「成人した先天性心疾患患者を支える場所を作りたい」ーー先天性心疾患当事者の循環器内科医である谷 道人さんが、医者として求める結果

公開日 2023年12月5日 最終更新日 2023年12月5日

沖縄県立宮古病院循環器内科に医師として勤務する谷 道人さんは、先天性心疾患の当事者でもあります。

今回は、成人先天性疾患の専門医を目指しながら、日々心臓疾患を抱えた患者と向き合っている谷さんにインタビュー。

循環器内科医を目指した経緯や、患者と向き合う上で心がけていることについて、お話を伺いました。

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谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

自分と同じ立場の人を支えられる医者を目指して

ー谷さんが医者という仕事を選んだ経緯を教えてください。

自分が心疾患を抱えていたことが、医者を目指した理由です。

私は先天性心疾患の1つである、部分型房室中隔欠損症を持って生まれてきました。そのため、生まれて7ヶ月の時点で手術を経験し、3歳になるくらいまでは病院通いをする生活でした。

幸いその後は症状が安定したこともあり、兄弟と同じように元気に過ごし、学生時代は部活なんかもできていました。

そんな生活をしていたんですが、高校生で進路を考えるとなった時、ふと友人から「医者になってみたら?」と勧められて。そこで初めて医者という選択肢を考えました。

そして、自分と同じような立場の患者さんに貢献したいという想いと、医者になることで自分の体のことをより正確に理解できるだろうという考えから、医者を目指すことにしました。

ーご自身が当事者だったからこその選択だったんですね!心臓に関わる科はいくつかありますが、その中から循環器内科を選んだ理由を教えてください。

私の担当主治医からのアドバイスが大きな理由ですね。

実は、大学5年生くらいまでは心臓外科を目指していました。あと、小児科も選択肢にありましたが、反対に循環器内科は一切考えていませんでした。

そんな時、主治医に「心臓外科を目指してるんです。」と伝えたところ「心臓外科医はすごく体力を使う仕事。君の体のことを考えるとやめた方がいい」と強く言われたんです。普段はすごく気の良い感じの先生が、その時はすごく真剣な顔をしていて。

私のことも心臓外科のこともよく知っている先生からそう言われて「これはよほど厳しい道なんだな」と思い、心臓外科は諦めました。

ー谷さんの体のことを谷さん以上に知っている主治医からそういった意見をもらうと、確かに心臓外科医を目指すことに不安が生まれますよね…

心臓外科を諦めてから、改めてどの道に進むべきか悩んでいる中、とある小児循環器の先生の講演会に参加しました。その時、運良くその先生に自分の悩みを相談できたんです。

「やっぱり小児循環器を勧められるのかな」と思っていたら「循環器内科が良いんじゃない?」と言われたんです。本当にびっくりして「先生、小児循環器ですよね?」と、聞き返してしまいました。

そうすると「先天性心疾患を抱えた子が大人になって、行き場がないという問題が今の小児循環器にはある。そういった人たちの受け皿になる循環器内科で、君に活躍してほしい」と。そう言われた時、自分の医師としての道が決まりました。

胸にある手術跡が患者に伝えること

ー悩み抜いて選んだ循環器内科で医師として活躍されていますが、循環器内科の医師としてやりがいを感じる点を教えてください。

自分が行った治療が、患者さんの病状を改善している様を明確にみることができる点ですね。

例えば、心筋梗塞の疑いがある人が病院に運ばれた時、一分一秒でも早くカテーテル室に運び、血行再建を行わなければなりません。

治療をしなければ今日明日にでも亡くなってしまっていたであろう人が、自分が治療をした結果、2週間後には元気に退院できている。自分の治療が患者の命を助けていることを実感できることが、大きなやりがいですね。

ー心臓が命に直結しているからこそ、感じられるやりがいですね!

とはいえ、まだまだ自分は下積みということもあり、医者として充実した働きがいを得られているかというと、半々というところですね。

私はまだ医者として働き始めて6年ほど、業界的にはまだ若手で半人前です。医者としての目標である、成人先天性疾患の専門医になるためには、最短でもまだ7年はかかる見込みです。

今はまだ、医者になる前に思い描いた仕事の一歩手前の段階にいるかなと。もちろん今の仕事も、患者の人生を預かる大切な仕事なので、目標を達成できるようにコツコツやっていこうと思っています。

ー谷先生のように、病気の当事者でありながら医者として活躍している方は少ないかと思います。循環器内科で働く上で、当事者であることが仕事に影響したり活かせたりすることはありますか?

治療や手術を嫌がる患者に対して、経験を元にした説得ができますね。

実は普段手術以外の時でも、手術着に白衣を羽織った状態で診察を行っています。手術着は、胸元が広めに空いているので、手術跡が見えるんですよね。診察を受けている人も、手術跡に気づいてくれて。

そうすると、私からの話を前向きに受け取ってくれるようになることもあります。治療や手術に抵抗感を持つ患者は少なくないので、そういった意味では当事者であることが仕事に活きているかなと思います。

治らないことを受け入れて、上手く付き合っていく

ー谷さんが医者として心がけていることはありますか?

医者として、結果を重視することですね。

私が考える医者が出すべき結果は、患者さんの病状を改善、もしくは完治させることです。ですが、そのためには患者さんの協力が必要不可欠です。しかし手術を受けたがらない人や、そもそも病院に行きたくないという人もいます。

そういった患者さんに対しては厳しい言葉をかけることも。現実を見てもらわないことには、結果には繋がらないので、患者さんの気持ちに流されることがないように、医者として冷静な判断を常に心がけています。

ー特に心臓疾患は、見えない病気だからこそ当事者であっても自覚を持てない人も多そうですね…。

おっしゃる通り、循環器内科はそういった患者がトップクラスに多いと思います。

でも心臓疾患は、手遅れになった時は心臓が止まる時です。だからこそ、その場で現実を告げられた人が怒ったり、傷ついたりすることがあったとしても、厳しい言い方になっても伝えるべきことがあると考えています。

はじめは驚きのあまり現実を受け入れられず、治療に拒否的な態度をとる人もいらっしゃいます。ただ、気持ちの整理をつけている時間的余裕がない場合もたくさんあります。

「治療をして健康寿命が延びれば、後になって、本人にとっても家族にとっても『良かった』と思ってもらえるかもしれない。戸惑っているうちに治療のチャンスを逃すのが一番もったいない」というのが私の考えですね。

ー最後に、心臓疾患の当事者やそのご家族に向けて、メッセージをお願いします。

これを伝えるとがっかりされてしまうことが多いんですが、心臓疾患のほとんどには「治る」という概念が通用しません。

心臓疾患は治すものではなく、上手に付き合っていくもの。その手助けをすることが私たち循環器内科医の仕事です。そしてそのために、厳しい言葉をかけることもあります。

ですが、これは患者さんの健康寿命を少しでも長くしたいという想いがあってのことです。患者さんの健康増進に少しでもお役に立てればと考えています。よろしくお願いします。

編集者。大学卒業直前に心室細動を起こし、AEDによる救命を経験。現在はS-ICDを挿入している。障害者雇用専門の転職エージェントを経験し、ライター、編集者として独立。やたらと甘いものを食べている。(Twitter:@hayawo_)