公開日 2022年11月24日 最終更新日 2024年2月18日
「心不全の人は運動がおすすめと聞いたことがあるけど、本当なのだろう…?」
心不全の症状で疲れやすい身体なのに、その状態で運動をすると状態が悪化しそうで怖いですよね。しかし、適切な方法で運動を行えば、心不全の症状の改善が期待できます。
この記事では、心不全が運動をする意義やおすすめの内容についてご紹介します。うまく運動を継続できれば、仕事中でも症状が安定して、精神的なゆとりも持てるでしょう。
【目次】
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
心不全の人は運動をしていい?
実際に心不全の人は運動を行うべきなのでしょうか?結論からいうと、心不全の人が運動を行うことで心不全の症状を軽減し、予後の改善につながるといわれています。
心血管疾患のリハビリテーションのガイドラインによると、慢性心不全に対する運動療法は以下のような効果があるとされています。
- 生命予後の改善
- 運動態容能の改善
- QOL(生活の質)の改善
- 心不全による再入院リスクの低下
一見、心不全の人は運動を控えるべきと思われがちです。しかし、適切な方法で適切な量の運動を行えば上記のような効果があることがわかります。もちろん心不全の進行具合や症状によっては運動を控えるべきケースもあるので、事前に医師の確認が必要です。
心不全の人が運動を行うメリット
運動によって心不全の症状の軽減が期待できますが、実際の生活ではどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、「仕事」に着目して、運動を行うメリットについて解説します。
仕事中でも症状が安定しやすくなる
運動によって心不全の症状が改善できれば、仕事中の息切れや動悸を起こす頻度が減ります。
体調不良を起こしにくくなるので、症状によるイレギュラーな休暇・休憩も少なくなります。企業としても症状が安定していれば、より安心して仕事を任せられるようになるでしょう。
仕事の疲労感が少なくなる
運動により心肺機能や筋肉量の増加が期待できるので、仕事の疲労感が少なくなります。心不全を抱えている人は身体的な疲労が貯まりやすく、中には仕事が終わると毎回クタクタになる人も。
運動によって毎日の疲労感が少なくなれば、仕事中のパフォーマンスを維持しつつ、翌日の体調も安定します。
心臓に負担がかかりやすい仕事については、こちらの記事「心臓障害(心臓病)の方が転職すべき職場とは?体に負担をかけずに働く方法やおすすめの仕事を解説」で詳しく解説しています。
精神面にゆとりができる
運動は身体的な効果だけでなく、精神的なゆとりも生まれやすいです。その理由は、以下の2点です。
- 運動によるストレス発散効果
- 症状の安定化による不安の軽減
まず運動によって「セロトニン」や「エンドルフィン」と呼ばれるホルモンが分泌されます。これらのホルモンには精神を安定させたり、ストレスをやわらげたりする効果があるのです。
また運動によって症状が安定すれば仕事で体調を崩す機会も少なくなり、周囲への信頼感が高まります。「心不全を抱えていても社会にしっかり貢献している」という気持ちを持てるので、仕事への不安が軽減します。
心臓病とストレスの関係については、こちらの記事「心臓病とストレスの意外な関係とは?影響を受ける病気や適切な対処法も解説!」で詳しく解説しています。
心不全の人におすすめの運動
心不全の人は具体的にどのような内容の運動を行うべきなのでしょうか。ここでは心不全の人に推奨されている運動についてご紹介します。
有酸素運動
心不全をはじめとした心臓病の人は、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が推奨されています。有酸素運動を行うときは「ややきつい」と感じるくらいの負荷に調整し、1回あたり20〜60分程度の時間がおすすめです。
1回でまとまった運動時間を確保できないときは、最低10分の運動を数回に分けて実施してもかまいません。身体機能の改善につなげるためにも、運動のペースは少なくとも週に3回以上行うようにしましょう。
レジスタンストレーニング
レジスタンストレーニングとは、筋肉に負荷をかける運動(筋トレ)を指す言葉で、有酸素運動と同じように有効とされています。レジスタンストレーニングのおもな内容は以下の通りです。
- スクワット
- 腕立て伏せ
- かかと上げ
- 上体起こし
- お尻上げ
それぞれ1セット8〜15回を目安にして、計1〜3セット行います。血圧が上がりすぎないように、セット間は90秒間の休憩時間を確保するのがおすすめです。運動のペースは週に2〜3回が理想とされています。
レジスタンストレーニングは有酸素運動よりも負荷が大きくなりがちなので、なるべく強度が高くならないように意識しましょう。
心不全の人が運動するときの注意点
運動は心不全の人にとってもおすすめですが、その分注意すべき点もいくつかあります。ここでは、心不全の人は運動をするときの注意点について解説します。
運動をはじめるときは医師との相談が必要
運動をはじめるときは必ず医師と相談して、実施する内容や負荷量、中止基準を確認しましょう。適切な運動は心不全の症状の改善につながりますが、やり方を間違えると体調や心臓機能を悪化させる危険性があります。
すぐに運動をはじめるのではなく、医師と内容を固めたうえで実施しましょう。運動後も定期的に状況報告を行い、なにかしらの変化・違和感があるときは必ず医師の指示をあおぐことが重要です。
調子が悪いときは無理せず休む
身体の調子が悪いときに運動を行うと、かえって状態が悪化する危険性があります。「なんだか気分がよくないな」と感じたら、無理せず運動を休みましょう。
特に運動を開始する時期は、疲労が翌日まで残ったり、疲れで夜眠れにくくなったりする可能性があります。そのときは負荷量を調節して、少しずつ運動に慣れていきましょう。
運動をおすすめできない人もいる
心不全をふくめた心臓病の状態によっては、運動をおすすめできないケースもあります。心血管疾患のリハビリテーションのガイドラインによると、以下に当てはまる人は運動が禁忌とされています。
- 不安定狭心症または、わずかな運動でも虚血状態となる
- 過去3日以内の心不全の自覚症状の悪化
- コントロール不良の不整脈
- 重度の弁膜症
- 閉塞性肥大型心筋症など
- 急性の肺塞栓症、肺梗塞、深部静脈血栓症
- 活動性の心筋炎、心膜炎、心内膜炎
- 急性の全身性疾患
- 急性大動脈解離や中等度以上の大動脈瘤など
- 運動療法の実施がむずかしいほどの精神・身体的障害
これらの項目に当てはまる人は、運動を避けましょう。
無理のない範囲で運動習慣をつけてみよう
心不全の人は一見運動を避けるべきだと考えがちですが、適切な方法で行えば症状の改善につながります。有酸素運動やレジスタンストレーニングがおすすめとされており、症状や体調にあわせながら負荷量や頻度を設定することが大切です。
症状によっては運動をおすすめできないケースもあるので、必ず事前に医師と相談をしましょう。心不全の症状で体調が安定しなかったり、疲れやすかったりする人は、ぜひ運動を検討してみてください。
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