高額療養費制度の申請方法と注意点を解説!知らないと損するその他の制度も紹介!

公開日 2023年3月9日 最終更新日 2023年4月21日

入院時に医療費が気になる人は多いでしょう。特に心臓関連の疾患は治療費が高く、はじめて治療を受ける方は不安になっているのではないでしょうか。

今回はこれから入院・治療をはじめる方へ向けて高額療養費制度の具体的な申請方法、注意点を解説していきます。

この記事は治療費に関する不安が解消する糸口になりますので、ぜひ最後までご覧ください。

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監修:ami

精神保健福祉士/社会福祉士/介護支援専門員/男子高校生と、肺動脈閉鎖症/右心低形成の女子小学生の母。地域密着型の精神科診療所に17年間ソーシャルワーカーとして勤務。相談支援、デイケア運営、訪問等幅広い支援をチーム医療の一員として行う。病児出産後退職。現在は患者家族会活動と娘の推し活を一緒になって楽しむ毎日。Twitter:@ami7color

【目次】

高額療養費制度とは

高額療養費制度は、医療機関、薬局の窓口で支払った額が一定を超えた場合に払い戻しを受けられる制度です。

月毎に計算され、支給される額は年齢や、所得状況により異なります。

まずは、自分が該当するか確認できるよう、対象となる費用と対象者をみていきましょう。

高額療養費制度の対象となる費用

対象となる費用は「保険適用される診療に対して支払った自己負担額」です。

なお、自由診療や食事代、差額ベッド代は対象外なので注意しましょう。

それぞれ表にまとめましたのでご覧ください。

対象となる項目 対象外の項目
  • CT、レントゲンなどの検査費用
  • 医師による診察
  • 手術治療
  • 内服薬の処方
  • 点滴の投与
  • 差額ベッド代
  • 入院中の食事代(一般世帯の場合460円/食)
  • 自由診療費(レーシック・インプラントなど健康保険が適用されない治療)
  • 先進医療費(​​特定の医療機関による最先端治療)
  • 入院中の雑費

差額ベッド代は、一定の条件を満たす環境にかかる室料を指します。

個室、大部屋に限らず、多くの病院の環境はこの条件を満たしており、一定の金額がかかると考えましょう。

高額療養費制度の対象者

高額療養費制度の対象者は「国民全員」です。

日本では大人から子どもまですべての国民が何らかの公的保険制度に加入します。経済的理由で医療を受けられないという事態が起こらないための大事な制度です。

高額療養費制度は、医療機関や薬局で支払った額がひと月で上限を超えた場合、その超えた金額を支給する制度です。

【公的医療保険の種類】

制度 被保険者 保険者
被用者保険(健康保険)
  • 1. 主に中小企業の従業員とその家族
  • 2. 大企業の従業員とその家族
  • 1. 全国健康保険協会(協会けんぽ)
  • 2. 健康保険組合
被用者保険(共済保険) 公務員、私立学校教員とその家族 各共済組合
被用者保険(船員保険) 船員とその家族 全国健康保険協会
国民健康保険 自営業者、サラリーマン以外 国民健康保険組合もしくは市町村、特別区
後期高齢者医療 75歳以上、65~74歳で一定の障害のある人 後期高齢者医療広域連合

高額療養費制度でいくら減額されるのか

高額療養費制度で支給される額は、年齢、年収で異なります。制度を正しく利用するために、内容を詳しくみていきましょう。

所得・年齢ごとの金額の違い

高額療養費制度による負担上限額は年齢と所得によって分けられます。

下記の通りです。

【70歳以上の方】

適用区分 負担上限額
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
年収156万~約370万円 57,600円
住民税非課税世帯 24,600円
住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)
15,000円

【69歳以下の方】

適用区分 負担上限額
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
目安:約25万円
年収約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
目安:約17万円
年収約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
目安:約8万円
~約370万円 57,600円
住民税非課税世帯 35,400円

出典:厚生労働省 ​​高額療養費制度を利用される皆さまへ

一般的な所得の場合、負担金額は57,000円〜80,000円前後となるでしょう。

なお、これらの自己負担額は「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」など、各保険によって変わらない共通基準です。

世帯で合算される金額

高額療養費制度は、世帯合算できます。

個人で上限額を超えない場合でも、世帯合算で超える場合は請求できます。

例えば下記の通りです。

  • 同居・75歳の夫婦 (夫:Aさん・妻:Bさん)
  • 後期高齢者医療制度を利用
  • 年収300万円(負担上限57,600円)
  • 1か月単位(同じ月の1日~末日)

50,000円(Aさんの入院費)+8,000円(Bさんの外来受診費)+4,000円(Bさんの薬剤費)=62,000円(世帯合計の自己負担額)

上記の場合、世帯合計の自己負担額が、負担上限を超えているため、

62,000円(世帯合計の自己負担額)ー57,600円(負担上限額)=4,400円

上記の通り、4,400円が高額療養費制度により支給されます。

なお、合算は「同じ医療保険」に限ります。例えば「健康保険組合」「協会けんぽ」「後期高齢者医療制度」など、加入している保険が異なる場合は合算されません。

また、69歳以下の場合の合算は、21,000円以上の自己負担額に限るので注意しましょう。

多数回の受診で限度額が下がる「多数回該当」

何度も、負担上限額まで医療費を支払っている場合には、負担軽減できる制度もあります。

「多数回該当」といい、過去1年以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から、上限額が下がります。

【70歳以上の方】

適用区分 本来の負担上限額 多数回該当による上限額
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1% 140,100円
年収約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1% 93,000円
年収約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1% 44,400円
年収156万~約370万円 57,600円 44,400円
住民税非課税世帯 24,600円 多数回該当なし
住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)
15,000円 多数回該当なし

【69歳以下】

適用区分 本来の負担上限額 多数回該当による上限額
年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1% 140,100円
年収約770万円~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1% 93,000円
年収約370万円~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1% 44,400円
~約370万円 57,600円 44,400円
住民税非課税世帯 35,400円 24,600円

実際に金額をシミュレーション

では、実際にシミュレーションしてみましょう。条件は下記です。

  • 年収500万円の世帯
  • 心疾患により入院治療を行った
  • 医療費は月100万円かかった(医療保険適用分)
  • 自己負担額は3割

【該当する計算式と支給額】

年収、年齢、治療費から該当する計算式 80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
窓口での支払額 300,000円
高額療養費制度で支給される額 212,570円

20万円以上が高額療養費で戻ってくるので必ず申請しましょう。

高額療養費制度の2つの申請方法

では、具体的な申請方法をみていきましょう。手続きができるのは下記の3通りです。

  • 世帯主
  • 世帯主と住民票上同一の世帯の人
  • 世帯主から委任を受けた代理人

申請方法は、「医療費支払い後の場合」「医療費を支払う前」でわずかに異なります。

医療費支払い後の場合

支払い後に申請する際の流れは下記の通りです。

  • 申請書の準備
  • 申請書の記載・提出
  • 高額療養費の振り込み

申請書類の対応は、自治体や、保険者によって異なります。

全国健康保険協会は、ホームページでダウンロードできますし、国民健康保険の場合、自己負担額を超えた月の3〜4ヶ月後に書類が郵送されてくる自治体、保険者もあります。

各書式に沿って、申請書を記入して、保険者へ提出しましょう。

高額療養費の振込みは、3〜4ヶ月後に振り込まれます。

医療費を支払う前の場合

事前に高額な医療費がかかるとわかっている場合、医療費を支払う前に、「限度額適用認定証」を申請しておくと多額の支払いを立て替える必要がありません。

「限度額適用認定証」の申請先は保険者によって異なります。

  • 被用者保険(健康保険、組合健保、共済組合、国保組合など):健康保険証に記載されている保険の所属支部へ申請
  • 国民健康保険:自治体の市役所、区役所で手続き

必要書類は、各保険者の被保険者証、本人確認書類、申請書などが必要です。各保険者、自治体で異なるため事前に確認しておきましょう。

なお、70歳〜75歳までの所得区分が「一般」もしくは「現役並みⅢ」(報酬月額83万円以上、または課税所得690万円以上)の方は、健康保険証、高齢者受給証を提示すれば、自己負担限度額までの支払いとなるため、申請は不要です。

申請に必要な書類

申請に必要な書類は自治体により異なります。全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は下記の通りです。申請から数日~1週間程度で認定証が送られてきます。

1. マイナンバーを確認できる書類

  • マイナンバーカード
  • 通知カード
  • 住民票写しなど

2. 本人確認資料

  • マイナンバーカード
  • 運転免許証
  • パスポートなど

3. 世帯主名義の金融機関口座通帳

なお、平成30年から医療機関の領収書の提出は不要になっています。

高額療養費制度によくある疑問

では、高額療養費制度でよくある疑問に答えていきます。

  • 払い戻しはいつ受けられるか
  • いつまでに申請すればいいか
  • 複数の診療科を受診しても請求できるか
  • 月をまたぐとどうなる
  • 合算について詳しく知りたい

それぞれみていきましょう。

払い戻しはいつ受けられるか

高額療養費制度の支給は、受診した月から2〜3か月程度かかります。もし、一時的な医療費の支払いが難しいなら、「高額医療費貸付制度」を利用しましょう。

高額医療費貸付制度は、事前に後日支給される高額療養費の8割相当を無利子で借りられる制度です。申請方法は、各保険者で異なります。

いつまでに申請すればいいか

高額療養費制度の消滅時効は、「診療を受けた月の翌月の初日から2年」で、さかのぼって申請も可能です。

期限以内に申請するよう注意しましょう。

月をまたぐとどうなるか

高額療養費制度の医療費は、1日から末日で計算されるため、月毎に自己負担額を超えた金額が払い戻しされます。申請も1ヶ月ごとに行いましょう。

合算について詳しく知りたい

高額療養費制度では、ひとりでは上限額に達しない場合でも、同世帯内であれば、自己負担額を合算できます。

合算のポイントは下記の通りです。

  • 別住所でも扶養に入り同じ健康保険に加入していれば合算できる
  • 同一世帯内でも共働きなどで別々の医療保険なら合算できない
  • 「75歳以上」「75歳未満」は合算できない(医療保険が異なる)
  • 69歳以下の場合、合算できるのは21,000円以上

【例】年収600万円の世帯の場合

年齢 治療内容 自己負担額 合算可否
本人 45歳 心疾患による検査入院 55,000円
21,000円以上のため合算できる
45歳 眼科治療
  • 12,000円
  • 10,000円

同一医療機関で支払額が21,000円を超えるため合算できる
子供 18歳 風邪治療 2,500円 ×
21,000円以下のため合算できいない
祖父 78歳 心不全による入院治療 2,500円 ×
保険者が異なる(後期高齢者医療保険)ため合算できない

出典:全国健康保険協会 高額療養費について

上記の場合は、合算できるのは本人、妻の自己負担額のみで、合計77,000円です。

世帯年収から44,400円が、上限額となるため、高額療養費制度で還付されるのは32,600円になるでしょう。

77,000円-44,400円=32,600円

高額療養費制度以外で使える制度を紹介

では、これから治療を受ける方のために「高額療養費制度以外で使える制度」をご紹介します。

  • 医療費控除
  • 高額医療・高額合算療養費制度
  • 傷病手当金制度
  • 身体障害者手帳

どれも知らなければ損する制度なので、それぞれ詳しくみておきましょう。

医療費控除制度

医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、その額を元に所得控除を受けられる制度です。

対象となるのは、1月から12月末までに発生した医療費で、10万円を超える場合、確定申告すると還付されます。

【対象例】

  • 医師・歯科医師による治療費・入院費
  • 治療に必要な医薬品の購入費
  • 診療を受けるための通院費
  • 入院時の食事代
  • 介護保険の対象となる介護費
  • 診療や治療に必要な、コルセットや補聴器などの購入費やレンタル料
  • 必要と認められる歯科矯正費用

【対象外例】

  • 美容や容姿を変えるための費用
  • 食事療法を行った場合の食品購入費
  • 医師や病院のナースセンターへの贈り物
  • 付き添った親族の食事代
  • 自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車代金
  • 健康診断や人間ドックの費用
  • 自分で希望したときの差額ベッド代
  • メガネやコンタクトの購入代金
  • 診断書の文書料
  • ワクチン接種費用

申請は確定申告時期で、原則2月15日〜3月16日で、高額療養費として支給を受けた金額は除かれます。

医療費控除書類は、国税庁ホームページでダウンロードもしくは各自治体の市役所、税務署で入手できます。

高額医療・高額介護合算療養費制度

高額医療・高額介護合算療養費制度は、1年間(8月1日から翌年7月31日)の医療保険、介護保険の自己負担額が基準を超えた場合に払い戻す制度です。

対象となるのは、医療保険と介護保険の両方に自己負担額があり、1年間で自己負担額を超えた「世帯」です。

【年収・年齢別の自己負担額】

75歳以上(介護保険+後期高齢者医療保険) 70~74歳(介護保険+被用者保険または国民健康保険) 70歳未満(介護保険+被用者保険または国民健康保険)
年収約1,160万円~ 212万円
年収約770~約1,160万円 141万円
年収約370~約770万円 67万円
~年収約370万円 56万円 60万円
市町村民税世帯非課税等 31万円 34万円
市町村民税世帯非課税 (年金収入80万円以下等) 19万円

対象は「世帯」のため、「自分が心疾患で治療費がかかる」「両親が介護保険を利用している」など対象者が数名いる場合に利用できるでしょう。

申請書類は、各自治体や被用者保険団体ホームページでダウンロードできます。

傷病手当金

傷病手当金は、病気休業中の本人や、家族の生活を守るための制度で、病気やけがによる休業により、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。

支給金額は、【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(2/3)」で計算されます。おおよそ「平均給与の約2/3の金額」となるでしょう。

受給の条件は下記の通りです。

条件 ポイント
①健康保険の被保険者である 任意継続被保険者には支給されない
②業務外の病気やケガで療養中である 業務中が原因の病気、怪我は労働災害となる
③療養のため労務不能(働けない) 労務不能かは医師の意見や、本人の業務内容などによって判断される
④4日以上仕事を休んでいる 休みが始まってから連続した3日目までを除いて4日目から算定して支給される
⑤給与の支払いがない 給与が一部だけ支給されている場合、傷病手当金から給与支給分を減額して支給される

申請窓口は、全国の健康保険協会・健保組合で、郵送での申請も可能です。

障害者手帳

障害者手帳は、障害者を対象に生活のサポートを目的とした制度です。

心疾患による「内部障害」も対象で、下記のサポートが受けられます。

  • 1.  障害者雇用枠での就労が可能
  • 2.  医療費の助成や税金の控除
  • 3.  公共交通機関・サービスの割引

心疾患による等級は下記で分かれています。

  • 1級:心臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの
  • 3級:心臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの
  • 4級:心臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

心臓機能障害には、2級がありませんのでご注意ください。申請書類は、各地方自治体の​​障害福祉窓口や、自治体ホームページにてダウンロードできます。

なお、申請には医師の診断書が必要です。入院中や、診療時に事前に確認しておきましょう。

診断書については、こちらの記事「心臓病患者は診断書が必要?診断書の必要性や疑問を徹底解説」障害者手帳については、こちらの記事「心臓疾患の人は障害者手帳を持つべき?メリットや申請方法について解説」でそれぞれ詳しく解説しています。

まとめ

今回は下記を解説しました。

  • 高額療養費制度とは
  • 高額療養費制度の申請方法
  • 高額療養費制度以外に使える制度

心臓の疾患は、治療費が高額で長期間になるケースが多く、費用の悩みはつきものです。

しかし、高額療養費制度を利用することで、月の支払いの上限額は目処が立つでしょう。

まずは、こういった制度を理解して活用し、治療に専念できる環境を整えましょう。

※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

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看護師&WEBライター。介護士歴7年、資格取得後に看護師へ転職。国立病院の循環器科を経験。現在は地域医療を学ぶために田舎の救急病院に勤務。検査、救急対応、外来対応、病棟看護なんでもやってます。(Twitter:@ns_shokpan)