍しい病気ではないことが分かります。

先天性心疾患については、こちらの記事「先天性心疾患の人が仕事をするには?向いている仕事内容や職探しのポイントを解説」で詳しく解説しています。

心室中隔欠損症の症状

心室中隔欠損症の症状には以下があげられます。

  • 多呼吸
  • 心不全への合併
  • 手足の冷感
  • 体重の減少

症状は疾患が出現する時期や程度によっても異なります。心室中隔の穴が小さければ無症状あるいは軽度にとどまり、支障なく生活を送れるケースもあるでしょう。程度によっては成長とともに穴が自然に塞がることもあります。

一方で、穴が大きければその分症状が重くなる可能性も高くなり、呼吸をしたり、ミルクを飲んだりすることも困難となる場合もあります。

心室中隔欠損症の原因ははっきりとわかっていない

心室中隔欠損症の原因は明確となっているわけではありません。遺伝子の異常や環境によるものなど、さまざまな原因が絡み合うことで起こる疾患だと考えられています。原因の候補としてあげられるのは以下の通りです。

  • 染色体の異常
  • 先天性のウイルス疾患
  • 母体の持つ疾患
  • 飲酒や喫煙、服薬による影響

遺伝性や家族性による心室中隔欠損症はほとんど認められていません。そのため、親が心室中隔欠損症だからといって、子どもが先天性心疾患となる確率が高まるわけではないです。

心室中隔欠損症の治療

心室中隔欠損症にはどのような治療があるのでしょうか。ここではおもな治療法と、その後の予後について解説します。

欠損が大きい場合は手術が必要

心室中隔欠損症による穴の程度が大きい場合は手術をして、穴を塞ぐ必要があります。具体的には、人工心肺を用いて心停止した状態で欠損した場所にパッチを当てて塞ぐ方法です。穴が大きく閉じにくかったり、人工心肺の使用が困難だったりする場合は、欠損箇所を塞がずに肺の血流を制限する手術をするケースもあります。

穴が小さく目立った症状がみられない子どもには、手術や服薬による治療をせずに経過観察することもあります。中には自然と穴が塞がることもあり、治療をせずとも通常通りの発育が期待できる子どももいるでしょう。

治療後の予後は良好

しかし心室中隔欠損症による穴が大きく、肺高血圧や心不全の状態がみられていると、治療後もそれらによる症状が残ることもあるでしょう。

治療後は医師の話をよく聞き、どのような対応を取ればいいのかを把握しておくことが大切です。

心室中隔欠損症の年代ごとの違いと注意点

年代ごとの心室中隔欠損症の症状や生活で気をつけることにはどのような違いがあるのでしょうか。ここではそれぞれの注意点も含めつつ、「新生児・幼少期」と「成人後」の2つに分けて解説します。

新生児・幼少期

新生児・幼少期では、心室中隔欠損症の程度によって症状の重さは変化し、治療のタイミングも異なります。症状が進行すると運動の制限が必要となるケースもあるでしょう。

穴が小さければ身体への影響は少なく、やがて自然に閉じることもあります。適切な時期に治療をした後、明確な症状がなければ運動の制限はないといわれています。心室中隔欠損症による症状が残っている場合は、医師の指示のもと運動制限を設けて定期的な通院治療が必要です。

大人になってから

生まれつき心臓病を抱えて、治療後に成人することを「成人先天性心疾患」と呼びます。子どものときに心室中隔欠損症を治療しても、その後も健康に生活できるかどうかは確実ではなく、定期的な検査が必要です。中には大人になったあとの変化によって、再び心室中隔欠損症の症状が現れることもあるでしょう。

成人してから心不全をはじめとした身体の症状が現れてきた場合は、再び運動の制限や治療の継続をする必要があります。心室中隔欠損症の治療をしたからといって油断せず、身体の異常を感じたらすぐに医療機関へ受診することが大切です。

成人後に運動制限がある方におすすめの仕事

心室中隔欠損症を治療して成人後も運動制限がある方は、仕事も身体に負担のかからないものを選ぶ必要があります。そのような方におすすめの仕事は、デスクワークを中心とした職種です。デスクワークには以下のような仕事があります。

  • コールセンターのオペレーター業務
  • データ入力の仕事
  • 事務職
  • Webデザイナー
  • Webライター

このように、比較的負担の少ない仕事を選択すれば、身体の不調もきたしにくくなります。どこまで運動制限を設けるべきかは症状によるので、事前に医師と相談したうえで、適切な仕事選びをしましょう。

安定して仕事を継続するためには、自身の体調や身体を第一に考えて行動することが大切です。

心臓病の人の働き方については、こちらの記事「心臓障害(心臓病)の方が転職すべき職場とは?体に負担をかけずに働く方法やおすすめの仕事を解説」で詳しく解説しています。

心室中隔欠損症の概要をおさえておこう

心室中隔欠損症は適切な治療をすれば予後は良好とされており、他の方と同じような生活が期待できます。しかし、心室中隔欠損症による穴が大きい場合は、症状が残ることもあります。

子どもの頃に治療しても、成長するにつれて症状が再び現れるケースもあるでしょう。その場合は、医師が指示する運動制限について注意する必要があります。大人になって仕事をする際も、身体に負担のかからない職種を選択することが大切です。

5年間理学療法士として医療に従事し、全国規模の学会で演題発表の経験あり。2021年からフリーランスとして独立を決意し、現在は専業のWebライターとして活動中。過去に先天性の心房中隔欠損症を発症したが、早期治療済み。ゆるく自分らしく生きることが人生の目標。(Twitter:@kaisei_writer)