公開日 2023年7月20日 最終更新日 2024年2月18日
高血圧は、さまざまなリスクがある病気です。
合併症や、症状がある場合は就業に制限がかかる可能性もあります。本記事は仕事に不安がある人のために「高血圧による仕事の制限」「高血圧になりやすい仕事」「高血圧の改善方法」などを解説します。
この記事を読めば、仕事に関連した高血圧の悩みを解決する糸口が見つかるので、ぜひ最後までご覧ください。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
高血圧とは
高血圧とは「血圧が著しく高い状態」です。血圧は「心臓から送られた血液が血管の壁に与える圧力」を指します。
高血圧は放置しておくと、動脈硬化が進行する原因となり、さまざまな合併症を引き起こします。仕事への制限を受ける場合「高血圧による制限」より「高血圧による症状や合併症で制限を受ける」というのが正しいでしょう。
改善のために、高血圧がどのようなものなのか正しく理解しましょう。
- 高血圧の定義
- 高血圧の原因
- 高血圧の症状とリスク
上記をそれぞれ解説します。
高血圧の定義
高血圧の定義は、「診察室血圧」と「家庭内血圧」で異なります。診察室血圧では「140/90mmhg」以上で高血圧と診断されます。
詳細は下記です。(厳密な定義は年齢、性別ごとに異なるので下記は参考程度でお考えください)
分類 | 診察室血圧 | 家庭血圧 | ||
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
正常血圧 | <120 かつ <80 | <115 かつ <75 | ||
高値正常血圧 | 120-129 かつ <80 | 115-124 かつ <75 | ||
高値血圧 | 130-139 かつ/または 80-89 | 125-134 かつ/または 75-84 | ||
I度高血圧 | 140-159 かつ/または 90-99 | 135-144 かつ/または 85-89 | ||
II度高血圧 | 160-179 かつ/または 100-109 | 145-159 かつ/または 90-99 | ||
III度高血圧 | ≧180 かつ/または ≧110 | ≧160 かつ/または ≧100 |
出典:高血圧 eヘルスネット
家庭内で計測する場合は、診察室よりも低い基準が用いられています。
高血圧の原因
高血圧は「本態性高血圧」「二次性高血圧」に分類され、それぞれ原因が異なります。
本態性高血圧は、一般的に「原因不明の高血圧」と呼ばれており、「特定の病因や疾患によって発症するものではありません。
生活習慣や、ストレスなど複数の要因の関連が疑われており、高血圧の約90%が「本態性高血圧」と言われています。
一方で二次性高血圧は、原因となる疾患が明確なものを指します。原因疾患は多岐に渡ります。代表的なものは下記です。
- 腎臓疾患
- 内分泌障害
- 神経系疾患
- 薬物の副作用
二次性高血圧は、原因に基づいたアプローチが重要です。原因疾患の改善で高血圧も良くなるケースもあります。
自分の血圧がなぜ高いのか、まずは原因を正しく理解しましょう。
高血圧の症状とリスク
高血圧の自覚症状は基本的にほとんどありません。血圧が高いときは下記の症状が現れることがあります。
- 頭痛
- 動悸
- 頻尿
- 呼吸困難感
- めまいやふらつき
- 疲労感や倦怠感
血圧が高いと心臓に常に負荷がかかり心臓は疲労します。強い力で血液を送り出すため、心臓の筋肉は肥大化して機能低下を起こします。全身への血流は滞り、呼吸困難感や、めまい、疲労感などの症状につながるでしょう。
また、腎臓への血流が悪くなったり、高血圧で腎臓内の血管が損傷すると、血中の毒素が排出できなくなります。
余分な水分や塩分を体外に排出できなくなるため、血流量の増加から血圧が上がり心臓への負担も増える悪循環に陥ります。
高血圧による仕事制限は?
「高血圧になると就業制限がある」といった明確な基準はありません。仕事の制限については、本人の状態や企業の判断に任されています。
血圧や合併症の発生状況と合わせて就業制限や、業務調整を受けられる可能性はあるでしょう。
労働契約法第5条の「安全配慮義務」にて、企業は従業員の健康と安全への配慮を義務付けられています。
また、「労働安全衛生法」において労働者50人以上の企業は、産業医の配置により労働者の健康管理などが義務付けられています。
ただ、高血圧はどこまで就業の制限をもうけるか判断が難しい疾患でもあります。まずは現在の状況を企業へ相談することが重要です。
高血圧になりやすい仕事は?高血圧と仕事の関係性
では、ここからは「高血圧になりやすい」と考えられる仕事を解説します。自分が該当するかを確認してみましょう。
なお、詳しい仕事内容や、高血圧のリスクには個人差があります。
下記の仕事が必ず高血圧になるわけではないので、あくまで参考程度にご覧ください。
- マニュアル労働
- 高ストレスの仕事
- 長時間のデスクワーク
- 生活リズムが崩れやすい仕事
それぞれ解説します。
マニュアル労働
マニュアル労働は、一般的に「マニュアルに沿って行う仕事」を指し、単純労働とも言われてます。
マニュアル労働の中には、肉体的に負荷の多い重労働や、厳しい環境での作業もあります。身体的な負荷がかかるケースがあり、高血圧との関連性も高いと考えられます。
具体的には下記が挙げられます。
- 建設労働者:建築現場での土木工事や建築作業など
- 製造業労働者:工場での組み立て作業、梱包・包装作業など
- 倉庫作業員:商品の仕分けや棚卸しなど
- ホテル・レストラン業務:キッチンスタッフ、ホテルの清掃スタッフ
- 掃除業者:公共施設の清掃作業など
血圧は激しい運動や肉体労働でも上昇します。重たいものを持ち上げる瞬間や、力をこめるときに、一過性に上昇するため、すでに高血圧と診断されている人は特に注意しましょう。
ストレスの仕事
ストレスも血圧を高める要因です。
心理的なストレスを受けるとアドレナリンや、ノルアドレナリンなどが分泌されます。これらのホルモンは交感神経を刺激して高血圧や、心拍数を上昇させます。
ストレスの状況は個人的な要因や、職場環境などによって異なります。
とはいえ、責任感の強い仕事や、ノルマがある仕事、長時間の重労働などはストレスを受けやすいと考えられるので注意しましょう。
長時間のデスクワーク
長時間のデスクワーク自体は直接、高血圧の原因とはなりません。しかし、ライフスタイルに影響を与える可能性があります。
たとえば下記の通りです。
- デスクワークによる運動不足
- 長時間労働によるストレス
- 運動不足による食生活の乱れ
運動不足は高血圧になるリスク要因です。
長時間のデスクワークで運動不足や、長時間労働によるストレスを抱える可能性もあります。
また、ストレスに関連した食生活の乱れには注意が必要です。食事は血圧に関わる重要な要素であり、肥満やメタボリックシンドロームは高血圧のリスクを高めます。
生活リズムが崩れやすい仕事
生活リズムの乱れも高血圧のリスクです。
たとえば「シフト制の仕事」「三交替勤務」などがあげられます。また、長時間の残業が常習化している職場にも注意が必要です。
生活リズムで注意したいのが睡眠です。睡眠不足になると、自律神経の乱れや、ホルモンバランスの乱れにより高血圧の発症リスクを高めます。
スケジュール管理、環境を整えて一定の睡眠時間は必ず確保しましょう。
高血圧の予防方法
では、高血圧はどのように予防や改善すれば良いのでしょうか。
- 食生活の見直し
- 運動習慣の見直し
- その他の生活習慣の見直し
それぞれ詳しく解説します。
食生活の見直し
血圧に関連して重要なのが「塩分」です。
塩分を摂り過ぎると一時的に濃くなった塩分濃度を下げるために体内に水分が取り込まれます。結果として血流量が増えて血圧が上昇します。
塩分の基準値は「男性7.5g未満」「女性6.5g未満」です。日本人の摂取状況は、平均で2g程度(濃口しょう油に換算して小さじ2杯強)上回っていると言われています。
参考までに、塩分を多く含む食材をいくつかご紹介します。
- ラーメン:5.5g~8g
- うどん:4.1g~6.6g
- カップ焼きそば:4.9g
- 梅干し:1.8g
- 高菜の漬物、きゅうりの漬物:1.4g
- 辛子明太子:1.1g
心臓を含めて高血圧にいい食べ物については、こちらは「心臓病に良い食べ物を摂取して悪化予防!避けるべき食べ物や食生活もご紹介」で詳しく解説しています。
運動習慣
習慣的な運動は血圧を下げるのに有効です。特に有酸素運動は収縮期血圧を3.5mmHg低下、拡張期血圧を2.5mmHg低下させると言われています。
運動種目は、ウォーキング、ジョギング、ランニングがあげられます。厚生労働省からは、「できれば毎日30分以上」「一回の運動につき10分以上」「合計して1日40分以上」の運動が推奨されています。
運動の時間を取るのが難しい場合、「コンビニまで歩いて行く」「通勤を自転車に変える」など生活の中で運動を取り入れるのもよいでしょう。
その他の生活習慣
そのほかの生活習慣では「睡眠」には注意しましょう。
前述した通り「睡眠不足」も高血圧の原因になるため、できるだけ適切な時間の睡眠を確保しましょう。
睡眠に関してのポイントは下記です。
- 運動習慣をつける
- 睡眠2〜3時間前に入浴する
- 就寝前にカフェインを摂らない
- 寝る前にスマホは見ない
- リラックスできるルーティンを作る
眠気は体内の心部温度が下がるタイミングであらわれます。入浴で一時的に体温が上がることで、相対的に体温が下がりやすくなり、睡眠が取りやすくなるでしょう。
また、入浴により副交感神経が活性化すると、リラックス効果がありより眠りやすくなります。なお、熱すぎるお湯につかると交感神経が優位になり眠りづらくなるので注意しましょう。
高血圧で会社を休む場合に使える制度
最後に高血圧に関連して、仕事や生活に制限が出た場合に使える制度を3つご紹介します。
なお、企業によっては、細かなルールを決めている場合もあるため、詳細は職場に確認しましょう。
- 労働災害補償保険
- 傷病手当
- 障害者年金
それぞれ解説します。
労働災害補償保険
労働災害補償保険は、一般的に「労災」と言われています。業務中、通勤中のケガや、それらに関連した疾患に対して保険給付が得られます。
高血圧に関連した合併症があり、仕事との因果関係が証明できる場合は、対象となる可能性があるでしょう。
証明のポイントは「業務による明らかな過重負荷によるものであったか」です。
たとえば「発症前から長期的に著しい疲労が蓄積しやすい過重労働があった場合」や「発症に近い日で特に過重な労働があった場合」などは因果関係が証明できる可能性があります。
とはいえ「ただ血圧が高い状態」では労災が認定される可能性は低いと考えられます。あくまでも合併症や、症状があると認められる場合のみだと考えましょう。
労災については、こちらの記事「心疾患は労災になるのか?5つの心疾患と認定の条件とは?」で詳しく解説しています。
傷病手当
傷病手当は、業務外のケガや病気で働けなくなった場合に、本人や家族の生活を保証するために支給される手当金です。
高血圧に加えて合併症が起こり、会社を休まなければならないときなどに受給できる可能性があります。
受給の条件は下記です。
- 業務外の病気やケガで療養中であること
- 療養のための労務不能であること
- 4日以上仕事を休んでいること
- 給与の支払いがないこと
各保険の「被保険者」がこれらの条件を「全て」満たしたときに受給できます。
傷病手当については、こちらの記事「病手当金とはどんな制度?申請方法や使える4つの制度も合わせて紹介!」で詳しく解説しています。
障害者年金
障害年金は、現役世代も含めた「公的年金の加入者」を対象とした年金です。
病気やけがにより生活や仕事の制限がある場合など、一定の条件に該当する場合に請求できます。
認定基準は下記です。
- 1級:長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
- 2級:日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
- 3級:労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの
障害の状態は、血圧以外の心血管病の危険因子の有無や、脳・心臓及び腎臓における高血圧性臓器障害並びに心血管病の合併の有無及びその程度などを考慮して判断されます。
前述した「労災」「傷病手当」と同様に単に「血圧が高い」だけでは、認定されません。
合併症や症状の有無や、日常生活の状況などが加味されるので注意しましょう。
障害年金については、こちらの記事「心臓疾患で障害年金はもらえるの?障害年金の仕組みと認定基準を徹底解説」で詳しく解説しています。
生活習慣を整えて無理なく仕事を続けよう
本記事は、高血圧と仕事の関係性について解説しました。
- 高血圧とは
- 高血圧による仕事の制限
- 高血圧になりやすい仕事
- 高血圧の予防方法
- 高血圧で仕事を休むときに使える制度
高血圧は、さまざまなリスクがある危険な病気です。また、合併症や症状がある場合は就業制限がかかる可能性があります。
就業に関しての不安がある場合は、一人で悩まずまずは専門の医療機関を受診しましょう。