フリーランスもひとつの働き方~先天性心疾患の私が見つけたライターという職~

公開日 2022年9月6日 最終更新日 2024年1月16日

面接で持病を理解してもらえなかったり、病気を理由に職場で思うように働けなかったりして、会社員という働き方が困難な人は意外に多いもの。

現に、私もそうした歯がゆさを抱え、未来の不安に怯えていましたが、フリーランスという働き方を知ったことにより、心が楽になりました。

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執筆:古川 諭香

フリーライター。単心室・単心房のため3度の手術を経験。根治は難しいものの、フォンタン手術後、日常生活が普通に送れるように。愛猫の下僕で本の虫でもある。(Twitter:@yunc24291)執筆記事一覧

【目次】

不採用の連続と職場での孤立により「会社員」を断念

退職

先天性心疾患は、目に見えない病気です。だから、体の状態や日常生活でできることを伝えるのが難しい。私の場合は、面接時に体調が良好なことや日常生活が普通にこなせることをどれだけ説明しても信じてもらえず、不採用の連続。

「車いすのように目で見て分かる障害ではないから、言っていることをどこまで信じたらいいのか分からない」と、面接官からはっきり言われたこともありました。

障害者の自分は、正社員になんてなれないんだ…。そう絶望し、バイトに明け暮れていたところ、お客さんからスカウトされ、家族経営の小さな工場で正社員として雇用してもらえることに。その会社は持病を知った上で、障害者雇用ではなく、健常者と同じ条件で雇ってくれました。

その後会社が軌道に乗り、従業員数が増加。それにより、私は仕事が忙しいのにも関わらず、定期健診のたびに休暇を貰わなければならないことに罪悪感を抱くようになりました。

また、従業員が増えたことによって同僚に自分の口から持病を説明する機会を作れなくなり、病気を正しく理解してもらうことが困難になりました。私は事務職を任されていましたが、時折、社長や専務から頼まれ、工場内の作業を手伝うことも。

しかし、私が心臓病であるという話だけがひとり歩きしていたため、体に負担がかからない業務でも「何かあったら責任がとれないから、手を出さないで」と同僚から言われるようになり、次第に社内で孤立していきました。

そんな日々を送っていたところ、朝、制服に袖を通すだけで涙が出るようになってしまい、退職を決意。その後は、「正社員雇用」から逃げるように、当時付き合っていた彼と結婚。パートタイマーとして週4日、1日6時間ほど働くようになりました。

しかし、誰かのお金に頼らず、暮らしたいという自立心は自分の中から消えませんでした。結婚から3年ほど経った頃、夫の金遣いが荒くなり、家計が苦しくなってきたため、もう一度、「働くこと」に向き合おうと思うようになりました。

自分の文が「お金」になる体験をしてライターを目指すことに

ライター

正社員として雇用されることの難しさは、これまでの経験で痛いほど身に染みていたので、しばらくはパートを2つ掛け持ち、家計を支えることに。しかし、それでも貯蓄ができず、残高がマイナスになってしまう月も少なくありませんでした。そこで、パートがない日に自宅でできる在宅ワークを探そうと思い立ちました。

まずは、お小遣い稼ぎを謳うアンケートアプリをダウンロード。アンケートの多くは、いくつかある選択肢の中から当てはまるものをチェックするというものでしたが、まれに体験談が募集されることもありました。

手間がかかるからか、体験談への報酬は通常の回答よりも高額。金額の差は、わずか数十円ほどでしたが、少しでもお金を稼ぎたかった私にとっては、その微々たる差がとても大きく感じられ、積極的に体験談の案件を引き受けました。

そうした中で感じたのが、自分の書いた文章がお金になるという驚きと感動。もともと本を読むことが好きで、学生時代には何度か読書感想文コンクールで賞を受賞した経験もありました。文を書くことを生業にして生きていくのもありなのではないかと思うようになり、「フリーライター」を目指すことにしました。

文字単価1円未満の案件で実績を作る日々

そんな目標を立てたものの、大学は中退し、文学部に通っていたわけでもなければ、出版社での勤務経験もない自分。たとえ、営業活動をしてたとしても、スキルも人脈も無い素人が仕事を取れないことなど目に見えていました。そこで、クラウドソーシングを活用。文字単価1円に満たない記事を執筆し、営業活動のとき、企業側に胸を張って提示できる「実績」を作っていくことにしました。

実績を作っていくうえで意識したのは、自分の強みとなるジャンルを築くこと。私の場合は猫や読書が好きで、ほかにもファッション、恋愛に関心があったため、そのジャンルの案件を受注し、実績を積み上げていくことにしました。

とくに力を入れたのが、猫関係の記事。当時はまだ、ネットに医師監修の医療記事がなかった時代。動物を対象にした記事でも命に関わることがあるため、誤情報なく伝えたいと思い、愛玩動物飼養管理士やキャットケアスペシャリストといった資格を取得。正しい情報を与えられるライターになれるよう、努力しました。

ライター業は基本的に歩合制であるため、執筆した記事数に応じてお金がもらえます。当時は単価が低かったため、多いときで1日10記事、1ヶ月で200記事ほど執筆し、生活費を稼ぎながら実績を積み上げていました。

すると、徐々にクライアントから継続依頼をもらえるようになったり、クラウドソーシングでプロライター認定されたりするなどの嬉しい変化が。地道な努力が少しずつ実を結び始めてきて、自分の未来も少し明るくなったように感じました。

しかし執筆記事の中には、報酬金額に見合わない労力をかけなければならない記事も。正直きついと思うこともありましたが、こうした経験のおかげで得られた「高クオリティの記事を短時間で仕上げることができる」というスキルも自分の強みになっていきました。

クラウドソーシングを卒業!憧れの「フリーライター」になれた

フリーランス 

クラウドソーシング内での受注件数が230件を越えた頃、自分の中で心境の変化が。これまで積み上げた実績を提示し、クラウドソーシング以外で仕事を探したくなったのです。

そこで、ネットの検索やTwitterなどでライター募集情報を調べ、気になる媒体に応募。媒体にライター募集情報が掲載されていなくても、書きたいと思えば、メールで尋ねていました。

次第に執筆させてもらえる媒体が増えていき、いくつかの大手出版社と業務委託契約を結べるまでに。単価もあがっていき、1文字1円にも満たなかった私の記事はいつしか、1記事当たり数万円もらえるまでになりました。

また、動物関係の資格を所有しているため、ライター業だけでなく、記事監修の相談を受けるようにもなり、いまでは他ライターさんの編集を手掛けることもあります。

恥じずに、「フリーライター」と名乗れるようになる。7年前、自分の心に誓ったその目標は、会社員に囚われない働き方を見つけるきっかけにもなってくれました。

働き方はもっと自由でいい

仕事

会社員という働き方が困難だと未来が想像できず、不安が募るもの。この先、自分で自分を養っていけるのだろうかと怖くなります。けれど、そうした不安を抱いたとき、フリーランスという働き方もあるのだと思えたら、心が少し楽になるはず。

フリーランスは、まだまだ会社員よりも社会的な補償が薄い働き方です。しかし、この道を選ぶ人が増えていけば、今後、制度もよい方向へと変わっていくはず。ライターに限らず、今はYouTuberやインフルエンサーなど、自分自身や持っているスキルを商品にできる働き方がたくさんあるので、やってみたいことやできそうなことに貪欲にチャレンジしてみると、未来が変わっていくかもしれません。

働き方は、もっと自由でいい。そう思えるようになり、就労の悩みから解放される人が増えることを願っています。

フリーライター。単心室・単心房のため3度の手術を経験。根治は難しいものの、フォンタン手術後、日常生活が普通に送れるように。愛猫の下僕で本の虫でもある。(Twitter:@yunc24291)