秋山さん インタビュー

「心臓病で苦しむ人を幸せにする」ーーコルクレド代表の秋山が、人生をかけて成し遂げたいこと

公開日 2022年8月31日 最終更新日 2023年9月28日

「人生をかけて心臓病の人を助ける仕事がしたい。それは心臓病を抱えている自分だからこそ、やるべきことなんだ」

20代中盤、自分のキャリアについて考えたとき、秋山さんはそう思ったそうです。

今回は、心臓病、心臓障害の方のための就労メディア「はとらく」を運営するコルクレド株式会社代表の秋山典男さんにインタビュー。

心臓病の方を取り巻く現状や、はとらくが目指すことについてお話を伺いました。

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秋山 典男

東京都青梅市生まれ。先天性心疾患(心室中隔欠損症)をもち、2歳の時に開胸手術を受ける。21歳の時に心房粗動という病気で手術を受ける。前職のindeedにおける知見や経験、メガベンチャー企業での人事経験、障害者就職・転職支援企業での経験など。一般雇用、障害者雇用に関わらず就職や転職支援に精通。

【目次】

2度目の手術で自覚させられた心臓病への恐怖心

秋山さんが経験された心臓病について、教えてください。

秋山:
私は右心室と左心室の間を隔てる壁に穴が空いた状態で生まれ、先天性心室中隔欠損症と診断されました。その時点ではとくに大きな症状はなく、人によっては体の成長とともに穴が塞がることもあると医師から伝えられ、経過観察となりました。

しかし、よく風邪をひいたり体調を崩すことが多くなり2歳になっても自然に穴が塞がることはなかったため、手術を受けました。そのおかげで、手術以降は特段問題なく生活が送れるように。行動や食事への制限を受けることもありませんでした。

先天性のご病気だったんですね。現在までに、再発や悪化はありませんでしたか?

秋山:
この病気については再発や悪化はありませんでした。しかし、大学4年生になったときに、また別の心臓の手術を受けることになりました。内定を獲得したあとに大学の健康診断があり、そこで脈拍に異常が見つかったんです。

すぐに病院へ向かうよう指示を受け、翌週には手術を受けることに。結果として手術も無事に終わったので、日常生活等に大きな問題にはなりませんでした。しかし2度も心臓手術を受けたことで、いまだに心臓病への恐怖心は拭えていません。

私も心臓病で手術を受けたので、その気持ちはとてもわかります……。就職前の時期での手術だったとのことですが、就職への影響はありましたか?

秋山:
障害者雇用ではなく、一般雇用で内定をもらっていたので、「病気を理由に内定を取り消されるんじゃないか」という不安はありましたね。企業側にいつ伝えるか迷っていたんですが、幸い手術前と変わらない生活ができていたこともあり、入社前の段階で企業側へ伝えました。

私が卒業後に就職した先はソフトバンク株式会社でした。これは入社後に知ったことなのですが、ソフトバンクは病気や障害を抱えながら働く社員を、会社全体でサポートする体制が整っている会社でした。そのため私が病気のことを伝えたときも快く迎え入れてくれました。

自分の経験から見えた、人生をかけてでも成し遂げたいこと

新卒でソフトバンクに入社されてから、コルクレドを創業されるまでの経緯を教えてください。

秋山:
社会人になってからは、体調を崩したり心臓病を再発したりすることなく働けていました。そして26歳になったとき、ありがたいことに外資系の生命保険会社から、転職のお声がけをいただきました。

せっかくのチャンスと思い転職を決めかけたんですが、じつは当時、結婚を控えていたんです。転職先の生命保険会社は給与が成果に応じた歩合制で不安定だったため、パートナーと相談し転職しないことを決めました。

しかしその後、より不安定で大きな挑戦である起業をされています。

秋山:
生命保険会社に転職をしないと決めたあと、「自分は、本当は何がしたいのだろうか?」と改めて深く考えました。

「自分が好きなお酒や漫画に関する仕事をするのはどうか?」とも考えました。しかし「それを人生をかけた仕事にできるか?」と自分に問いかけたところ、答えは「ノー」でした。一方で「自分が苦しんだことや辛い経験をしたことではどうか?」と考えたとき……、「心臓だ!」と思わず声に出し、全身に鳥肌がたったことを今でも鮮明に覚えています。

秋山:
自分自身が経験した心臓病に関わる事業を通して、「自分と同じような立場、そして自分以上に苦労している人たちを助けたい、そのためなら人生を、命をもかけられる」と思いました。

そこで「心臓病で苦しむ人を幸せにする」という志のもとコルクレド株式会社を立ち上げました。

選択肢を広げるためには、企業の理解が必要

どうして就労に関わる事業を、コルクレド最初の事業として選んだのでしょうか?

秋山:
心臓病当事者の方に話を聞いたりアンケートを取ったりした結果、心臓病の人が最も悩んでいるのは「仕事」についてだと判明したからです。とくに長期的に働き続けられないと悩んでいるという声が多く聞こえました。

実際に40%近くの人が、「一年以内で仕事を辞めた経験がある」とアンケートで回答されていました。

どうしてそんなことが起きてしまっているのでしょうか?

秋山:
企業の理解が足りていないことが一番大きな原因です。心臓病は見た目にはわからない病気ですよね。そのため「心臓病があるとはいえ特別な配慮はいらない」と勘違いされてしまうんです。

心臓病当事者側からその認識を否定し、できることとできないことを明確に伝えられたら問題はないんですが、それも簡単ではありません。働きたい想いが強いほど、自分が我慢すればいいと企業側の無理を聞いてしまいます。そして無理をした結果、体調を崩してしまったという例が数多くあります。

また、全く逆の勘違いがあることも問題です。

逆の勘違いとは?

秋山:
必要以上に病気を重く捉えられてしまうことです。それにより「心臓に障害を抱えていると仕事をするのは無理だろう」と採用を敬遠されてしまうこともあります。心臓病を抱えた社員を採用したことがない企業に多いケースですね。

無理をして体調が悪化することも、働く機会が得られないことも辛いことですね……

秋山:
働くことは、お金を稼ぐことだけが目的ではありません。社会と関わりを持つことも労働の大切な目的です。それが病気だけが理由となり、自由に選択肢を持てない現状があります。

これを何としても変えたいと思っています。

正しい情報を届けることが「はとらく」の使命

はとらくを立ち上げた経緯について、教えてください。

秋山:
はとらくは「ハート」と「はたらく」そして「楽」を掛け合わせた造語です。

現状の課題を解決し、心臓病当事者が楽に働ける社会を作るためには、まず正しい情報を届けることが必要だと考え、はとらくを立ち上げました。

正しい情報があれば、企業側の誤解の解消にも繋がりますね。

秋山:
そうですね。そしてそれ以上に働く側へ、正しい情報を届ける必要があると思っています。

先ほどは企業側の配慮がないことを問題として挙げましたが、心臓病に理解がある企業もたくさんあります。しかしそれを知らないまま働くことを諦めている人や、どういった仕事、企業なら自分が働けるのかわからず挑戦をためらっている人がいます。

そういった人たちに正しい情報を届け、少しでも多くの働く機会を生み出したいと思っています。

はとらくはどんなメディアを目指していきますか?

秋山:
障害者雇用メディアは数多くありますが、はとらくは心臓障害に特化した情報メディアです。心臓病の当事者や医療従事者であるライターの方々の力を借りながら、リアルで本当に役立つ情報だけを届けます。

はとらくの目的は、心臓病を抱えた人が安心して働き続けられる社会をつくること。そのためにはまず企業側が持つ誤解を解消しなければいけません。そのうえで、心臓病を抱えた方の不安を解消し、働くきっかけ作りをしていきたいと思っています。

そしてゆくゆくは、より直接的に就職、転職のサポートができるように事業発展を目指していきます。

編集者。大学卒業直前に心室細動を起こし、AEDによる救命を経験。現在はS-ICDを挿入している。障害者雇用専門の転職エージェントを経験し、ライター、編集者として独立。やたらと甘いものを食べている。(Twitter:@hayawo_)