公開日 2022年11月22日 最終更新日 2023年11月11日
心臓リハビリテーションという言葉を聞いたことがありますか?私は理学療法士ですが過去には心臓リハビリテーション指導士としても、心臓リハビリテーションに携わっていました。
リハビリという言葉から運動のイメージが強く、患者さんからは「歩けばいいのよね?」「自転車こぎでしょ?」とよく言われます。
また、「運動すれば心臓はよくなりますか?」という質問を受けたことも。今回は、心臓リハビリテーションの内容や効果を知ってもらい、心臓疾患の人に心臓リハビリテーションがどうして必要なのかお伝えします。
執筆:大前 有香
理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。病院、介護施設、在宅と色々な分野で働いてきた。今は2人を子育てしながら家での新しい働き方を模索中。執筆記事一覧
【目次】
心臓リハビリテーションとは?
「心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)とは、心臓病の患者さんが、体力を回復し自信を取り戻し、快適な家庭生活や社会生活に復帰するとともに、再発や再入院を防止することをめざしておこなう総合的活動プログラムのことです。」
引用:日本心臓リハビリテーション学会 公式サイト
どこで受けられる?
心臓リハビリ実施施設の病院で、医療保険を使い受けられます。
入院中に受けられる病院は多いのですが、外来通院しながら受けることができる病院は少ないのが現状です。また、医療保険での心臓リハビリは治療開始日から150日間と期間が決められています。
150日が経過し医療保険が使えなくなった方でも、医療保険外(自費)で心臓リハビリを行っているメディックスクラブというNPO団体があります。興味のある方は主治医に相談してみてください。
どんな人が受けられる?
医療保険で心臓リハビリの対象となる疾患は以下の通りです。
- 心筋梗塞、狭心症
- 開心術後
- 大血管疾患(大動脈解離、解離性大動脈瘤、大血管手術後)
- 慢性心不全(呼吸循環機能や日常生活能力が低下しているもの)
- 末梢動脈閉塞性疾患(歩くと足が痺れる等の症状があるもの)
- 経カテーテル大動脈弁置換術
慢性心不全は、具体的な数値など条件があります。
どんなリハビリをするの?
心臓リハビリは、疾患の治癒や時間経過により目的や内容が変わります。
出典:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
運動療法
運動は、心臓リハビリの基本となります。
急性期では、起きる、立つといった基本動作から始め、身体を動かすことに対する心臓の反応を心電図や血圧計などで確認しながら進めます。徐々に歩く距離をのばしていき、運動耐容能(全身持久力)の指標となる6分間歩行での歩行距離が300m以上になると、次の運動プログラムへ進みます。
運動プログラムの内容は、ウォームアップ、有酸素運動、レジスタンストレーニング、クールダウンが基本です。多くの病院では、有酸素運動にトレッドミルやエアロバイクなどのマシンを使用しています。運動時間は20~60分で、頻度は、週3回以上ですが毎日行うことが理想です。
生活習慣病予防、改善のための教育
回復期では運動に加え、さまざまな指導が始まります。これらは退院時指導とも言われ、退院前に積極的に行われます。
生活習慣病が関係する心臓疾患もあり、再発を予防するためにも生活習慣の改善が必要です。退院後は指導を受ける機会が減ってしまうため、自己管理が大切です。外来通院で心臓リハビリを継続していると、定期的に看護師や理学療法士から生活習慣の確認、指導を受けられます。
カウンセリングなどの心理的サポート
心臓疾患をもつ方に対して忘れてはいけないのが、抑うつ症状を防ぐための心理的サポートです。抑うつ症状はさまざまな疾患で現れる症状ですが、一般人口で10.3%に対し心臓疾患では17~27%と高く、およそ3倍とされています。また心不全患者では重症になるほどうつ病になる確立が高いと言います。
運動療法だけ継続した人に比べ、運動療法と同時に心理的なサポートも受けた人の方が抑うつ症状や不安は軽減し、QOL(生活の質)が向上することが研究でも明らかになっています。
しかし、こちらも退院後には受ける機会が減ってしまいます。心理的な部分は自己管理がとても難しいため、外来心臓リハビリでの定期的なフォローの効果はとても大きいと思います。
心臓リハビリの効果
心臓リハビリには、以下のような効果があります。
- 運動耐容能(全身持久力)の向上、息切れなどの症状の改善
- 心臓疾患の再発・再入院率・死亡率の低下
- QOL(生活の質)の向上
運動によって筋肉量が増えることで、身体が動かしやすくなります。また、血管が拡張しやすくなることで体内への酸素の取り込みが増え、心臓の負担も軽減します。
運動耐容能(全身持久力)と心臓が収縮する力には強い関係性はなく、運動による効果は心臓機能の改善というよりも、筋肉や血管の変化によるものと考えられています。
「心臓リハビリ=運動」ではない
心臓リハビリにおいて、運動は大きな割合を占めています。しかし、心臓リハビリの目的は運動することだけではありません。
再発・再入院の防止が大切
急性心筋梗塞を起こした人の約27~40%が3年以内に再発すると言われています。この再発は心筋梗塞という同じ疾患に限らず、心不全など心臓関連の疾患の再発です。
つまり、一度心臓疾患になった人は他の心臓疾患も起こす危険が高まってしまいます。治療したから終わり、ではないのが心臓疾患です。
この再発や再入院を防ぐことが、心臓リハビリの大きな目的となります。
生涯にわたり継続が必要
心臓疾患の再発・再入院を防ぐために、運動をして塩分制限や栄養など食事も考え、禁煙もします。しかし、再発を恐れてあまりに厳しい自己管理をすると、それが負担になりQOLは低下してしまいます。
心臓リハビリにおいて大切なことは、生涯にわたり継続して行うことです。ゴールがあれば、多少無理をしてもがんばれるかもしれません。しかし、心臓リハビリにはゴールがありません。乗り越える壁でもありません。
人生の一部として一緒に生涯を歩んでいくものです。肩の力を抜いて取り組んでください。
心リハ指導士が考える心臓疾患との付き合い方
自分の心臓を知る
まずは、自分を知ることが大切です。自分の心臓はどんな病気になり、どんな治療をしたのか。なぜこの薬が必要なのか、薬を飲まないとどうなるのか、
医師からの説明は難しい言葉もあり、一回の診察で理解できないかもしれません。その時は、看護師や理学療法士、薬剤師にも聞いてください。
そして、心臓リハビリでの運動を通して自分の心臓がどのくらいの負荷に耐えられるのか、疲れたと感じるとき心臓はどんな反応をしているのかを把握しましょう。
疲れの感じ方には個人差があるので、自分の中でこのくらいの疲れは心臓に影響がない、こうなったら休憩が必要という判断基準をもつことが大切です。
同様に体調の波を知ることも必要です。天気や温度、睡眠時間などその日によって体調は変化します。体調が悪いとき、寝ると落ち着くのか少し動くと落ち着くのか、自分なりの対処法が分かっていると安心です。
ひとりで考えない
自己管理は大切ですが、なんでもひとりでがんばってはいけません。悩みや不安は、QOLを下げてしまいます。体調の変化や生活の中で悩んだり、困ったりしたときは誰かに相談してください。
心臓疾患の自己管理はとても難しいので、全てを完璧にできる人はいません。しかし、手を抜いてしまっては効果がありません。そのさじ加減を一緒に探していけるのが私たち医療従事者だと思います。
150日間という限られた時間を有効に使うためにも、退院後の外来心臓リハビリの役割はとても大きいのです。
まとめ
心臓リハビリの効果は確立されてきていて、積極的に取り組んでいくべきものだと思っています。心臓疾患で入院中に、歩いたり自転車を漕いだりという運動をした方もいると思います。
それは、心臓リハビリの一部でしかありません。運動、生活習慣の改善、QOL(生活の質)の向上、全てが心臓リハビリです。是非、退院後も生涯にわたり心臓リハビリを続けてください。現在は、心臓の状態が安定している人が心臓リハビリを受けられる場所がほとんどありません。
ですが、しっかりと自身の心臓を理解していれば適切な運動や食事で生活できます。自己流が不安があれば、ご紹介したNPO団体に参加できるか主治医に相談してみてください。理学療法士として、心臓リハビリテーション指導士として、心臓疾患と一緒に楽しい人生を送れる方が増えることを望みます。
※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。