公開日 2024年3月19日 最終更新日 2024年3月19日
私は今年で、フリーライター歴9年目。大手出版社や新聞社が運営する媒体で、記事を執筆しています。しかし、会社員として働く友人の話を聞くと、時折、「もし、ライター業を選んでいなかったとしたら、どんな働き方をしていただろう」と考えることも。
そこで今回は自分が就きたかった職業を踏まえ、”もしもの世界”を想像。先天性心疾患者ができそうな働き方も考察しました。
執筆:古川 諭香
フリーライター。単心室・単心房のため3度の手術を経験。根治は難しいものの、フォンタン手術後、日常生活が普通に送れるように。愛猫の下僕で本の虫でもある。(Twitter:@yunc24291)執筆記事一覧
【目次】
ハードルが高いけれど就きたかった職業
持病と生きる日常では体力的な問題から、やりたい仕事に就けないこともあるものです。私も、自身の体力を考慮して諦めた職がいくつもありました。
1. 臨床心理士
人の心に興味を持ち、誰かの痛みに寄り添いたいと思ったことから、私は高校卒業後、4年制大学の心理学科に進学。臨床心理士を目指しました。
しかし、自分の心と向き合わされる合宿で心が折れ、大学1年生の秋に中退。最終的な中退理由は心を病み、通学ができなくなったことでしたが、通学先が遠く、学校に着くまでに疲れ切ってしまうことも、中退を考えた理由のひとつでした。
夢を叶えるには自分を踏まえて学校選びをし、通学で疲れ切らない対処法を考える必要がある。当時の私は、そう痛感し、自分の中にあった将来設計の甘さを知りました。
また、臨床心理士のように大学院を卒業しなければ資格の取得ができない職業を目指すには、金銭的な問題もあります。私たち先天性心疾患者にとって、大学で学びを深めつつ、バイトもこなす生活は体力的に厳しいと思えることもあるもの。そのため、親からの金銭的援助が難しい場合は、学費をどうやって払い続けるかを考えなければなりません。
夢を叶えたいときは将来設計をできる限り明確に立て、周囲と相談しつつ、進路や働き方を決めていくことが大切です。
2. 書店員
私は幼少期から「本の虫」であったため、書籍に囲まれながら働ける書店員という仕事に魅力を感じました。しかし、実際に書店員として働く友人から、書籍をまとめて運ぶなど、重い荷物を持たなければならない場面が多いことを聞き、不安に。
自分には体力的に難しいのではないか、周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない。そう思い、結局、書店員の夢は諦めてしまいました。
職場で障害をオープンにするかどうかは個人の判断に委ねられますが、書店員のように体力が必要な職に就く場合は、同僚に持病の説明をすることが大切。当時の私には、持病をオープンにする勇気もありませんでした。
3. 動物に関する仕事
10代の頃には、大好きな動物と関われる仕事に就きたいと思ったこともありました。大学中退後、私は猫カフェで働いたり、正しい飼育法を伝えられるペットショップ店員に憧れたりし、ペット業界の面接を受けました。
しかし、動物に関する知識を得ていく中で知ったのは、人馴れしていない不特定多数の動物と関わることが自分には危険であるということ。私は脾臓がない「無脾症」です。そのため、免疫力がなく、猫の場合は引っ掻かれたり噛まれたりすると、パスツレラ症や猫引っ掻き病といった病気に罹患する確率が高くなります。
実際、数年前、愛猫に首輪と間違えられて指を強く噛まれたときには、パスツレラ症を発症。患部の腫れや熱、下痢などといった症状が現れました。
先天性心疾患者の中には、私と同じく免疫力に不安がある方も多いもの。もし、動物業界で働きたいときは主治医に相談したり、何かあったときに頼れる救急病院を持つ病院を2~3つほど頭に入れておいたりすることが大切です。
現実的に「私でも就けそう」と思えた職業
体力などを鑑みた結果、諦めざる得ない仕事があった一方で、「これなら私にもできるかもしれない」と思える仕事も、いくつかありました。その中でも、自分の心が揺れ動いた4つの仕事を紹介します。
1. 事務職
事務職は、先天性心疾患者が周囲から勧められやすい職業。私も職業選択に迷っていたとき、母から勧められたことがあり、実際に金型の加工工場で事務職をしていたこともあります。
現場のサポートをしなくてもいい職場ならば、事務職は体力的な心配をせずに働ける職種。ただ、私は普通科の高校を卒業していたため、働く中で自身のパソコンに関する知識の薄さにやきもきし、商業科の高校に通えばよかったと思うことがありました。
事務職は簿記などの資格を取得していると職場の選択肢が増え、有利にもなるので、気になる方は進路を決める段階で、商業科への進学を視野に入れるのもおすすめです。
2. ショップ店員
私の場合はベッドから起き上がれない日がなかったため、アパレル系や雑貨屋の販売員を目指したこともありました。
接客業はお店のテイストや業種によっても働き方が異なるため、私と同じような体調の方は、お店の雰囲気や自分の好きなブランドも踏まえつつ、働けそうな職場を探すのがおすすめです。
働けるか不安な場合は客として下見に行き、店員がどう動いているのかを観察してみるのもあり。持病をオープンにしたい方は、面接で不安をぶつけてみてみるのも、もちろんよいでしょう。
なお、私が経験した中ではコンビニ店員やゲームセンターの店員は意外と店内を走らなければならない場面が多く、正社員になるのは難しそうに思えました。
3. 工場勤務
もちろん業種にもよりますが、同じ姿勢を保つことが体力的に難しくない方は工場への就職も視野に入れてみるとよいかもしれません。
私が求人を見るときに重視していたのは、重いものを持つことがない業種や空調完備で体調を崩しにくい職場であること。給与だけでなく職場環境も細かくチェックすれば、自分の身体を守りながら働くことができるはずです。
4. 清掃員
清掃員の仕事は実際に働く友達の話を聞いたことで、自分にもできるかもしれないと思うようになりました。私は日常的な家事に体力的な負担を感じることはないので、同じような体調の方は検討してもいい職種だと思います。
また、清掃員という職種は学歴や特別なスキルなどは不問とされていることが多いので、当時、何もスキルがなかった自分にとっては働きやすそうに思えました。
清掃員と一口にいっても、清掃場所は様々。興味のある場所や動きやすい時間帯、勤務日数、自身の免疫力などを踏まえて、職場を考えるとよいでしょう。
【番外編】こんな働き方も迷った!
地元の大手企業での事務職を提案されて
職に悩んでいるときには、驚くべき誘いを受けたこともあります。それは、結婚してすぐのこと。夫が務めている地元の大手企業から、障害者雇用枠で事務の職員として働かないかと言われたのです。
障害者を雇用する企業には助成金が支給されるため、その企業も、おそらくそうしたメリットを踏まえ、私に声をかけてきたのではないかと思います。
この誘いは正直、とても魅力的でした。しかし、当時の私は障害をオープンできておらず、夫と同じ会社に勤めたら「あの人が奥さんで障害者なんだって」と周囲から言われそうだと、周囲の目が気になってしまったのです。
結局、企業側には夫を通じてお断りの連絡を入れましたが、この経験は私にとって衝撃的でした。なぜなら、自力での就活はまったくうまくいかなかったのに、誰かの家族になった途端、企業側から優しい提案をしてもらえたから。思いもよらぬ経緯で働き方が見つかることもあるのだと学びました。
絶望していたときにナイトワークに誘われて
じつはあまりにも就活が上手くいかず、自分の未来が不安になったときにはナイトワークも視野に入れていました。ナイトワークのスカウトは、障害があることを過度に気にしなかったからです。
「体に傷があるから不安」と言うと、スカウトは気持ちを受け止め、「うちは大丈夫ですよ。気になるなら、こちらで配慮もしますよ」と返答。昼職の採用担当者とは違う態度を見て、心が揺れ動きました。
結局、怖さがあったことや昼の仕事をしたいと思ったため、ナイトワークはしませんでしたが、口先だけだったとしても夜の世界で暮らす人の優しい言葉は就活に疲弊していた私の心に響きました。夜の業界で働く障害者の気持ちが、少し分かったような気がした経験でした。
体力的な不安が少なく、体調の悪化に繋がらない職場を探そう
私たち先天性心疾患者は症状の個人差が大きく、人によって視野に入れる職業が異なります。また、日によって体調が変わることもあるため、毎日同じ業務をこなすことが厳しいと感じる方もいるものです。
仕事がなかなか決まらないと焦り、自分の価値を見失うこともありますが、時間をかけてでも体力的な不安を感じにくく、体調の悪化に繋がらない業種・職場を探すことは大切。
コロナ禍の影響で近ごろは在宅ワークができる職も増えているので、そうした求人もチェックしながら、自分の健康を守れる働き方を見つけていきましょう。