公開日 2022年9月8日 最終更新日 2024年2月18日
先天的、もしくは事故や病気によって後天的に障害を負ったときに交付される身体障害者手帳。持っていることで、障害者雇用で働く権利が得られたり、さまざまな公共サービスの割引や医療費の助成などが受けられる便利なものです。
内臓に関連する内部障害にも適応されるのですが、同じ障害でも、病状によって「等級」が異なります。では、内部障害の等級はどのように判断されるのでしょうか?
今回は、身体障害者手帳の取得に該当する内部障害と、等級について説明します。あわせてこれから手帳を取得する方に向けてメリットや注意点、取得方法についても解説しています。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
内部障害とは
内部障害とは、見た目に分からない内臓に関連する「内部の障害」によって体の機能が低下している状態を指します。日本では「身体障害者福祉法」によってその定義が定められています。
内部障害の分類は以下の7つです。
- 心機能障害
- 腎臓機能障害
- 呼吸器機能障害
- 肝臓機能障害
- 膀胱・直腸機能障害
- 小腸機能障害
- ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害
これらは、障害の重さによって等級が分かれます。
心臓機能障害とは
心臓機能障害とは、心臓の障害によって日常生活や、社会生活に制限がある状態のことをいいます。
心臓機能障害は、
- 弁疾患
- 虚血性心疾患
- 心筋疾患
- 難治性不整脈
- 大動脈疾患
- 先天性心疾患
に分かれており、ペースメーカーや除細動器の埋め込みの有無や、症状、検査所見によって重症度が判断されます。
「心臓の病気」と聞くと、ペースメーカーをイメージされる方も多いのではないのでしょうか?ここでは、ペースメーカーについて少し深掘りします。
ペースメーカーの対象となる適応疾患
ペースメーカーの適応となる病気は下記です。
- 洞機能不全症候群
- 房室ブロック
- 洞機能不全症候群
心臓は「洞結節」という部位から発せられる電気信号によって動いています。上記の疾患は、心臓のどこかに異常があり電気がうまく伝わらない状態です。ペースメーカーは、外から電気刺激を与えて正常な動きをうながす医療機器です。
ペースメーカー利用者の生活上の注意点
以下は医療機器メーカーである「日本ライフライン」によるペースメーカーの日常の注意点です。
いくつかの注意点がありましたが、より日常生活に関連するものをピックアップしました。
- MRI・CT・レントゲンなどの医療機器の使用
- IH調理器、IH炊飯器などの使用
- スマホの操作
医療機器を使用することでペースメーカーが誤作動するケースがあります。検査前には必ず、ペースメーカーを使用していることを伝えましょう。
IH機器は禁止されているわけではありませんが、使用することでペースメーカーの設定がリセットされたという症例もあります。
「必要以上に長く止まらない」「埋め込まれたペースメーカーが過度に近づく姿勢」は避けるのがベストです。
スマホの使用は可能ですが、ペースメーカーの埋め込みから15cm以上話して使用しましょう。その他の注意点は、入院時に医師や看護師から説明があるのでしっかりと確認してください。
とはいえ、心臓のリズムを一定に保つ重要な働きをする医療機器をつけることへの不安もあるでしょう。一人で話を聞くことに不安を感じる場合は、家族やパートナーに同席してもらうと心強いかもしれません。
ペースメーカーについてはこちらの記事「【今さら聞けない】ペースメーカーを植え込むと障害者に?障害者手帳との関係を解説!」で解説しています。
身体障害者手帳とは
心臓機能障害によるペースメーカーの埋め込みや、その他の内部障害で「身体障害者」と認定されたら「身体障害者手帳」を取得しましょう。
身体障害者手帳は「生活の負担を軽減してくれるパスポート」のようなもの。取得することでたくさんのメリットが得られます。
身体障害者手帳で得られるメリット
身体障害者手帳には以下のメリットがあります。
- 医療費の助成を受けられる
- 税金が減免される
- 公共料金・交通費が割引される
- 障害者雇用制度を利用できる
それぞれのメリットを解説します。
医療費の助成を受けられる
身体障害者手帳を持っておくことで、該当の医療行為を一部負担で受けられます。
基本的には、全ての医療が一部負担で受けられるわけではなく、その障害に関連した内容のものが対象です。地方自治体によって内容は異なり、基本は1割負担とし、所得によって自己負担額に限度をもうけている所もあります。
詳細は、地方自治体のホームページ、病院のソーシャルワーカー(相談員)などに確認してみましょう。
税金が減免される
身体障害者手帳を持っておくことで、一部の税金が安くなります。対象となる税金は以下の通りです。
- 所得税
- 地方自治体の制度に基づく給付金にかかる所得税
- 住民税
- 相続税
- 銀行や、貸付信託の利子にかかる税金
また障害者である親族を扶養している家族にも、一部適応される場合があります。ただし、銀行の利子にかかる税金などは、金融機関に申請が必要なので注意しましょう。
公共料金・交通費が割引される
身体障害者手帳を取得しておくことで、公共料金・交通費の割引を受けられます。
下記は一部の例です。
- 高速道路を半額で利用できる
- 市営駐車場を無料で利用できる
- 公共施設を無料で利用できる
- 水道・下水道使用料金を減額
- NHKの受信料が半額
- 新幹線の乗車券が半額で購入できる(特急券は対象外)
内容は地方自治体によって異なるので、詳細はお住いの地域の自治体ホームページなどで確認してみましょう。
障害者雇用制度を利用できる
身体障害者手帳を所有することで、障害者雇用制度を利用できます。障害者雇用制度とは「障害者雇用促進法」に基づいた制度で、全従業員数の2.3%以上の障害者を雇用する義務が企業に課せられます。
障害者雇用についてはこちらの記事「障害者雇用で正社員になれる?実際の雇用状況や正社員になる方法をご紹介」で詳しく解説しています。
障害者雇用制度を利用することで、障害のある方は気になっている大手企業や、公的機関にも就業のチャンスが広がります。また障害者雇用では、障害に対する配慮を受けながら働けるため、体調に不安がある方には特におすすめの制度です。
現在の職場で苦労する場面が多い方は、こちらの記事「心臓障害の方が転職すべき職場とは?体に負担をかけずに働く方法」を参考にしてみてください。
身体障害者手帳の注意点
手帳を取得することにデメリットはありません。とはいえ、取得する上で注意点はあります。
- 等級が変わることがある
- 手帳は返還することもある
- 取得することで心理的な負担になることも
それぞれについて解説します。
等級が変わることがある
身体障害者手帳は原則として、更新は不要です。
ただし、障害が軽減されることが予測される場合は、一定期間の間に再認定を実施することがあります。医療費の負担額や、公共のサービス利用など、等級によって決められていたものは内容が変わるので注意しましょう。
手帳は返還することもある
身体障害者手帳は、障害が「一定以上で永続することが要件」とされています。
そのため仮に障害が一定以上改善した場合には返還が必要です。治療によって状態が改善した場合は、地方自治体の決まりに従い手帳を返還しましょう。
取得することで心理的な負担になることも
身体障害者手帳を取得することで、公的に「障害者」と認められることになります。しかし、障害者になったという現実が受け入れられていない状態では、障害者認定されたことががストレスとなることもあるでしょう。
特に、内部障害は周囲から障害があることを気づかれにくいため、身体障害者手帳を使って公共サービスを利用するのに抵抗がある方もいます。
手帳は自分の障害の受け入れができていないとき利用しなくても良いです。また、必要ないと感じるときは、自分の意思で地方自治体へ返還できます。
【内部障害】身体障害者に該当する4つ等級を解説
身体障害者手帳は障害の重さで、1級〜7級に分類されています。内部障害が該当するのは1級〜4級です。
等級 | 定義 |
1級 | 障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの |
2級 | 障害により日常生活活動が極度に制限されるもの(免疫機能障害・肝機能障害のみ) |
3級 | 障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの |
4級 | 障害により社会での日常生活 活動が著しく制限されるもの |
詳細は厚生労働省が公開している資料に記載されています。
定義上では分かりにくいので、心臓障害を例に「日常生活」「家庭生活」「社会生活」のどこまで及ぶかで考えます。
- 日常生活が難しい(1級):排泄・食事も人の手を借りており、ほとんど寝たきりか、ベッド周囲で生活している
- 家庭生活が難しい(3級):排泄・食事はできるがは料理、洗濯、買い物などは息切れや動悸があるので難しい
- 社会生活が難しい(4級):家庭内の生活はできるが、運動制限や息切れがするので仕事は難しい
また、これまでペースメーカーの埋め込みをおこなっている場合は一律に1級でした。
しかし医療の進歩により、ペースメーカーを入れても支障なく日常生活を送れるようになったことから、平成26年4月より日常生活の制限の程度に応じて、1級、3級、4級のいずれかに認定されるようになりました。
身体障害者手帳の取得方法
では、身体障害者手帳の申請方法を確認していきましょう。
身体障害者手帳の申請手順
申請の手順は大きく3つです。
- 地方自治体の窓口に相談
- 指定医に診断書を書いてもらう
- 地方自治体の窓口に書類を提出する
手帳交付申請や相談は市町村で決められた福祉事務所や、支所が窓口となります。医師の診断書は各都道府県で定められた様式があります。各都道府県のホームページでダウンロードするか、相談窓口で受け取りましょう。
必要な書類
身体障害者手帳の申請に必要な書類は、以下の通りです。
- 申請書・・・市町村窓口でもらうか、各都道府県ホームページでダウンロード
- 診断書・・・市町村窓口でもらうか、各都道府県ホームページでダウンロード
- 証明写真(縦4cm×横3cm)
- マイナンバーを証明する書類
申請書類は地方自治体によって異なる場合があるので、詳細は相談窓口で確認しましょう。
重度心身障害者医療助成制度とは
障害がある方と家族の経済的負担を軽減する制度です。障害の原因となった病気の治療にかかる自己負担金額の一部〜全額を助成してくれます。
なお、対象者・助成範囲・内容は地方自治団体によって異なります。詳細はお住まいの地域のホームページをご覧ください。
「◯◯県 重度心身障害者医療助成制度」で詳しい内容が出てきます。
今回は一例として東京都の内容を見てみましょう。
対象者・助成される範囲
助成の対象は以下です。
- 身体障害者手帳1級・2級の方
- 療育手帳1度・2度の方
- 精神障害者保健福祉手帳1級の方
身体障害者手帳を持っていれば内部障害も対象となります。
反対に助成の対象外となるのは以下です。
- 所得が一定以上の方
- 生活保護を受けている
- 65歳以上になってはじめて上記対象者の1、2又は3に該当することになった
所得が一定以上あれば、援助が不要と判断されます。また生活保護を受けている場合は「医療扶助」で自己負担なしで医療を受けられます。
助成の範囲
医療保険の対象となる医療費、薬剤費などは基本的に助成の対象となります。対象外となるのは以下の場合です。
- 医療保険の対象とならないもの
- 他の公費医療で助成される医療費
- 介護保険の利用者負担額
たとえば、医療保険の対象とならない部屋代、食事代、オムツなどの実費分は対象となりません。また、他の公費医療で助成される医療費も対象外です。
重度心身障害者医療助成制度の利用方法
利用の流れは以下の通りです。
- 住民票のある区市役所・町村役場の申請窓口に申請して受給者証の交付を受ける
- 東京都と契約している病院を利用する
- その際に健康保険証・受給者証を提示する
助成制度を利用するためには、「重度心身障害者医療費受給者証(※以降、受給者証)」が必要です。
受給者証の申請には身体障害者手帳が必要なので、身体障害者手帳の交付に合わせて受給者証を申請するのおすすめです。
受給者証を申請するのに必要な書類は以下です。(※東京都の場合)
- 身体障害者手帳または療養手帳
- 本人の預金通帳
- 健康保険証
地方自治体で必要な書類がわずかに異なりますので事前に確認しておきましょう。
まとめ
身体障害者手帳は、取得することでさまざまなメリットがあり、デメリットはとくにありません。障害者手帳を所有すること自体に抵抗感がある方もいるかもしれませんが、自分の生活を手助けするためにも取得をおすすめします。
また取得するときの手順や必要書類などは、都道府県や市区町村ごとに細かな違いがありますので、まずはお住まいの地域の役所に相談してみましょう。