突然の心室細動で倒れた男性が教えてくれた「不安との向き合い方」

公開日 2023年7月13日 最終更新日 2023年11月14日

心室細動とは、規則正しく動いていた心臓の心室が突然不規則に震え、すぐに救命処置を受けなければ命を落としてしまう不整脈の中でも重症なものです。いきなりこんな不整脈が起こったら、生活や人生の様子は一変してしまいますよね。

どうしてこんなことになったのだろう?今まで通りの生活はもうできないの?など、不安は尽きないと思います。今回は、私が循環器内科病棟の看護師として勤務していた頃に出会った、患者様のAさんから教えてもらった「不安との向き合い方」についてご紹介していきます。

不安は誰しも抱えるものなので、同じような状況でない方にも届くメッセージかと思います。ぜひ最後までご覧になってくださいね。

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執筆:隈﨑 愛樹

看護師兼複業ライター。救命救急センター、集中治療室、心臓血管外科・循環器内科、訪問看護の経験をもとに、「医療を身近に感じる」記事を執筆しています。2歳男児の育児に奮闘中!執筆記事一覧

【目次】

担当患者様の事例

私が担当したAさんの事例をご紹介します。

  • 40代前半男性
  • 小学生の兄妹の父
  • 商社勤務
  • 通勤中自宅最寄りの駅構内で突然倒れ、駅員による救命処置を受けAED作動。
  • 救急搬送され、心室細動の診断で採血・心エコー・12誘導心電図・CT検査するも明確な原因は不明。
  • 入院され皮下植込み型除細動器(以下S-ICD)植込み術施行。

突然の出来事に、Aさんは入院直後しばらく呆然としていました。いつもと変わりない朝だったはずが、どうして今病院にいるのか?自分の身に降りかかった出来事が理解できなかったと。「妻も子供もいるし、どうやって生活していけば良いのか分からない。自分の体なのに自分のものと思えない」とAさんは、現実を受け入れられない様子でした。

そして障害者手帳の交付を受けることとなりました。ですが、医療ソーシャルワーカーから手続きの説明を受ける様子はどこか他人事のようでした。担当となった私は、Aさんがどのような心境でいるのかお話しを聞かせていただきました。

Aさんが打ち明けてくれた心のうち

「分からないことが怖い」

入院後、無事にS-ICD植込み術が終了したAさんを担当することとなった私は、術後しばらく経った頃にAさんにお話しを伺いました。

「どんなことが怖かったですか?」という問いかけに対し「倒れた当時、何が起こっているのかが分からなかった。分からないことが怖かった。」とお話しされたAさん。なんら変わりないいつもの通勤中、胸に強い衝撃を感じ目の前が真っ白になった途端、その場に倒れ込んでしまったと後から話を聞いたそうです。

次に目が覚めたら病院にいる。そして、胸にはS-ICDが植え込まれている。そんな状況には誰しもが恐怖心や不安を抱くでしょう。尊い日常が一瞬にして変わってしまいました。

「助かったのは間違いなく嬉しい、ただこれからどう生きようという感じ」

幸いなことに駅構内での発病だったため、すぐに周囲の人が駅員さんへの声かけや救急要請を行ってくれたそうです。人目につく状況だったのは不幸中の幸いだったとお話しされましたが、どこか気鬱な様子でした。

「助かったのは良かったけど、これからどうやって生きよう。車を使う仕事はできなくなってしまったし、家族を養っていく未来を描けなくなりました」とお話しされました。

「いつ発作が起きるか分からない恐怖」

これから先どうやって生活していくかを考えなければならないなか、「また発作が起こりS-ICDのショックが作動するかもしれない」という、予測のつかない未来への恐怖に怯えていたというAさん。

入院中に作動することはなく経過していたため、退院後も自宅に誰もいない時に発作が起き作動したらどうなるのか?という不安があったそうです。

どのようにして自分の体を受け入れたのか

自分の体を正しく知ること

それまで茫然自失となっていたAさんでしたが、時間の経過とともに少しずつ状況を受け入れるようになりました。それからというもの、入院中から退院されるまで、S-ICDについての疑問点を医師や看護師、臨床工学技士へ徹底的に質問をしていました。

S-ICDの適応や仕組み、どんなときに作動するのか?日常生活でどんなことに気をつけなければならないのか?など、ご自身が納得できるまで何度も確認していたのです。

「一つひとつ自分の目で情報を得ないと、自分ごととして考えられなさそうで」とお話しされるAさんの表情は、入院当初の呆然とした表情ではなく、自分の第二の人生を歩むんだという覚悟を持った表情に見えたのが今でも忘れられません。

克服ではなく共存の道を選ぶ

一体どのように不安な気持ちを克服したのか伺いました。

「なくなっていたかもしれない命、そう思うと不安に思う気持ちすらありがたいと感じました」と話すAさんが教えてくれたのは、不安に対して克服する気持ちを持つのではなく「共存する道」を選んだということでした。

不安は誰しもが感じるもの、一度は不安を解消したと思っても、次々と新しい不安は湧き出てくるもの。そう悟ったAさんは、まだ起きていない発作への不安に心を支配されるより、自分の体や状況について正しく理解をすることで、何に不安を感じているのか分析したそうです。すると、「少しずつS-ICDをお守りを持っているような安心する気持ちに変化した」とお話してくれました。

同じ境遇の人の話を聞く

これまで持病はなく病気とは無縁だったAさんですが、今回の発病を機に同じ病気を抱える人のブログやSNS・コミュニティを調べ、他の人がどのように社会生活を送っているのか話を聞いたそうです。

「自分が知らないだけで、同じように悩む人が沢山いると知りました。そこでの繋がりもできて、心強いですね。」と笑顔で話される姿を見て、自分自身で不安と向き合う姿に看護師としても強く励まされました。

正しく知ることが大切

今回は、突然の心室細動で心停止後に一命を取り留めた男性が、不安と向き合い現状を受け入れるまでの事例をご紹介しました。

Aさんが教えてくれた不安との向き合い方は、自分の体について正しい知識を得ること、得た情報について周囲の人や家族と相談をしたり共有することだということでした。

突然の病に不安や恐怖心を抱えない人はいません。

この記事を読まれている方の中には、ご自身もしくは周囲の人が病気への不安を抱えているという方もいらっしゃるのではないかと思います。そのときは、ぜひAさんのように不安をそのままにせず、正しい知識を得られるよう専門知識を持つ人や同じ悩みを持つコミュニティへ相談されることをおすすめします。

この記事を通して、少しでも不安との向き合い方について考える一助となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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看護師兼複業ライター。救命救急センター、集中治療室、心臓血管外科・循環器内科、訪問看護の経験をもとに、「医療を身近に感じる」記事を執筆しています。2歳男児の育児に奮闘中!