公開日 2023年10月31日 最終更新日 2024年2月18日
みなさんは冠動脈ステントという言葉を耳にしたことはありますか?冠動脈ステントは、狭心症や心筋梗塞など、命に関わる病気に対する治療法の一つです。
「胸の痛みで受診したら、冠動脈にステントを入れることになった」「心臓にステントを入れた後もこれまで通りの生活はできる?」
とお悩みの方に向け、冠動脈ステント留置術後の生活で気を付けるべきポイントについて解説していきます。術後の生活を安心して送るために必要な知識をお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
冠動脈ステント留置術とは
冠動脈ステントは、経皮的冠動脈形成術(PTCA)という狭窄・閉塞した心臓の血管(冠動脈)を内側から広げる治療の一つとして行われます。
内側から広げたあと、再閉塞や再狭窄のリスクを低減させるための治療法です。
ステントは小さな金属の筒をメッシュ状にしたもので、心臓の血管が狭窄・閉塞した部位に留置することで、血管の開通性を保持します。
留置術後は、ステントが血管に留まってくれるので、血管の再狭窄・再閉塞を予防する治療です。
ステントには2つの種類があります。
- ベアメタルステント:従来の金属からできており、再狭窄予防のための薬剤は使用されていないもの
- 薬剤溶出性ステント:再狭窄のリスクを予防するため、特殊な薬剤が塗布されたもの
治療対象となる疾患の状態により、ステントの種類を選択します。
治療対象となる疾患
冠動脈ステントの治療対象となる疾患は以下の通りです。
- 狭心症(安定または不安定)
梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって、胸部に不快感または圧迫感を生じる病態。
典型的なものでは、労作や精神的ストレスにより症状が増悪し、安静や薬剤投与により症状が軽快します。
狭心症については、こちらの記事「狭心症の人に仕事の制限はある?治療を継続しながら働く方法を解説」で詳しく解説しています。
- 急性心筋梗塞
心臓の冠動脈が急性閉塞することで、心筋が壊死してしまう疾患。胸部不快感や呼吸困難感などの症状が出現します。
痛み方としては狭心症の症状と似ていることもあるが、急性心筋梗塞の場合、ほとんどは安静や薬剤の投与で症状が軽快することはありません。
心筋梗塞については、こちらの記事「心筋梗塞になっても仕事は続けられる?後遺症の有無や無理なく働ける方法を解説」で詳しく解説しています。
上記のように、心臓の血管が細く狭くなったり、閉塞したりしてしまった部分に対して、ストロー状のステントを挿入することで、血液が再び流れるようにするのが冠動脈ステント留置術です。
冠動脈ステント治療の流れ
冠動脈ステント留置術は、一般的に標準治療計画という治療スケジュールに沿って治療が行われます。冠動脈ステント治療の標準治療計画のおおよその流れをご紹介します。
術前
- 1. 治療前日に入院し、治療や入院についての説明があります
- 2. 治療の前に、カテーテルを挿入する部位の除毛など、術前処置を行います
- 3. 身体の状態を確認するため、採血やレントゲン、心電図などの検査を行います
術当日
- 1. 前日もしくは当日から、点滴や内服処方を受けます
- 2. 術中は安静などの過ごし方に注意が必要のため、詳しい説明を受けます
- 3. 準備が整ったら冠動脈ステント留置術が始まります。治療は局所麻酔下で行いますが、痛みや気になることがあった際は、動かずにその場で声に出して伝えるようにしましょう
術後
- 1. 術後はカテーテルを穿刺した部分から出血するリスクがあるため、穿刺した部分をバンドで圧迫止血します。方法によって異なりますが、一定時間をおいて圧を解除していきます。その際、痛みや痺れ、出血などの症状が出現した場合は、すぐに看護師へ相談するようにしましょう
- 2. 術後は心電図モニターを装着し、治療後の心臓の様子を観察します
- 3. 止血バンドが外れてからは、安静度が解除され退院に向け、生活に慣れるよう過ごしていきます
- 4. 術前より内服薬が処方されるため、術後も医師の指示に従い、正しく内服するようにしましょう
- 5. おおよそ3泊4日ほどで退院となります
治療内容や計画は病院により異なることもあるため、主治医や看護師に確認する必要があります。
冠動脈ステント留置術後の生活は
これまで冠動脈ステントや冠動脈ステント治療の流れについてご紹介しました。心臓に金属を入れるといった経験に馴染みがない人がほとんどかと思います。
冠動脈ステント治療を受けた後の生活は、どんなことに注意したら良いのでしょうか。くわしく紹介していきます。
手術後の観察ポイント
まずは、手術後の観察ポイントです。冠動脈ステント治療そのものは3泊4日ほどの入院期間となります。
冠動脈ステントは、血管を広げ狭窄や閉塞を治療するものではありますが、そこで注意しなくてはならないのは、再狭窄・再閉塞のリスクがあるということです。
冠動脈ステント治療は、治療後の再発を完全に予防するものではありません。ステントは身体にとって害のあるものではないですが、体内の異物を排除しようとする生体反応から、ステント内で再度狭窄や梗塞が起こってしまう可能性があります。
それでは、具体的にどのような症状に注意し観察したら良いのか、くわしく説明していきます。
胸部症状
冠動脈ステント治療後、動悸や息切れ、胸痛などの症状があった場合、冠動脈の再狭窄・再閉塞が起きている可能性があります。
再狭窄・再閉塞のリスクがある時期は、術後数週間後〜数年後と、人によってさまざまです。そのため、日頃から胸の違和感や気になるところがないか気にする習慣を持つことが大切です。
皮膚トラブル
冠動脈ステント治療で使用するカテーテルは、通常の採血や点滴の針よりも直径がやや太いものを用います。
そのため、術後は穿刺した箇所が一時的な傷となりかさぶたができます。糖尿病の持病や栄養状態が低下している方は、傷の治りが遅くなる恐れがあるため、術後の傷の治りには注意が必要です。かさぶたは無理にはがさず、自然に取れるのを待ちましょう。
また、退院後も皮膚を清潔に保ち、感染が起きないようケアすることが大切です。
日常生活や仕事への影響はある?
術後、医師からの特別な指示がない限り、これまで通りの日常生活や仕事をすることが可能です。しかし、一度壊死してしまった心筋は元には戻りません。
そのため、術後の日常生活や仕事は、体に過度な負担がかかることがないよう配慮していく必要があります。具体的にどのように気をつけたら良いのか、詳しく説明していきます。
食事
冠動脈ステント治療の対象となる狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は、主に動脈硬化が原因となって起こります。
そのため、動脈硬化を促進させる因子となる高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病などを予防する食事療法を取り入れることが再発予防となります。
- 減塩:1日に摂取する食塩量は一般的に6g未満*1といわれています。医師や栄養士の指示の通りにしましょう。
- 低脂肪・低コレステロール:高脂肪・高コレステロールの食材は、動脈硬化を促進させる因子です。なかでも、バターやラード、ココナッツ油などは飽和脂肪酸を多く含むため、日常的に使用すると過剰摂取となりやすいでしょう。そのため、飽和脂肪酸は総エネルギー量の7%*2以下を目指すことが大切です。
- 適正なエネルギー量をとる:1日に摂取するエネルギー(カロリー)量を適正にし、体重管理を行うことが大切です。
以下に適正エネルギー量を算出するための計算式をご紹介します。
- 適正エネルギー量計算式:エネルギー摂取量(Kcal)=標準体重(Kg)×身体活動量(Kcal)
- 標準体重計算式:標準体重(Kcal)=身長(m)×身長(m)×22・・・BMI
- 身体活動量の目安
軽い労作 | デスクワークが中心・主婦 | 25-30Kcal |
普通の労作 | 立ち仕事が多い職業 | 30-35Kcal |
思い労作 | 力仕事の多い職業 | 35Kcal |
出典:厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)
ご自身の仕事内容や生活の様子から活動量を算出し、1日のエネルギー量を適切に摂ることが虚血性心疾患の再発予防に役立ちます。
運動
冠動脈ステントを留置する状態の場合、多くは術前から心機能低下に伴い運動能力が低下している状態が見受けられます。そのため、術後は早い段階から心臓リハビリテーションを行い、社会復帰を目指していくことが大切です。
退院後は、医師からの特別な指示がない限り運動を行うことが可能です。しかし、負荷がかかりすぎてしまうと、心臓へダメージを与えかねません。再発予防のために運動は必要な生活習慣ですが、ご自身の心臓の状態と日常生活の様子のバランスをとり、無理のない範囲で運動習慣を楽しむようにしてください。
また、運動量の程度で不明な点は、主治医へ相談しアドバイスをもらうと良いでしょう。
仕事
冠動脈ステント留置後でも、原則的にこれまで通りの就労が可能です。しかし、虚血性心疾患と生活習慣の関連は深く、規則正しい生活を送ることが重要とされています。
そのため、心臓の負担になりやすい重労働や昼夜のバランスが崩れる不規則なシフトなどは控えた方が良いでしょう。
心臓病を抱えながら働くためのポイントについては、こちらの記事「心臓病でも出来る仕事とできない仕事の違いとは?向いてる仕事に転職する方法も解説」で詳しく解説しています。
これらのポイントに注意し生活することは、再発予防だけでなくその他の疾病予防にもつながります。ご自身の健康管理の一つとして、ポイントを押さえ安心して日常生活を送れるようにすることが大切です。
冠動脈ステント留置後の生活で困ったときは
心臓は症状が出現してからすぐに対応しなければならないことが多い臓器です。
ささいな違和感や症状でも、我慢したり放置したりすると、命に直結してしまいます。生活する上で困ったことがあったときに適切に対処できるよう、一つひとつ解説していきます。
症状が出現したとき
再狭窄・再閉塞のリスクがあるため、以下のような症状が出現した場合はすぐに受診するようにしましょう。
- 胸痛、胸部絞扼感(締め付けられる感覚)
- 冷や汗
- 悪寒
- 放散痛(歯・左肩・腕などの痛み)
これらの症状は狭心症や心筋梗塞の症状を示しています。
主治医へ相談する
前項でご説明した症状は緊急性のある症状です。退院後にこのような症状が出現し、安静にしても改善しない場合、再狭窄・再閉塞を疑う必要があります。
心当たりのある症状や気になる症状があった際には、すぐに受診しすることが必要です。
病気を繰り返さないためにできることは?
冠動脈ステント治療が必要な疾患の中でも、とくに心筋梗塞においては、生活習慣病との関連が高いといわれています。
一度狭窄・閉塞した冠動脈へステント治療を行っても、心筋梗塞のリスク自体を低減させなければ、再び狭窄・閉塞してしまうことがあります。病気を繰り返さないために、気をつけていくべきポイントについてご紹介します。
生活習慣を振り返る
冠動脈ステント治療が必要な疾患の中でも、特に心筋梗塞は生活習慣から見直す必要があるといわれています。再発を防ぐために、以下のポイントを押さえていきましょう。
- 食生活の見直し
- 禁煙
- 飲酒の頻度の見直し
- 運動習慣の見直し
これらの内容は生活習慣病予防としても知られています。虚血性心疾患は生活習慣病との関連があります。冠動脈ステント治療のタイミングで、生活習慣の振り返りを必ず行いましょう。
内服や通院を自己中断しない
冠動脈ステント治療の特性上、血管に金属を留置しているため、体が金属を排除しようとする働きにより血栓ができやすくなります。
そのため、血栓予防として、複数の種類の抗血小板薬を内服します。この薬を自己中断してしまうと、血栓ができやすくなってしまい、再狭窄・再閉塞の原因となる動脈硬化が進行してしまうのです。
処方された内服薬は決して自己判断で止めたりせず、用法用量を守るようにしましょう。
また、処方した抗血小板薬がきちんと効いているか、心臓の動きに問題はないかなど、治療後の状態を確認するために外来通院の予定が組まれます。
外来通院を自己判断で止めてしまうと、状態の観察ができず異常の早期発見が難しくなります。再狭窄・再閉塞は命に関わる状態のため、医師からの指示がある限り、必ず通院するようにしましょう。
冠動脈ステントは命に直結する病気を救う治療法
冠動脈ステント留置後の生活で気を付けるべきポイントについてご紹介しました。
冠動脈ステントは命に直結する病気を救う治療法ですが、再発するリスクもあることを念頭におき生活することが大切です。
冠動脈ステントや冠動脈ステント留置術後の生活において、どんなことに注意したら良いのか把握することで、安心して日常生活を送ることができるでしょう。
ぜひ、本記事を健やかな毎日を過ごすための参考にしてみてください。
※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。