公開日 2023年12月14日 最終更新日 2023年12月14日
先天性心疾患を持つ私は、幼少期や学生時代は家族や周囲の支えや理解もあり、自分の日々の生活スタイルや体調管理について、あまり気をつけることはありませんでした。
しかし社会人になると、自分の病を知らない人と接する機会が増えたり、自分のペースで過ごすことが学生の頃よりも難しくなります。また、年齢を重ねると共に体の具合も若い頃とは違うな、と感じることが増えてきました。
そういった環境や体の変化を経験していく中で、心臓病を持ちながら働くうえで必要な自分の中の線引きや、相手に伝えるべきこと、そして自分が少しでも心地よく毎日を過ごすことができるように気をつけることが、少しずつわかってきました。
それらは決して大きなことではなく、小さなことでも少し気をつけるだけで自分が日々元気に過ごす大きな支えになってくれていると思います。
本稿では、私が「仕事」と「日常生活」の2つの環境を安定して過ごすために気をつけていることをお伝えしたいと思います。
執筆:aoi
単心室などの先天性心疾患を持ち。環境の変化や年齢を重ねていく中でも、病とうまく付き合いながら生活することを心がけています。好きなものは和食、音楽、読書。執筆記事一覧
【目次】
仕事をする中で気をつけていること
まずは、私が仕事をするときに気をつけていることを3つ紹介します。
何ができるか、できないかを明確に線引きをしてわかりやすく伝える
1つ目が、病気を持っていることで「何ができるか、何ができないのか」ということを明確に線引きして、具体的にわかりやすく相手に伝えることです。
「心臓が悪い」、「心臓病がある」と一言で言っても、人がそのことに対して持つイメージは千差万別ですし、見た目に顕著に現れていない限り、具体的なイメージを掴むことが難しいと思います。
「疲れやすい」と言っても、その感じ方も人それぞれで、具体的にどういった場面で疲れてしまうのか、といったことも相手はわかりません。なので私は、検査などで得られる客観的な数値や、具体的な場面や状況を提示するという方法をとっています。
たとえば、私は普段から低酸素の症状があるため、その数値を伝えています。新型コロナの拡大で酸素濃度の認知度が広まったことにより、普段の酸素濃度数値を伝えることで自分の状態を、より具体的に知ってもらうことができたと思います。
また運動制限を伝える時も「階段は下ることはできるが、2階以上は上ることができないのでエレベーターなどが必要」というように、できないことだけでなく、ここまでならできる、としっかりと線引きを伝えることも大切です。
こんなことまで言わなくてもいいか、と最初は思っていましたが、就職活動の面接やその後の上司との面談などでも具体的な場面は聞かれることが多々ありました。
細かい点まで伝えることが病気を持ちながら働く社会人としての責任だと思うようになりました。
自己開示の大切さ
2つ目は自己開示です。
病気を持っていると病気について聞いてもらっても大丈夫という心構えでいても、相手は「聞いちゃ悪いかな」と遠慮されることがあるそうです。
私も以前は聞かれない限り病気のことを話すことはしてこなかったのですが、ある時「見た目で病気の具合がわからないから、病気の度合いや辛い時などははっきりと教えてほしい」と言われました。
それ以来自分が話せる範囲で必要と思われることはしっかりと開示することを意識するようになりました。1つ目の線引きにも繋がることですが、相手に理解してもらったり、助けてもらう必要がある時は、自分のことをできる範囲で開示することが重要です。
自身の体や体調は時と共に変化していくものだと受け入れる
3つ目は、自身の体や体調は時と共に変化していくものだと受け入れることです。
仕事をしていても、していなくても、年齢と共に体は変化していきますし、異なる生活サイクルに身を置くようになると、自分でも知らなかった症状に直面することがあります。私の場合、冬は昔から苦手でしたが、働くようになると今まで以上に冬の寒さで体調を崩しやすくなることが増えました。
また、疲れがたまると倦怠感と吐き気の症状が出てしまうのですが、それも働くようになってから出てきた症状です。
こういった体質の変化や新しい症状の発見に最初は戸惑いましたが、自分が今後もできるだけ心地よく生活していくためには必要な情報だったんだと受けとめ、自分の体調を理解していくうえでの大切なピースというように考えています。
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生活をする中で気をつけていること
続いて、日常生活の中で気をつけていることを3つ紹介します。
規則正しい生活を心がける
1つ目は、規則正しい生活を心がけるということです。
働くようになってから、特に睡眠は重要だと実感しています。睡眠時間が十分に取れなかった日の翌日は、体がだるかったり、気分も落ち込んだり、考えることもうまくできないような状態になってしまいます。
自分に必要な最低限の睡眠時間を把握し、できるだけその時間は確保するように心がけています。
自分の感覚や体調に正直になる
2つ目は自分の感覚や判断を大切にすることです。たとえば、仕事の日になんとなく体がだるいな、と思うようなことがあれば、その違和感を軽んじず、早めに帰って休んだり、可能であれば休暇を取るようにしています。
いい意味であまり自分に期待せず、できないこともあるし、元気な人と比べるとテキパキとエネルギッシュに動けないということを受け入れるようにしています。
何か具体的に症状がでている時ではなくても、自分の感覚に素直になって、休むようにすることで回復したり、無理をして体調を崩すということを予防するようにしています。
一方で、運動制限があっても、少し体を動かした方が楽になることもあるので、そういう時は無理のない範囲で、自分が気持ちいいと思える中で体を動かしています。自分の体の感覚や気持ちがわかるのは自分しかいないので、その感覚を大切に生活しています。
気になった体調の変化は主治医に相談する
3つ目は気になったことは主治医に相談することです。
普段の通院で、気になった症状や体調の変化、また生活サイクルの変化があったときは、必ず主治医に伝えるようにしています。何ともないと言われることがほとんどですが、とりあえず「伝えた」ということで安心できます。
また私の場合は酸素濃度と気になった体調変化(頭痛、動悸、吐き気など)を記録するようにしています。あまり細かく記録しようとすると面倒になってしまうので、継続することを第一に、簡潔に自分が必要だと思うことのみを記録し、そういった記録で気になることがあれば主治医に聞いてみることにしています。
こうした習慣を続けていくと、自分の病気をもっとよく知ろうと思うことができ、自分の体調にも気を配ることができるようになりました。
自分の病気のことを一番理解するべきなのは自分
働くようになり、今までできると思っていたことができなかったり、辛いと思うこともでてきました。
そういった経験は、精神的に辛くなるときもありますが、こういうことをすると辛くなる、こういうふうに過ごしていけば大丈夫、といった学びにもなります。
何より学生時代は体調管理は親任せということが多かったのですが、大人になり、自分が働くようになると、仕事場の環境や同僚、仕事内容は自分しかわからなくなりました。、
そのため、その中でどのように過ごせば居心地がいいのか、無理がないようになるのか、全て自分で管理していく必要があると気づきました。それからは親よりも自分のほうが体調の変化、病状がわかると思い、自分に合った体調管理方法や、日々の送り方、負荷のかけ方、その塩梅もわかるし、自分で管理したほうが楽だという気持ちになりました。
昔は自分の体調に無頓着で、記録を付ける習慣もありませんでした。しかし、体調不良をきっかけに自分の体調を記録する習慣をつけるようになり、どういう時に体調が悪くなるのか、どういう兆候があるのかということがわかるようになりました。それを知ると私生活や仕事場でも体調を崩さないよう心がけることができますし、定期健診もとても内容のあるものになることに気づきました。
病気を持っているという現実は受け入れるしかありません。しかしそのうえでどのように仕事に取り組み、どういった心持ちで日常生活を送るかというのは自分次第だと思います。
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