社会に出てすぐ、障害への理解不足を感じたーー社会福祉士吉田夏未さんに聞く、障害者が自立するため乗り越えるべき壁

公開日 2022年9月20日 最終更新日 2023年4月21日

障害を持った方が自立するためには、周りの理解と協力が必要不可欠です。しかし社会にでると、正しい理解と必要なサポートが得られない場面に巡り合ってしまうことも。

心臓障害当事者でありながら、社会福祉士として障害者の自立をサポートしている吉田夏未さん。吉田さん自身も、理解を得られず数多くの苦労をされたそうです。

理解のある職場を見極める方法や、障害者の自立支援のあるべき姿について、お話を伺いました。

【目次】

学校と社会、実感した障害理解への差

吉田さんは生まれつき心疾患をお持ちとのことですが、どういった疾患なのか教えていただけますか?

吉田:
完全大血管転位症、そして肺高血圧症と診断され、生後半年と1歳半のときに手術を受けました。

2度目の手術からしばらくは安定していましたが、小学校6年生のときに悪化してしまって。それからは常に酸素を入れた状態で生活する「在宅酸素療法」を行っています。

学校生活への影響はいかがでしたか?

吉田:
大きな影響で言うと、運動部に入れなかったことですね。体育は自分のペースで体調に合わせて参加していたんですが、さすがに運動部への入部許可はもらえませんでした。

でも授業や学校行事には基本的に参加していましたし、修学旅行も先生の人手が足りない場面では、学校側がボランティアの方を用意してくれたり、副担任の先生と行動できるように配慮してくれたりと、親が着いてこなくてもみんなと一緒に参加できるようにしてくださっていました。

必要なときに適切な配慮をしてくれていたので、小学校から大学まで、大きな問題もなく学校には通えていました。

学校側が正しく理解してくれていたんですね!大学卒業後、社会人としての生活が始まってからはいかがでしたか??

吉田:
学校とは全く違って苦労することも多かったですね。何よりも職場からの障害理解を得ることの難しさを実感しました。特に新卒で入社した会社からは全く理解されていなかったと思います。

面接で障害について説明したときは、話もよく聞いてくれて、「理解してくれたんだ。よかった」と思っていました。でも実際に働き始めてみると、勤務時間中には終わらないほどの仕事を割り振られてしまって。そのうえ周りの方も忙しくて、誰も頼れない状態でした。

それは厳しい環境ですね…

吉田:
特にひどかったのは、私が入院したときの対応です。事前に緊急入院する可能性もあると伝えていたにも関わらず、「なんで入院なんかするんだ。どうせ遊んでたりしたから、体調を崩したんだろう」と言われてしまって。「ここまで理解してくれてなかったんだな」と、心の底からがっかりしました。

障害理解を得るためには自らの行動が必要

事務職 孤立

先に社会人になってからの話を少し伺いましたが、あらためて大学卒業後から現在までのキャリアの流れを教えてください。

吉田:
最初の会社は、結局1年ちょっとで退職しました。それから求人広告会社に入社。ここは一般雇用でしたが病気への理解があって、1社目と比べると働きやすかったですね。

ただ社会福祉士の資格を取りたいと転職する以前から思っていたので、その会社も数年で退職し、そこから1年間資格取得のため学校に通いました。そこで資格を取得し、現在の職場に就職という流れです。

今は就労移行支援と、就労継続支援B型を運営する事業所で、社会福祉士として働いています。

2度、転職を経験されていらっしゃいますが、転職活動で重要なことはなんだと思いますか?

吉田:
障害について、ただ説明するだけでなく、理解してもらえるよう努力することです。

実際に私が行ったことを例にすると、まず書類選考のとき、履歴書と職務経歴書以外に、自分の障害に関する書類を併せて送付しました。また必要があれば、採用担当者に時間をとってもらって、面接前に電話で話すこともありました。

そうやって症状や等級、そして必要な配慮について、障害に関する情報を全て事前に開示していました。

障害を理解してもらうことを重視されていたんですね。

吉田:
そうですね。あと、そもそも障害を理解してくれる会社なのかどうかを見極める意味合いもありました。最初の会社での苦い経験もありますし、転職活動を始めたばかりに受けた会社の面接の場で、障害について心無いことを言われた経験もあります。

自分の障害を理解してもらうため、そして障害に理解のある会社かどうかを見極めるために、「障害について正確な情報を伝えること」を徹底していました。

障害者=障害者雇用と決めつける必要はない

正社員

前職と現職は一般雇用で就労されていますが、一般雇用を選んだ理由を教えてください。

吉田:
求人数の差が理由です。転職活動は、障害者雇用と一般雇用、どちらでも行っていたんですが、障害者雇用はやはり求人数が少なくて。とくに福祉系はほとんどありませんでした。

一般雇用で働くことに不安はありませんでしたか?

吉田:
それはありませんでした。雇用枠は一般枠でしたが、酸素もつけているため障害についてはオープンにしていて、そのうえで障害理解がある会社を選んで入社しました。

1個前の会社では、無理な量の仕事を任されることもなく、月に1度の通院も当たり前のように認めてくれていましたし、現在の職場では、人手不足で忙しさはありますが、自分1人で仕事をしているため、なるべく定時で帰れるように仕事の調整をしています。

障害理解は、雇用枠ではなく会社次第ということですね。

吉田:
そうですね。ただ障害を伝えず、一般雇用で働くことはおすすめしません。会社側も障害があることを知らなければ、配慮ができません。

特に内部疾患は見た目でわからないですし、急に倒れる可能性だってあります。自分が安心して働くために、障害について伝えるべきですね。

障害者自身の行動で、障害者を取り巻く環境を変られる

今後の目標について教えてください。

吉田:
まだ先の話にはなりますが、身体障害者に関われるような職への就職や、場合によっては起業も視野に入れています。

私が勤めている事業所もそうなんですが、就労移行支援や継続支援の利用者の大半が知的障害や精神障害の方なんです。これについて社会的にはあまり問題視されていないと思うんですが、当事者、そして現場にいる立場からすると見過ごせることではないなと。

確かに障害種別ごとに必要な支援は違いますからね。

吉田:
そうなんです。でも現状は「障害者」としてまとめて扱われてしまっています。そして適切な支援がなくどうするべきかわからないからと、働くことを諦めてしまっている人も少なくありません。

また一方で自分の障害を正しく理解し、自立して社会に出ている人もいます。

そういった方が少しでも増えるように、身体障害者が自己理解を深めたり、自立を促せたりできるような支援をしていきたいと思っています。

ご自身の経験があるからこそ生まれた目標ですね!

吉田:
自立できる障害者が増えれば、障害者を取り巻く環境も変わるはずです。

障害者側が、障害に関する正しい情報を発信することで障害者への正しい理解も進むだろうし、適切な配慮を受けながら活躍することで、企業側の障害者雇用に対する考え方も変わるでしょう。

そういった社会になってほしいと心から思いますし、自立できる障害者が一人でも増えるように、私だからできることをしていきたいと思っています。

編集者。大学卒業直前に心室細動を起こし、AEDによる救命を経験。現在はS-ICDを挿入している。障害者雇用専門の転職エージェントを経験し、ライター、編集者として独立。やたらと甘いものを食べている。(Twitter:@hayawo_)