正しい理解を広めることが第一歩ーー 先天性心疾患当事者のこっとんさんが考える、働きやすい社会を作るために解決するべき課題

公開日 2023年4月4日 最終更新日 2023年4月21日

心臓病を抱えていると、働くために様々な障害が発生します。そしてその障害を乗り越えることができずに、働きたいという想いを叶えられていない人もいます。

今回は、先天性心疾患の当事者ながら、一般枠と障害者枠、それぞれの雇用形式で就労した経験があるこっとんさんにインタビュー。

これまで仕事をする上で困ったことや、一般枠と障害者枠のちがい、そして心臓病当事者が働きやすい社会を作るために解決するべき課題についてお話を伺いました。

こっとんさんはどういった病気をお持ちでしょうか?

先天性心疾患に該当する、極型ファロー四徴症と診断されました。

私が生まれた瞬間に、先生がおそらく先天性の心疾患があると判断して、詳しく診察してもらったところこの疾患があると確定しました。ただ手術は生まれてからすぐというわけではなく、3歳のタイミングで大きな手術を行いました。
幼少期や学生時代の生活に、心疾患の影響はありましたか?

自分としては生まれてからずっとその体だったので、特別大変だったとは思っていないんですが、体育では影響を感じることはありました。

軽い運動なら参加はできたんですが、バスケやマラソンのように、走り続けないといけないような授業だとさすがに厳しくて。体育はいつも無理のない範囲で参加していました。

あと重いものが運べないのも困りました。部活が吹奏楽部だったんですけど、どうしても自分だけで重い楽器を運べなくて。いつも手伝ってもらわないといけないので、それが辛かったですね。

確かに体育などは体への負担が大きいですよね。仕事への影響はいかがでしたか?

仕事でも体力面のハンデは感じましたね。

最初の仕事は、入院病棟での医療事務だったんですが、事務作業以外の仕事が結構きつくて。カルテの準備だったりシーツ交換だったり、事務作業以外の体を動かす業務が負担になっていました。

あと、免疫力が低いことも悩みの1つでした。

直接患者さんと触れ合うわけではないんですが、どうしても病院での勤務なので病気の原因菌をもらいやすかったんです。健康な人であれば問題ないようなことでも、私の場合は油断できなくて。

その上当時は週5日勤務で体力的にもかなり厳しい状況だったこともあって、肺炎やインフルエンザが悪化して10日くらい休むなんてこともありました。

その状況で同じ仕事を続けるのは難しいなと判断して、1年弱ほど勤めて退職しました。

それは大変でしたね…。医療事務の仕事を退職されてから今までのご経歴をお伺いさせてください。

もともと歯科衛生士になりたかったこともあり、その後は歯科医院の歯科助手に転職しました。ただフルタイムは難しいと思ったので、週3日、夕方だけの勤務から仕事を再開しました。

そしてそこでまた3ヶ月ほど働いてから、次は靴屋での接客の仕事をしました。ここは特に楽しく働けてはいたんですが、やはり立ち仕事だったり、力仕事が必要になる場面も多くて体力的にしんどかったですね。

3年間勤めたんですが、最終的には主治医の先生からも「続けるのは厳しいんじゃないかな?」と言われてしまって退職し、現在も続けている銀行での事務職へ転職しました。

以前までの仕事と比べて、現在の仕事は身体への負担はいかがですか?

今は完全に事務作業なので、身体的には問題なく働けていますね。

それに月、水、金曜日の1日おきの勤務なので、その点も助かっています。1日働いたら1日休めるので、疲れを溜めずに働けますし、定期通院も問題なく行けています。

ただ今の仕事が本当に自分に合っているのかどうかはわからなくて。どうしても毎日同じ仕事の繰り返しになってしまうので、靴屋さんで働いていたときと比べると仕事の楽しさは少ないかなと。

心臓病を抱えている人には事務職が向いてる、と一般的には言われてると思います。実際に私もハローワークに相談したときには、事務職の求人ばかり紹介していただきました。でも業務内容は向いてるとしても、その仕事が自分に合ってるかどうかはその人次第になってしまいます。

身体への負担も少なくて、休みもとりながら働けていることはとてもありがたいんですが、これからどうしていくべきなのか、最近悩んでいるところもあります。

これまでの仕事は障害者枠での雇用ですか?

実は今の職場へ就職するまでは、ずっと一般枠で働いていました。一般枠で働いていたことも、短期間での退職の原因の1つだったかもしれません。

一般枠で就職すると、周りに病気のことを伝えるべきなのかも悩みましたし、どこまで頼っていいかもわかりませんでした。一緒に働く人には、簡単に病気のことを伝えていたのですが、見た目ではわからない病気なので、正しい理解はもらえませんでしたね。

重い荷物を運ぶとなったときも、他の人にお願いはするんですが「なんでこんなことできないの?」という空気を感じてしまって。なので徐々に頼みづらくなってきてしまって、多少無理してでも自分で対応するようになりました。

そういった経験があったので、今回の転職で初めて障害者枠を利用することにしました。

これまで3回転職されていらっしゃいますが、転職活動はどのように行ってきましたか?

2回目までの転職活動は、支援機関やサービスは利用せず、自分の力だけで行っていました。求人誌に掲載されていた求人や、たまたま街中で見かけたパート求人などに応募をしていました。

ただ今回は初めての障害者枠での転職ということもあって、ハローワークを利用しました。

いくつか求人を紹介してもらいましたが、最終的にはハローワークが開催している合同説明会で見つけた企業に転職しました。

一般枠で転職活動をしていたときと、今回の転職活動で何か違いはありましたか?

病気のことを面接の時点で詳しく話せるようになりました。

障害者枠なので当たり前のことですが、私が障害を持っていることを前提で面接をしてくれています。そのため、病気についてどこまで話せばいいかという心配をする必要がありませんでした。履歴書に、障害名を記載して提出し、面接で具体的に説明しました。

私以外にも複数の障害を持った方がすでに働いていることもあり、正しい理解をしていただいた上で採用してもらえました。

こっとんさんが考える、心臓病を抱えた人が働きやすい社会を作るために、解決するべき課題点を教えてください。

選択肢の少なさですね。

私がハローワークに行ったときもそうだったんですが、心臓病=事務職というイメージが定着しているようで、紹介していただいた求人はほとんど事務職でした。

病気のことを考えると身体的な負担が少ない事務職が適職ということももちろんわかるんですが、やりたい仕事が明確にある人の場合、その仕事をするチャンスが限られてしまうのは大きな課題だと思います。

また職種だけじゃなくて、通勤も選択肢の少なさに影響しています。心臓病を持っていると、通勤自体が大きな負担になることもあります。私も負担を軽減するために車で通勤していますが、都内だと車通勤ができる会社は多くはありませんし、そもそも自分での運転が難しい人もいます。

コロナの影響でリモートワークが普及したといっても、まだまだ通勤が求められる求人が大半です。これは大きな壁になっていると思います。

確かに選択肢の少なさに悩んでいる人は少なくないですね。

もっといろんな職種の求人や、リモートワークの求人など、選択肢が増えると働きやすくなるんじゃないかなと思います。

そして、そのためには心臓病に関する理解が広がることが重要です。正しい理解が広がることで、求人の職種の幅も広がるでしょうし、出勤が難しい人に向けたリモートワークの求人も増えるはずです。

ただ心臓病と一言で言っても、人によって症状は様々です。そういった細かい部分まで理解をしてもらえるように、私自身も情報発信の機会を作っていきたいと考えています。

編集者。大学卒業直前に心室細動を起こし、AEDによる救命を経験。現在はS-ICDを挿入している。障害者雇用専門の転職エージェントを経験し、ライター、編集者として独立。やたらと甘いものを食べている。(Twitter:@hayawo_)