公開日 2022年12月6日 最終更新日 2023年11月11日
先天性心室中隔欠損症を持って生まれ幼少期に手術を受けた私も、数年前に親になりました。自分が親になり、再度心臓の手術をし、そして心臓病を持つ子供を持つ親御さんと関わるうちに、自分の幼少期を振り返ることが多くありました。
心臓病のせいで制限されたり、入院したりと、兄弟や友達と少し違う日常。そんな中で親にやってもらって良かったと思っていること、そして、こうしてほしかったと思っていることはどんなことか。
同じ心疾患でも病状も感じ方も家族関係も人それぞれですので、あくまで私個人の思いとして書かせていただきます。
執筆:たらこ
先天性心疾患心室中隔欠損で3歳半で根治術を受ける。その後ごく普通に生活していたが35年経ち再手術。現在、息子と猫に翻弄される日々を送る。執筆記事一覧
【目次】
親にやってもらって良かったこと
家族の中で心臓病を特別視しない、タブーにしない
我が家は両親、祖父母、2歳上の兄と私の6人家族でした。私は生まれつきの心臓病ということで、体調を心配されることはありましたが、特別扱いされることはありませんでした。特に、2歳上の兄とは何の区別もなく平等に育てられました。2歳差の二人兄妹なので、おもちゃの取り合いなど些細なことですぐ喧嘩になりましたが「心臓が悪いから」という理由で親が止めに入ることもなかったですし、兄も手加減はしませんでした。
友達やクラスメイトとの遊びやスポーツの中では「心臓が悪い」ということで配慮されることもありましたが、兄との間では「ただの妹」という存在でいられました。今となっては、厳しくもとても楽しく、ありがたい関係だったと思います。
私の病気についても物心ついたときから「心臓に穴が開いていたから手術でふさいだ」と言われていました。ですので、病気については受け入れるというより、自分の中で当たり前の事になっていました。
「心臓に穴が開いていたからふさいだ」
この具体的だけど端的で想像しやすい説明のおかげで、小さいときから何となく、なぜ心臓の手術が必要だったか理解できましたし、自分で他の人に説明もできました。
日常会話の中で、「なぜ病気で生まれてきたのか」「どうして手術の痕はあるのか」など、子供ならではの疑問を素直に投げかけることもありました。両親は、深刻になりすぎることもなく他の話題と同じ様に、明るく普通のトーンで話してくれました。ですから、テレビなどで心臓病の話題が出ると「一緒だね~」という会話になることも多かったです。ドラマを見て「心臓病だからってみんなこんなに儚げなわけないじゃん」「みんな色白で細いとか妄想だよね」なんて笑い話にすることもよくありました。
自分の病気について周囲に知られることや、自分から話すことへの抵抗が生まれなかったのは、心臓病の話題をタブーにせず、家庭での普通の話題の一つとして日常的に触れていたからかな、と思いますし、学校の運動制限で悩んだ時や体調の不安が出たときも、すぐに親に相談できました。
「定期検診を必ず受けること」と言い続けてくれた
3歳で手術をしたあとは年に1度定期検診を受けていました。小児科で定期検診を受けているときは母親同伴でしたが、18歳からは心臓血管外科に転科し、1人で受診するようになりました。運動制限はありましたが、何の症状もなく、自分では「手術をして治った」と思っていたので、正直定期検診の必要性を感じませんでした。「お金もかかるし、ただ『変わりないです。また来年。』と言われるだけだから、もう行かなくていいか」なんて思い、受診をさぼってしまおうと思ったことも何度もありました。
しかし毎年定期検診の時期になると「病院行ったの?変わりなかった?」という母からの連絡が来ました。ほかのことはかなり放任な母ですが、定期検診だけは厳しかったです。「何もなくても定期検診は絶対に受けること!身体に関わることは必ず心臓の主治医に相談すること!」と口酸っぱく言われ続けました。正直、大袈裟だと思っていました。しかし、30歳を過ぎてそれに感謝する出来事が続きました!
まず、以前記事に書いた妊娠出産のことです(https://hatoraku.com/20221004/)。 定期検診を受け続け、主治医に相談していたから、無事に妊娠出産ができました。普通の妊婦として妊娠期間を過ごしていたら、出産まで心臓が持ちませんでした。
そしてその2年後。夫の転勤に伴い他県に引っ越しました。3年という期限付きの引越しだったので、その間の定期検診のためだけに新しい病院を探すのも面倒だし、と受診を止めてしまおうと思っていました。また3年後戻ってきたときに再開すればいいだろう、と思っていました。しかし、母や夫から強く勧められて引越し先でも受診しました。なんとそこで、心臓が悪化していることが分かり手術することになったのです!
初めは、突然のことで手術を受ける決心が付かなかったのですが、医師から「何年、いえ、何か月と先送りできる状態じゃないです」「今なんの症状も出ていないのが不思議です」と言われました。そしてすぐに検査入院をし、2か月後に人生2度目の開胸手術を受けました。適切な時期に手術を受けることができたので、また元気に暮らすことができています。あの時定期検診を止めていたら、3年後まで延期していたら・・・。今こうして生きていられなかったかもしれません。
先天性心疾患の場合、心臓の症状が日常的になっていることもあると思います。私は息が上がった時の心雑音やたまにおきる動悸が日常的になっていたので「またか」と軽視していました。また、「普通の人の心臓」の状態を体験したことが無いので、息切れや疲れやすさについても、自分としては「普通の人」より悪いのかどうかが分からないのです。
ですから、自分では気づかない悪化やその兆候を早くつかむためにも、定期検診を受け続けることはとても大切です。それを口酸っぱく言い続けてくれた親には、本当に命を救ってもらったと思います。
親にやってほしかったこと
「何で私だけダメなの?」に対して、説明より共感してほしかった
兄弟や友達と遊ぶとき、体育やスポーツをするときなど必ず付きまとう運動制限。自分だけできない寂しさや悔しさで「何で私だけダメなの?」と親に当たってしまうことも少なくありませんでした。私の親は、「心臓病だから運動制限がある」ということを説明してくれましたが、それでも「なんで!?なんで私だけダメなの!?」と言い続ける私に「心臓病だからと何度も言っているでしょう」と言うことも。
親となった今は、何度説明しても納得してくれない子供にイライラする気持ちがよく分かります。優しく寄り添って対応しようとしても、ついつい強く言ってしまいます。また、病気を理解できていないのか?と不安に思う事もあるでしょう。私も息子と遊んでいるときに「お母さん心臓悪いから走れないんだよ」と何度言っても納得してくれずイライラしたり、病気という事を理解できないのかな?どう伝えたら理解できるのか、と不安になることもあります。
しかし、当時を思い返してみると、私は病気を理解していないわけではありませんでした。どうしようもないことも分かっていたと思います。でも、寂しさや悔しさをどうしようもできないのです。まずは「そうだよね、あなたも一緒にやりたいよね」と分かってほしかったのです。やり場のない気持ちを、一度受け止めて寄り添って共感してほしかったんだと思います。誰かに吐き出したい気持ちもあったんだと思います。
まとめ
自分が親になって改めて振り返ると、子供が心臓病を持って生まれたことで心配することは本当に多かったと思います。そんな中で、特別視せずに育ててくれたことには本当に感謝しています。また、家庭の中で気軽に心臓病について話すことができたのは、メンタル的にも体調管理の面でもとても有効だったと思います。
そして、定期検診を受け続けることを厳しく言い聞かせてくれていたことで命を2度も救われました。移行期からは、進学や就職、結婚などで居住地が変わり定期検診が途切れてしまうことも起こりやすいです。転居先で新しい病院を探すのも、何の症状もないのに受診するのも面倒くさくなりますよね。そんな時に、親からの「定期検診は続ける」という一声がきっかけで命を救われた私のような人がいることを思い出してもらえたら嬉しいです。
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