ペースメーカーを埋め込むと仕事にどんな制限があるか?注意すべき環境とは

公開日 2022年11月3日 最終更新日 2024年2月18日

「ペースメーカーを入れて障害者になったのだけど、これからの就職活動が不安。」

ペースメーカーや、ICDを植え込んだ人の中には、上記のような不安を抱えている人もいるのではないでしょうか?

ペースメーカーを埋め込んでいる方は、埋め込みに至った基礎疾患への配慮と合わせて、ペースメーカー自体にも注意しながら職場を選ぶ必要があります。

この記事は、

  • ペースメーカーの方が仕事を選ぶ際にどのような制限があるのか
  • ペースメーカーの人が選ぶべき職場
  • ペースメーカーの人が選ぶべきではない職場環境

上記を解説していきます。

「ペースメーカーを植え込む予定」「ペースメーカーを植え込んでこれから仕事を探す方」には有益な記事になりますので、ぜひ最後までご覧ください。

ライターの画像

監修:谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

【目次】

ペースメーカーとは?

まずは、本題に入る前に簡単にペースメーカーについて確認しておきましょう。

ペースメーカーとは

ペースメーカーとは、心筋に刺激を与えることで、心臓の正常な動きを促す医療機器のことです。心臓自体の脈(自脈)を検知して(センシング)一定以上の時間内に脈が無い場合に、刺激(ペーシング)を行います。

ペースメーカーの適応となる心疾患

不整脈非薬物治療ガイドライン」では、ペースメーカーの対象となる疾患は以下の通りとしています。

  • 房室ブロック
  • 2枝および3枝ブロック
  • 洞不全症候群
  • 徐脈性心房細動
  • 過敏性頸動脈洞症候群・反射性失神
  • 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)

なお、全ての場合でペースメーカーの植え込みの適応となるわけではありません。

上記の疾患の中でも、症状の有無や重症度によって治療方法が異なります。

ペースメーカーとICD(除細動器)の違い

ペースメーカーと混合されがちな医療機器に「ICD」があります。

ICDは、ペースメーカーのように日常的に心臓をペーシングするものではありません。

ICDは、常に心臓を監視して、心肺停止に至るような致死性の不整脈を感知して、電気ショックを与え心臓を正常な動きに戻します。

突然死の予防的な意味合いで植え込みを行うため、適応となる疾患や、心臓の状態などはペースメーカーとは異なります。

ペースメーカーは心臓を常にサポートするもの、ICDはいざという時心臓を守るもの、というイメージです。

ペースメーカーとICDの違いについては、こちらの記事「ICDとペースメーカーって何が違う?それぞれの役割や機能をくわしく解説」ICDについては、こちらの記事「ICDとは?機能や植え込みにかかる費用を解説!生活や仕事に与える影響とは」でそれぞれ詳しく解説しています。

ペースメーカーを入れた後の生活の変化

ペースメーカーを入れたとしても、他に病気を抱えていない場合であれば、入れる前とほとんど変わらない日常生活を送れます。しかし、ペースメーカーは、電流や磁力の影響を受けるため、生活する上でいくつかの制限はあります。

たとえば、肩こりや腰痛のケアに使われる低周波治療器は、体に電気を流すため使用できません。

また重い荷物を持ったり、激しい運動をしたりすることも、ペースメーカーに影響を与える可能性があるため、自分がしても良いこととしてはいけないことについては、必ず主治医に確認しましょう。

ペースメーカーを入れると仕事上でどんな制限が生まれる?

ペースメーカ,ICD,CRTを受けた患者の 社会復帰・就学・就労に関するガイドラインでは、「ペースメーカーやICDなどのデバイス植え込み後の運動制限は、原因となった疾患によって大きく異なる」としています。

運動・作業の制限を考える上で使用されるのが「METs」という指標です。

※METsとは安静に座っている状態を1METsとして、様々な活動が何倍のエネルギーを消費したか示す活動強度です。数字が大きくなるほど、活動強度が強くなる=活動量が上がることを示します。

下記の表は「METs」と、心疾患のリスクの関係性です。

出典:​​ペースメーカ,ICD,CRT を受けた患者の 社会復帰・就学・就労に関するガイドライン

心疾患のリスクが「軽度」「中等度」「高度」のいずれかによって、許容できる作業強度(METs)が異なります。

職業ごとの、METsの目安は以下の通りです。

出典:​​ペースメーカ,ICD,CRT を受けた患者の 社会復帰・就学・就労に関するガイドライン

一般事務の作業強度が1.5〜2.0MEtsです。この場合、心疾患のリスクが「高度」の場合でも条件付きで許容となっています。

一方で、郵便配達は7.0〜10.0METsとなっています。配達業務は活動量が多く、心疾患のリスクが軽度でも、条件付きの許容、高度の場合は禁忌とされています。

ほかには、大工仕事が7.0METs、農作業が7.8METsなど、一般的に体力を使う仕事はMETsも高くなっています。

活動制限については疾患の症状や重症度によって異なりますので、医師に相談・確認しておきましょう。

ペースメーカーを植え込んでいる人が働きやすい仕事・職場とは

では、ペースメーカーを植え込んでいる人が働きやすい職業・職場はどのようなものなのでしょうか。

働きやすい仕事・職場

働きやすい職場は以下の通りです。

  • 障害に理解がある
  • 障害者雇用の実績がある
  • 障害者雇用を積極的に行っている

障害者雇用の実績があれば、働きやすい環境が整っている可能性が高いです。

たとえば、「通院のための休暇制度がある」「上司が体調に配慮してくれる」「業務内容を調整してもらえる」などです。

特にペースメーカーの植え込みを行っている場合、外部からは「障害を持っている」「心疾患による症状がある」と分かりづらいものです。

気になる職場を見つけたときには、障害者雇用の実績を確認しておきましょう。

なお、厚生労働省の「障害者雇用実態調査結果」によると身体障害者の就業先で、最も多くの割合を占めているのは「事務的職業」となっています。

活動量(METs)も少なく、ペースメーカーやICDに影響する電磁機器に接する機会もないため、心疾患を持つ方も働きやすいでしょう。

心臓に病気を抱えている場合、仕事による心臓への負担を軽減することが大切です。そのため、職種としてはデスクワークがおすすめです。

【おすすめの職種】

  • 一般事務
  • 人事
  • 経理
  • プログラマー・エンジニア
  • データ入力

心臓病の人におすすめの仕事については、こちらの記事「心臓病でも出来る仕事とできない仕事の違いとは?向いてる仕事に転職する方法も解説」で詳しく解説しています。

またパートナーの収入や、貯蓄があるなら、在宅ワークとして、クラウドソーシングサイトを利用するのもおすすめです。

  • 動画編集者
  • Webライター
  • Webデザイナー

大きな収入にはなりづらいですが、初月で5〜10万円の収入を得ることも十分可能です。

時間、場所を選ばず自分のペースで働けるというのも魅力です。

心疾患を持ちながらWebライターとして活躍されている人の働き方については、こちらの記事「フリーランスもひとつの働き方~先天性心疾患の私が見つけたライターという職~」を参考にしてみてください。

注意すべき職場・環境

では、どのような職業・職場環境に注意が必要なのでしょうか。

以下は、「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」に記載してある注意すべき職場環境です。

出典:​​ペースメーカ,ICD,CRT を受けた患者の 社会復帰・就学・就労に関するガイドライン

具体的に記載している職業は以下の通りです。

  • プロスポーツ選手
  • スポーツインストラクター
  • 潜水士
  • 自動車レーサー

特殊な職種ですが、肉体を酷使する仕事は、動作や姿勢に起因してペースメーカーのリードが断裂してしまう可能性があります。

また、一般的な職種で注意すべきなのが「電磁干渉」の可能性がある職種です。

ペースメーカー、ICDの植え込みを行った場合には​​電磁干渉によるデバイスの不適切動作が発生する可能性があります。

【注意すべき環境】

  • 溶接:プラズマ溶接、半自動溶接
  • 車、バイク:自動車工場、鉄道車両、車検場
  • 溶解炉、溶着器:高周波溶着機、一般電気炉、電気溶鉱炉
  • 船舶:漁船、タンカー、巡視船
  • 農業機器:トラクター、コンバイン

一部の製造業、農業機器などには注意が必要です。

なお、このガイドラインでは上記の環境が「禁忌」と明言しているわけではありません。

とはいえ、「もしかしたらペースメーカーが誤作動するかも」と思いながら、仕事を行うのは精神的な負荷につながります。

あくまでも職種や、環境についての選択は、基礎疾患の状態も合わせて考える必要があります。

仕事を探すときに使用できる制度【障害者雇用制度とは?】

心疾患でペースメーカー・ICDを植え込みを行った方が就労する際に助けとなるのが障害者雇用制度です。

障害者雇用制度とは、障害者雇用促進法に基づいた雇用制度です。

対象は、「身体障害者手帳」「療養手帳」「精神障害者保険福祉手帳」の交付を受け、国に障害者と認められた方となっています。

障害者雇用については、こちらの記事「【2023年最新】障害者雇用の現状と課題【SDGs】

障害者雇用制度を利用する3つのメリット

では、求職者として障害者雇用制度を利用するメリット・デメリットはどのようなものなのでしょうか。

【障害者雇用制度を利用するメリット】

  • 環境の良い職場に出会いやすい
  • 就職の可能性が高くなる
  • 一般求人よりも離職率が低い

良い環境の職場に出会いやすい

厚生労働省から、障害者雇用を行う上での注意点として「障害者に対する合理的配慮」を明記されています。

障害者に対する合理的な配慮とは、障害者が働きやすくなるように、物理的、精神的な配慮のことです。

【合理的配慮の例】

  • 車いす利用者のために階段に簡易型のスロープを設置する
  • 時短勤務、在宅勤務など柔軟に変更できる雇用制度を導入する
  • 通院のために年次休暇とは別に休暇制度を導入した

参考:内閣府​​「合理的配慮事例」

事業者は障害者雇用のために環境を整える必要があり、障害者雇用制度を通して就業することで、働きやすい環境にめぐり会える可能性が高くなります。

就職の可能性が高くなる

企業は障害者の雇用枠を用意しており、障害者雇用制度を利用することで、就業できる可能性は高くなります。

実際に、雇用障害者数は増加しており、厚生労働省の調査では、令和3年の時点で、59万7786人で過去最高を更新しています。

一般雇用求人よりも仕事を続けやすい

障害者雇用を利用して就業することで、環境を整えやすいことから、仕事を続けやすいというメリットがあります。

一般求人と、障害者雇用の定着率は以下の通りです。

定着率(就業3ヶ月後) 定着率(就業1年後)
障害者求人 86.9% 70.4%
一般求人(障害開示) 69.3% 49.4%
一般求人(障害非開示) 52.2% 30.8%

出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究結果

一般求人で就業する場合でも、障害を就職先に開示して働く場合と、開示せず(非開示)で働く場合で、定着率は異なります。

障害者雇用の場合は、障害を開示することになりますが、職場の理解を得やすく環境を調整しやすいため、定着率は高くなっています。

周囲に障害を理解してもらうのは、働く上で重要です。

障害者雇用制度を利用する2つのデメリット

次にデメリットです。

【障害者雇用制度を利用するデメリット】

  • 平均月収は低くなる可能性がある
  • 職種の選択肢はせまい

平均月収は低くなる可能性がある

障害種別 平均月収
身体障害者 21万5千円
知的障害者 11万7千円
精神・発達障害者 12万5千円

出典:厚生労働省 平成 30 年度障害者雇用実態調査結果

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の平均賃金は、30万7千円です。

身体障害者でも、10万以上の差があります。

障害者雇用の給与が低い理由は、「賃金支払い形態」「雇用形態」「労働時間」などに原因があります。

障害者雇用の給料については、こちらの記事「障害者雇用の給料は安い?給与の現状や年収アップの方法を解説」で詳しく解説しています。

職種の選択肢は少ない

職種の選択肢は少なくなる傾向があります。

下記は平成 30 年度障害者雇用実態調査結果より発表された身体障害者の職業です。

出典:平成 30 年度障害者雇用実態調査結果

身体障害者の就業のうち「事務的職業」が32.7%、「生産工程の職業」が20.4%と、ふたつの職種が50%を占めています。

反対に、「農林漁業の職業」0.1%、「建築・採掘の職業」0.6%となっています。

企業側も、障害者雇用の枠は、障害者が働きやすい職種を用意しており偏りが出てしまいます。

障害者雇用を利用して仕事を探しても、自分の働きたい職種が見つからないということもあるかもしれません。

障害者雇用で働く方法

では、どうすれば障害者雇用制度を利用できるのでしょうか。

要点を確認しておきましょう。

  • 障害者手帳を取得取得する
  • ハローワークなどで障害者向けの求人に応募する

障害者手帳を取得する

障害者雇用で働くためには、障害を証明する「障害者手帳」が必要です。ペースメーカーを植え込むと、障害者手帳の取得が可能になります。

障害者手帳の申請の手順は以下の通りです。

  • 1. 地方自治体の窓口に相談
  • 2. 指定医に診断書を書いてもらう
  • 3. 地方自治体の窓口に書類を提出する

手帳交付申請や相談は市町村で決められた福祉事務所や、支所が窓口となります。医師の診断書は各都道府県で定められた様式があります。各都道府県のホームページでダウンロードするか、相談窓口で受け取りましょう。

身体障害者手帳の申請方法やメリットについては、こちらの記事「心臓疾患の人は障害者手帳を持つべき?メリットや申請方法について解説」で詳しく解説しています。

ハローワークなどで障害者向けの求人に応募する

障害者の就労に関する窓口は、いくつかあります。

  • ハローワーク障害者相談窓口
  • 地域障害者職業センター
  • 障害者就業・生活支援センター
  • 障害者雇用専門の転職エージェント

すぐに働ける状態であれば、ハローワークで仕事を探すといいでしょう。

障害者雇用を利用するには障害者手帳か、医師の診断書が必要なので、手元にある際は必ず持参しましょう。

ハローワーク来訪後は、求職申込の登録、ハローワークカードの受け取りなど、ハローワークで求職する流れに沿って、転職活動を行うことになります。

地域障害者職業センターは、障害者に対して、職業訓練、リハビリテーションを行う拠点です。

また、障害者就業・生活支援センターは障害者の就労に関する相談や、就職の支援を行う場所です。ハローワークとも連携があり、就労に関して不安があれば、ここに相談して障害者雇用についての不安を解消しましょう。

障害者雇用専門の転職エージェントもおすすめです。「転職エージェント」は就労相談、仕事の紹介、面接対策などの就労支援を一体的に行うサービスです。

「障害者雇用専門転職エージェント」は、その名の通り障害者雇用に特化しており、利用者の状況や障害にあった求人を紹介してくれます。利用は全て無料なので、気軽に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

本記事は下記の内容を解説しました。

  • ペースメーカーの方が仕事を選ぶ際にどのような制限があるのか
  • ペースメーカーの人が選ぶべき仕事とは
  • ペースメーカーの人が選ぶべきではない環境

心臓疾患の中でも、活動制限があるペースメーカー。仕事を探すのも大変だと思います。

しかし、自分にマッチした職場や、働き方を見つけることで長く働くこともできます。

障害者雇用制度をはじめとして、障害者を支援する制度もありますので、うまく活用しながら無理なく仕事を見つけましょう。

看護師&WEBライター。介護士歴7年、資格取得後に看護師へ転職。国立病院の循環器科を経験。現在は地域医療を学ぶために田舎の救急病院に勤務。検査、救急対応、外来対応、病棟看護なんでもやってます。(Twitter:@ns_shokpan)