公開日 2025年8月16日 最終更新日 2025年8月16日
先天性心疾患(右室性単心室)を持ちながら、「海外で暮らしてみたい」とずっと夢見ていた10代のわたし。
その夢が叶ったのは19歳のとき。短期大学の語学研修で3週間イギリスの小さな街でホームステイする機会を得られました。滞在期間はたった3週間でしたが、心疾患と向き合いながらも「海外でも暮らせるんだ」と感じた大きな経験になりました。
「病気があるから無理かも」そう思っている方にこそ届けたい、私の留学経験と先天性心疾患を持つ方が海外留学を成功させるための準備のポイントをまとめました。
※筆者留学時の一コマ
はとらくでは、心臓病に関する寄稿を募集しています。当事者や医療・福祉の現場にいる方の声を、編集部がサポートのうえ発信しています。

執筆:Mariana
北海道生まれ。右室性単心室により3歳の時にフォンタン手術を受ける。障害者雇用枠で様々な企業を渡り歩きながら、ヘアパーツモデルを経験。旅行が大好きで、日々航空マイルを貯めるためポイ活に勤しむ。所有資格:オーガニック健康カウンセラー、オーガニック・コスメアドバイザー、ユニバーサルマナー検定3級 執筆記事一覧
【目次】
留学前に考えたい“私たちの課題”
先天性心疾患を持つ私たちが海外留学を考える際、健常な方とは異なるいくつかの「課題」があることを知っておく必要があります。これらを事前に把握し、対策を立てることで、安心して留学に臨めます。
①定期通院があること
術後の経過観察など、定期的に病院で診察を受ける必要がある人も多くいます。特に半年以上の長期留学を考える際は、渡航期間中の診療体制を考慮する必要があります。
②現地の医療体制について
受け入れ先の地域に先天性心疾患を診てもらえる病院があるかどうかを探すのが難しいことも。当時の私は3か月に1回は通院していましたが、出発前に英文の診断書を主治医に依頼し作成してもらいました。
その診断書には、病名、術歴、現状の状態、服薬内容、渡航中の注意点などを英語で書いてもらい、留学コーディネーターに提出していました。
当時の滞在先であったレミントンスパ (イギリス・ウォーリック州)には大学附属の病院がありましたが、「小児循環器(成人先天性心疾患)に詳しい医師」がいるかは不明でした。
なのでホームステイ中に何かあってもすぐに対応できるように救急時にかけるべき番号(イギリスでは999)をメモして携帯していました。
③服薬があるor 日常的に在宅酸素を行なっている場合
定期的に通院している場合、心臓の薬が処方されますが海外だと同じような薬が処方されるかどうかわかりません。私は3週間のホームステイでしたが、出発前にゆとりを持って病院から薬をもらい日数分よりも多めに持って行っていました。
日頃、ご自宅で酸素を吸入されている学生さんは、まずは主治医に留学のことを相談するようにしましょう。※筆者は自宅で酸素を吸入していません。
そして必ず留学エージェントもしくは大学(学校に留学プログラム制度がある場合)にも必ず相談しましょう。
海外での医療費は日本と比べると高額になることも少なくありません。私が滞在したイギリスではNHS(国民保健サービス)があるとはいえ、緊急時以外の医療サービスは自己負担となるケースがあります。そのため、心疾患があることをカバーできる海外旅行保険に加入することを強くお勧めします!
ただ、保険会社によっては先天性心疾患や既往症があると補償対象外になることもあるため、事前に問い合わせて確認するのが重要です。
④先天性心疾患に対して理解に寄り添ってもらえるか
充実した留学生活を送るには、現地の学校や寮、ホームステイ先などに疾患のことを必ず共有するようにしましょう。
私自身も、あらかじめ渡航前に主治医に英文の診断書を用意してもらい、現地のカレッジに提出しました。そして、ホームステイ先のホストファミリーにも、運動制限があることや疲れやすいこと、服薬があることも共有しました。
【関連コラム】
海外留学するために準備しておくこと
①海外留学へ行く目的を明確化する
日本にとっては現在(2025年7月時点)、物価高で且つ円安の時代の影響により海外留学はより費用がかかる印象があるかもしれません。「自分がどうして留学する必要があるのか」、「留学でないと成し遂げられないことは何か」、明確な目的をもつことで「行って良かった」と思える体験になるのも事実です。将来のキャリア、語学習得、自分を試したい—目的が見えていると、不安にも向き合いやすくなります。
私の場合は海外で生活を体験したい、海外の学校で行なわれている授業に参加してみたいという軽い気持ちではありましたが、ホームステイという形で外国に住み、そして現地の学校に通うという特別な経験ができて私の留学生活は大変満足しました。
② 受け入れ先の医療体制が整っているかを確認
留学先の地域で、自分の病気を理解し診てもらえる医療機関があるかどうかは非常に重要です。特に先天性心疾患は専門性が高いため、主治医に相談するかもしくは事前に大使館HPにて調べておくようにしましょう。
③ 服薬・医療管理が必要な場合
服薬が欠かせない方や、在宅酸素などの医療管理がある場合、留学先での継続が可能かを確認する必要があります。また服薬は多めに持参し、種類や用量のメモも忘れずに。特に長期留学を検討される場合、留学先の医療制度を必ずチェックしましょう。
④自分の心疾患のこと、制限されていることを英語で説明できるようにしておく
運動制限、疲れやすい、重たいものを持てないなど、いざという時に自分を守るのに役立ちます。
【具体的なフレーズ例】
- “I have a congenital heart disease.” (私は先天性心疾患を持っています。)
- “I get tired easily, so I might need to rest sometimes.” (疲れやすいので、時々休憩が必要になるかもしれません。)
- “I cannot carry heavy things.” (重いものを持つことができません。)
- “In case of emergency, please refer to this medical report.” (緊急時には、こちらの診断書を参照してください。)
これらのフレーズを覚えておくだけでなく、実際に声に出して練習しておくと、いざという時にスムーズに伝えられます。
⑤クレジットカードを申請する
近年、多くの先進国はキャッシュレス決済する店舗が増えているため、1枚持っておくと便利かもしれません。ちなみに私がホームステイした2012年は、今ほどキャッシュレス化が進んでいなかったため現金(当時はイギリスポンド紙幣(£)とユーロ紙幣(€)を持っていました。※イギリスは2020年EUから脱退したため、現在はポンド(£)しか使えません。
⑥学生ビザの申請(留学先の国によって制度が異なります)
心疾患有る無しに関わらず、学生ビザの申請が必要です。自分が通う学校や留学エージェントに確認が必須になります。
⑦日本らしいお土産を準備する(ホームステイの場合)
折り紙や和風のキーホルダー、おせんべいなどのお菓子を用意すると会話のきっかけにもなります。
お世話になったホストファミリーと同居していたベトナム人留学生に、ちらし寿司とお味噌汁を振舞いました。
充実した留学生活を送るために・・・
私たち先天性心疾患者にとって、人生の選択をする際に健常な方よりも多くの壁に直面することは少なくありません。。学生時代だけでも沢山ありますが、進学や就職、そして海外留学といった様々な決断があります。しかし、「将来英語を活かした仕事に就きたい」「短期間でも海外にチャレンジしたい」と考えている心疾患を持つ学生の皆さんには、ぜひこの経験に挑戦してほしいと心から願っています。
適切な準備と心構えがあれば、先天性心疾患があっても海外での生活は可能です。確かに不安なことはたくさんあるかもしれませんが、一つ一つの課題に丁寧に向き合い、周囲の理解とサポートを得ることで、その不安は乗り越えられます。
人生は一度きりです!悔いの残らない学生生活を送るために、一歩踏み出してみませんか?あなたの勇気が、きっと誰かの希望になります。