脈が飛ぶのは心配はない?原因と受診を検討すべきポイントを解説

公開日 2023年5月4日 最終更新日 2024年2月18日

「脈が飛ぶ」のは不整脈の一種です。本来は規則正しく心臓が拍動(はくどう)していますが、何らかの原因で拍動が不規則になった状態を脈が飛ぶと表現します。

脈が飛ぶことは決して珍しいことではありません。ご自宅で様子を見てもよい場合もあれば、まれに命にかかわるような場合もあるため自己判断は禁物です。今回は脈が飛ぶ原因や受診を検討すべきポイントについて解説します。

 

ライターの画像

監修:谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

【目次】

「脈が飛ぶ」のはどんなとき?

どのような時に脈が飛ぶのか知っていますか?

まずは正常な心臓の動きと、脈が飛ぶときの心臓の動き、そして不整脈との違いについて解説します。

脈が飛ぶときに心臓に起こっていること

まずは正常な心臓の動きについて理解しましょう。

心臓がドクン ドクンと動くのは、心臓の洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分から発生した電気刺激が心臓全体に伝わり心臓の筋肉が収縮するから。

この電気刺激が伝わる速度は、ヒス束・プルキンエ線維が一番早く4m/秒、一番遅い房室結節でも0.05m/秒です。

あっという間に心臓に伝わる電気刺激。この刺激によって心臓が収縮すると、全身の動脈に血液が送られ、脈拍として感じ取ることができるようになるのです。

これを数えたのが脈拍数で、皮下脂肪や筋肉の少ない手首や脚の付け根、首などで測定できます。

では「脈が飛ぶ」とき、心臓にはどのようなことが起こっているのでしょう。

脈が飛ぶときには、洞結節で発生した電気刺激が心臓の中をうまく伝わらず、心臓が上手く収縮できません。その結果、全身の動脈に血液が十分に送られなかったり、脈拍として感じ取りにくくなったりするのです。

「脈が飛ぶ」と「不整脈」の違い

脈が飛ぶと不整脈にはほとんど違いはありません。ただし、不整脈には下図のように多様な種類があります。

以下に紹介するのは、不整脈のごく1例です。

不整脈の種類ごとに、電気刺激が伝わりにくくなっている原因は異なります。

さらに脈が多くなるもの(頻脈)、脈が少なくなくなるもの(徐脈)、脈が飛ぶものなど、不整脈によって脈拍の感じ方はさまざま。

全ての不整脈が「脈が飛ぶ」とは限らないのです。

脈が飛ぶのは誰にでも起こる

脈が飛ぶのは誰にでも起こります。

一番多い原因は、電気刺激がいつもより早めに出るために起こる″期外収縮”(きがいしゅうしゅく)。例えるなら「心臓のしゃっくり」のようなものです。

期外収縮の時に脈を測ると「トン・トトトン・・・トン」のようにタイミングがずれたように感じます。期外収縮は30歳を超えると誰でも起こりますが、体には大きな影響はない不整脈です。

なお、期外収縮がおこる原因には次のようなものがあります。

  • 加齢
  • ストレス
  • 睡眠不足
  • 過労
  • アルコールの飲みすぎ
  • 喫煙
  • 心臓や甲状腺の病気

脈が飛んでいないか自分でチェックしよう

脈が飛んでいないか、自分でチェックする方法を2つ紹介します。

1つ目は自分で測定する方法です。

手首にある橈骨動脈を触って脈拍を測定します。

手首のしわの部分に反対の手の指を写真のように置きましょう。すると指先に、ドクドクと伝わってくる拍動が感じられます。

まずは1分測定し、不規則な場合は2分程度測定しましょう。

2つ目は、機械を使って測定する方法です。

パルスオキシメーター(酸素飽和度測定計)で簡単に脈拍をチェックできるのはご存じですか?

パルスオキシメーターをお持ちの方は、酸素飽和度を測定する時と同様に指先に1~2分程度機械を付けてみてください。

「ピッ・ピッ・ピッ・ピッ・ピッ」

規則正しく音が聞こえる場合は、脈は飛んでいません。

「ピッ・ピッ・ピッ・・・ピッ・・・ピッ」

音が不規則に聞こえる場合は、脈が飛んでいる可能性が高いです。

ただし、指先が冷たい方、ネイルをしている方はこの方法では正しく測定できないため、おすすめできません。

様子を見てもよい「脈が飛ぶ」とき

脈が飛んでも様子を見てもよい場合がいくつかあります。そのうち代表的なものを3つ紹介します。

医師の診断を受けている

期外収縮や何らかの不整脈の診断を受けていて、医師から様子を見てもよいといわれている方は医師の指示に従い様子をみてください。

以前は、期外収縮の方も積極的に不整脈の治療を行っていました。しかし医学が発達し、治療をしなくても寿命には影響を与えないことが明らかになりました。

その結果、自覚症状のない期外収縮の方は、様子をみることが一般的になっているのです。

いつもと頻度が変わらない

脈が飛ぶ頻度がいつもと変わらない、また頻度が増えても、長時間続かず自覚症状もない場合は様子を見てもよいです。

脈が飛ぶ以外の自覚症状がない

期外収縮が原因で脈が飛んでいる場合には、自覚症状がないことがほとんど。

たまたま脈を測定したときに、偶然脈が飛んでいることに気付いた場合も様子を見ても問題ありません。

こんな時は要注意!受診すべき「脈が飛ぶ」とき

次に、医療機関の受診を検討すべきポイントを3つ紹介します。

胸が苦しい感じがする

脈が飛んでいる以外に「胸がドキッとした」「苦しい感じがする」など、胸の不快感を覚える方もいます。しかし、その症状が数~数十分続く場合には、期外収縮以外の不整脈が起こっていたり心臓の血管の流れが悪くなったりしている可能性があります。

脈が飛んで胸が苦しい感じがするとき、症状が続くときには医療機関を受診しましょう。

気持ち悪くなる

期外収縮が起こったときに、違和感を覚えたり気持ち悪くなったりする方がいます。

また、期外収縮だけでなく、不整脈が長時間続いたときに気持ち悪さを感じる方が少なくありません。さらに心臓の血管が狭くなったり、血液の流れが悪くなったりすると気持ち悪さを感じることも。

脈が飛ぶだけでなく気持ち悪さを自覚するときは、心臓になんらかの異常が起こっているサインかもしれません。「脈が飛ぶ×気持ち悪さ」を自覚したら、早めに医療機関を受診してください。

血圧が下がる

心臓には全身に血液を送り出す、重要な働きがあります。

心臓が拍動することで全身に血液を送り出しているため、不整脈が起こっていると心臓から上手に血液を送り出せなくなったりしてしまうケースがあります。

具体的には、房室ブロックや心房・心室細動などの不整脈で血圧が下がりやすいです。重症になると意識を失ったり、心臓が止まってしまったりする可能性もあります。

「どのような不整脈が原因で、脈が飛んでいるのか?」

これについては、脈をチェックするだけではわかりません。心電図でより詳しく調べる必要があり、命にかかわることも。脈が飛んで血圧が下がっているときは、速やかに医療機関を受診しましょう。

「脈が飛ぶ」ときにおこなう検査

脈が飛ぶときにおこなう代表的な検査を以下にまとめました。

心電図 安静時12誘導心電図検査以外にも、24時間ホルター心電図をおこなう場合もあります。
運動時負荷心電図検査 運動しているときに現れる不整脈をチェックします。ランニングマシーンのような機械の上を歩いたり走ったりしているときの心電図変化を調べるトレッドミル。自転車を漕いでいるときの心電図変化を調べるエルゴメーターなどがあります。
心臓超音波検査(心エコー) 心臓や弁の動き、壁の厚さ、形の異常などをチェックし、脈が飛ぶ原因がないか調べます。
心臓CT・MRI 脈が飛ぶ原因を調べ、心臓の形を正確に把握するためにおこないます。
採血 貧血や甲状腺の病気で脈が飛ぶことがあるため、病気が隠れていないかチェックするケースもあります。

ホルター心電図検査については、こちらの記事「ホルター心電図はどんな検査?検査の概要や仕事、生活への影響を現役看護師が解説」で詳しく解説しています。

「脈が飛ぶ」ときにおこなう治療

期外収縮が原因で脈が飛んでいる場合で、自覚症状がない場合には様子を見ることが一般的です。

しかし、それ以外の不整脈が原因で脈が飛ぶときにおこなう基本的な治療には、次の3つがあげられます。

  • 1. 生活習慣の改善
  • 2. 薬物療法
  • 3. 手術

順に解説します。

1.  生活習慣の改善

カフェインの過剰摂取、ストレス、睡眠不足、自律神経の乱れを改善し、脈が飛んだり不整脈を起こしにくい生活習慣を目指します。

生活習慣については、こちらの記事「少し動くだけでも疲れやすい…心臓病の人がラクに生活するためのポイントを解説」で詳しく解説しています。

2. 薬物療法

心臓からの電気刺激をコントロールしたり、脈が早くなったり遅くなったりしにくくなる薬を服用します。

3. 手術療法

上記2つの治療方法で症状の改善が見られなかったり、脈が飛んで血圧が下がったりする場合には、脈が飛んだり不整脈が起こらないような治療をおこないます。

手術療法には大きくわけて以下の2つの方法があります。

名称 カテーテルアブレーション ペースメーカー挿入術
特徴 不整脈の原因となる心臓の電気刺激が起こらないように心臓の組織の一部を焼く治療方法。

太ももの付け根や手首・首の太い動脈から心臓まで届く長いカテーテルを挿入して治療する。

電気刺激の異常で脈が遅くなる場合におこなう治療方法。

心臓の電気刺激が乱れたり、遅くなったりした際に、ペースメーカーが心臓の代わりに電気刺激を送る。
代表的なペースメーカーには以下の種類がある。

入院期間 日帰り~1週間 2日~1週間

ペースメーカーについては、こちらの記事「ペースメーカーを埋め込むと仕事にどんな制限があるか?注意すべき環境とは」で詳しく解説しています。

まとめ

「脈が飛ぶ」ことは年齢を重ねると誰にでもおこりうる症状です。

そして、その原因の多くは自覚症状のない”期外収縮”と呼ばれる不整脈で、様子をみることが一般的です。

しかし、ごくまれに心臓から血液を上手く送り出せなくなり、意識を失ったり心停止してしまう致死的な不整脈が原因で脈が飛んでいることがあります。

どのような原因で脈が飛んでいるか、様子をみれる状態かを判断するには、医療機関で詳しく調べる必要があります。

脈が飛んでいることに気付いたり、加えて体調不良を感じたりしたら速やかに医療機関を受診しましょう。

※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

▶︎「はとらく」にキャリア相談をする

大学看護学部卒業後、小児・内分泌・循環器科で勤務。看護師として働きながら、知識と経験を活かし医療ライター・監修者として活躍中。https://odaakari.com/