公開日 2023年10月2日 最終更新日 2023年11月8日
見た目で病気が分かりにくい分、先天性心疾患者の就労にはさまざまな問題があります。
たとえば、体力的に難しい業務が発生したとき、当事者はどんな風にその壁を乗り越えればいいのでしょうか。
執筆:古川 諭香
フリーライター。単心室・単心房のため3度の手術を経験。根治は難しいものの、フォンタン手術後、日常生活が普通に送れるように。愛猫の下僕で本の虫でもある。(Twitter:@yunc24291)執筆記事一覧
【目次】
「できない業務」が発生したときの向き合い方
1. 「体力的に難しい業務」は事前に伝えることも大切
企業側に持病を伝える・伝えないの判断は人それぞれ。しかし、体力的に難しい仕事が発生しそうな業種の場合は、やはり事前に持病があることを伝えておき、できない業務があることを理解してもらうことが大切です。
現在の体調や主な症状などは、採用担当に打ち明けるだけでなく、自分から機会を作り、上司やチームリーダーなどにも仕事の範囲を詳しく説明するのもよいでしょう。
そのときは、できる限り具体的に「できること」も説明することが重要です。どんなことができるのかを説明できたら、同僚は過度な気遣いから業務を任せづらいということが減るので、「会社の一員として働けている」という実感を得られやすくなります。
2. スケジュール的に難しい業務は前倒してこなすのもあり
通院や検査などスケジュール的に「できない業務」が発生した場合は、予定が決まった段階で上司などに伝えましょう。
そして、こなさなければいけない業務が自分にしかできない者である場合は、前倒しで仕事をこなしてもいいか聞いてみるのも、ひとつの手です。また、私のようなフリーランスの場合はスケジュール調節をしながら仕事を進め、1週間ほど余裕を持って業務を終えておくのもおすすめです。
ただし、チームワークを必要とする業種の場合は個人での対策が難しいため、同僚やチームリーダーに事情を要相談。現状で何か自分にできることはないか尋ねてみましょう。
3. 同僚に「できない業務」を理解してもらうことも大事
できない業務が発生したときは、どうしても同僚に助けてもらうことが多くなります。だからこそ、上司やチームリーダーだけでなく、身近な同僚にも病状や現在の体調を自分の口で説明し、理解してもらうと心理的に少し楽になれるはずです。
同僚に話すときも上司に説明をするときと同様に、できない業務と一緒に「できる業務」を伝え、「○○なら体力的に可能なので、任せてくださいね」などの一言を添えておくと、周囲から“何もできない人”というレッテルを貼られるのではないか…というモヤモヤを抱きにくくなります。
4. 代替え案を提示するのもあり
現状のスケジュールだと難しい場合や体力的にここまでできる…というときはその旨を同僚や上司に伝え、自分ができることを示すのも大切です。その際はできない理由を具体的に説明すると、理解が得られやすいでしょう。
たとえば、スケジュール的に難しい場合は「〇日に通院予定なのですが、現状〇〇という状態です。〇日までに○○まで進行することなら可能なのですが、日程的にはどうでしょうか」と、日にちや進行状況を細かく報告すると伝わりやすくなります。
一方、体力的に難しい場合は、どういう症状が現れるのかということを説明すると相手側も分かりやすいもの。単に「体力的に厳しいからお願いします」と言うのではなく、「○○まではできるのですが、○○という業務をすると○○という症状が出てしまうので、○○以降は他の方にお願いしたいのですが、難しいでしょうか?」と尋ねてみるのも、ひとつの対処法です。
「できない業務」があることが苦しい…モヤモヤの受け止め方
仕事中、できない業務が発生すると、どうしても心がモヤモヤしてしまいます。同僚や上司に迷惑をかけているのではないかと思い、周囲の目が気になることもあるもの。そうした苦しみを抱えたときは、そのモヤモヤをちゃんと受け入れ、自分の心をケアしてあげることも大切です。
1. 「できない業務があるからモヤモヤする」という気持ちを素直に噛みしめる
頑張り屋の人ほど、できない業務に直面すると「できるようにするんだ」と思って無理をしてしまったり、モヤモヤした気持ちを感じていないフリをしてしまったりすることがあると思います。
しかし、そのモヤモヤは感じていいものです。苦しい気持ちではあるけれど、なかったことにしてしまえるものではなく、気づかないフリをしても、後々「やっぱり自分はダメなんだ…」と落ち込んでしまうこともあります。
だから、モヤモヤが発生した時点で、「ああ、自分はこういうモヤモヤを感じているんだな。無力だと思うし、悲しいよね」と自分の本心を受け止め、セルフケアをしてあげてほしいのです。
自分の本心をごまかさず、ありのままの感情に浸ることは意外と大切だと私は思っています。なぜなら、私自身、そうしたモヤモヤに反発しながら「なんでもできるようにしてやる」と思って無理をした結果、体を壊し、結局、根本にあるモヤモヤとの付き合い方が分からずに苦しんだからです。
そうしたモヤモヤは抱いて、当たり前のこと。そう自分に声かけし、モヤモヤした気持ちと向き合ってみてください。
2. 助けてくれた同僚への恩返しは“できる範囲”でいい
同僚などにサポートをしてもらうと、「誰かに助けてもらうのが申し訳ない」という気持ちがどうしても生じます。そうしたときは、自分の出来る範囲で助けてくれた人にお返しをしていくと、少し心がすっきりするかもしれません。
それは、業務以外のことでもOK。私生活を話すくらい親しい場合はプライベートの相談に乗るなど、無理をしない範囲のお返しをするのもいいでしょう。
仕事のみの付き合いの場合は助けてもらったことにお礼を言い、「私は○○系は体力的にも厳しくない(or得意分野)なので、何かあれば声かけてください」と一言添えるのもおすすめです。
誰かに助けてもらうことが増えると、申し訳なさから過度に周囲を気遣ったり、自分いじめをしたりしてしまう人は多いものですが、誰しもに得手不得手があるように、できること・できないこともあって当然という思考を頭の片隅に置き、少し肩の荷を降ろしてほしいです。
3. できないことが多くて自己卑下してしまうときは…?
「周囲と比べて私はできることが少ない」と思うと、自己卑下が増します。実際、私も会社の中でできることが少ないと、「社会の歯車にすらなれていないのでは…」と自分の存在自体が虚しく思えたことがありました。
しかし、できることが多い=人間の存在価値ではありません。人の価値はもっと深いところにあるからこそ、就労の問題だけで自分の価値を値踏みしないでほしいと私は思います。
ただ、もしどうしようもないほど、できない業務へのモヤモヤが募ったときには他の業種への転職を検討するのも大切です。
自分の心を守るためにも、体力面を気遣える在宅ワークや好きなことを活かした職種など、心身ともに無理しすぎない働き方を探してみてください。
「できない業務」を乗り越えやすい会社選びをすることも大切!
私たち先天性心疾患者は健常者に比べて、周囲の人に自分を理解してもらうことが必要な場面が多いものです。特に就労面では、どんな仕事がどれくらいできるのか、体力的にどんなことが難しいのかと、説明しづらいことをしっかり説明することが必要になるため、戸惑ってしまうこともあります。
病状を打ち明けるには勇気がいるものです。なぜなら、必ずしも理解が得られるとは限らないし、採用という判断が下されないかもしれないから。しかし、自分の心身を大切にする働き方をするためにも、病状やできること・できないことの説明はしっかりと行っていきましょう。
そのうえで受け入れてくれた会社であれば、できない業務が発生した場合でも相談しやすく、体調を気遣いながら働くことができやすいはず。求職中は、そんな視点も持ちつつ、会社選びをしていきましょう。
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