手術することが決まったら 〜プレハビリテーションとは〜

公開日 2023年10月17日 最終更新日 2023年11月11日

心臓病を持つ友人から、こんな相談を受けました。

「今度手術するんだけど、それまでにやっておいた方がいいことや気をつけることある?」

正直なところ、待機手術の方は入院中の方以外接する機会がなかったので悩みました。入院中であれば手術まで2〜3日程度ですが、彼女はあと3週間以上ありました。

そこで、いろいろと調べてみたところ『プレハビリテーション』という存在を知りました。

正確には以前から考え方は知っていましたが、主に変形性膝関節症などの整形外科疾患の手術前が対象でした。手術前に筋力や体力を鍛えておく事で、術後のリハビリが円滑に進むというものです。

これを内部疾患の手術前に取り入れたのが、『プレハビリテーション』です。主に癌の手術前を対象にされていますが、心臓の手術前はもちろん日々の生活にも活用できると思うので紹介します。

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執筆:大前 有香

理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。病院、介護施設、在宅と色々な分野で働いてきた。今は2人を子育てしながら家での新しい働き方を模索中。執筆記事一覧

【目次】

手術までの一般的な注意点

手術における一般的な注意点を挙げてみました。

病気やその人の身体状況、手術方法によって注意点は異なります。そのため、基本的には主治医の指示に従ってください。

禁煙と飲酒の制限

手術前の注意点で、とても大切なことが禁煙です。喫煙は全身麻酔・手術中の合併症や死亡率が高くなることが知られています。合併症を起こすと、手術後の回復に時間がかかる可能性があります。

手術前だけ禁煙して意味があるの?と思われるかもしれませんが、短期間の禁煙でも禁煙しないよりは効果があると言われます。日本麻酔科学会によると、4週間以上の禁煙が推奨されているそうです。手術が決まったらすぐに禁煙をおすすめします。

内服管理

手術によっては、手術前に休薬する薬もあるので注意が必要です。逆に、手術まで内服を続けるように指示されているものは飲み忘れないように気をつけましょう。

他にも、市販薬やサプリメントについては手術に影響を与えるものもあるので必ず主治医に相談してください。

歯科受診

口の中には細菌やウイルスなど、たくさんの微生物が存在します。そして、これらが全身に感染症を起こすという報告もあります。

虫歯や歯周病などがあると、手術後に誤嚥性肺炎を起こすリスクがあると言われており、手術前に口の中を清潔に保つことが手術後の合併症予防に繋がります。

また、全身麻酔での手術になると気管挿管が必要となることもあります。その際に歯のぐらつきがあると、器具にぶつかり歯がとれてしまう危険性もあります。手術が決まったら、歯科受診をおすすめします。

このように、禁煙や歯科受診など手術後の合併症予防や早期回復のために、手術前からできることがあります。プレハビリテーションもそのひとつです。

プレハビリテーションとは

手術や治療を受ける前に身体的な状態や健康を向上させるためのプログラムやアプローチを指す言葉です。

手術後の回復を助け、合併症のリスクを軽減するために行われます。

リハビリとの違い

リハビリとはリハビリテーションの略で、語源はラテン語です。Re(再び)Habilitare(能力を持たせる)の組み合わせで、文字通り「再び能力を持たせる」ことです。手術や病気の後で一度低下した能力を向上させ、再び社会復帰できるように取り組むものです。

一方、プレハビリテーション(prehabilitation)は、英語の「pre-」(前もって)と「rehabilitation」(リハビリテーション)という二つの単語を組み合わせた造語です。

こちらは、手術前に身体的な状態を安定させ、手術による合併症のリスクを軽減させるように行われるものです。簡単にいうと、「手術のための心と体の準備」です。

プレハビリテーションの柱は3つ

プレハビリテーションには3つの柱があります。

1. 運動

体力や筋力が落ちていると、手術後の合併症が増えたり死亡リスクが高くなる危険があります。そのため、手術までの期間にしっかり運動して体力と筋肉を蓄えましょう。

では、どのくらい運動すればよいのでしょうか。プレハビリテーションの中で推奨されているものは、「軽く息がはずむ」程度の有酸素運動を毎日30分以上、筋トレを20〜30分、週2〜3回です。

これらはあくまで目安になりますので、自分の体力や病態に応じて主治医と相談してください。

2. 栄養サポート

運動と同じように大切なのが食事です。体調が悪く食欲がないという人は、主治医に相談しサプリメントや栄養補助食品なども検討しましょう。

特に手術前には、たんぱく質をしっかりとることが重要です。たんぱく質が豊富に含ま れる主な食品には、肉、魚、 卵、豆類、乳製品がありま す。食事制限がない人は、1日の摂取量として体重1kgあたり1.2〜1.5gを目安にとることをおすすめしています。

3. 精神的ケア

手術を控えていると、手術に対する恐怖や不安だけではなく手術後の体調や生活への不安も加わり、精神的に非常に不安定になります。

精神を安定させる方法として、瞑想やマインドフルネス、ヨガなどがあります。もし、不安で夜も眠れない、食事がとれないなど日常生活に支障がでる場合は、専門家のサポートが必要です。

ひとりで悩まずに主治医に相談してください。

精神的ケアの必要性

プレハビリテーションの3つの柱のひとつ、精神的ケアはとても大きいと思います。

実際、手術を控えた友人の一番の悩みは精神的な不安でした。彼女は二度目の手術だったので、手術内容や手術後の経過は理解していました。それでも、やはり手術後の痛みや生活がどうなるのかを考え、不安を感じていました。

不安との向き合い方

「手術が終わったら、どのくらいで元の生活に戻れるんだろう」「手術の後はやっぱり痛いのかな」これらの疑問には誰も答えることができません。

だからひとりで考え、不安になります。なぜなら、人はわからないことを不安に思うものだからです。でも、未来のことは誰にもわかりません。つまり、手術が終わるまでその不安は解消されないのです。

このように、手術の後や将来など先のことを考えて起こる不安には、瞑想やマインドフルネスなど、「今」と向き合う方法がおすすめです。先のことではなく、「今」の自分が感じていること、抱いている感情と向き合うことが大切です。

あえて向き合わない

自分の感情としっかり向き合うことも大切ですが、「考えても仕方がないことは考えない」と開き直ることも大切です。

また、瞑想やマインドフルネスが難しいと感じる方には運動がおすすめです。

特に、筋トレをおすすめします。なぜなら、運動の回数を数えたり、使っている筋肉を意識したりすることで、瞑想などと同じように「今」に集中することができ、不安と向き合わない時間が作れるからです。

他にも、仲の良い友人や家族に不安を話し、向き合わずに外に発散することもひとつの方法です。なによりひとりで抱え込まないようにしましょう。

3つの柱を振り返って

これら3つの柱は、手術前だけではなく日々の生活にも大切な項目であり、意識して取り入れていくことで病気の予防にも繋がるのではないだろうかと考えます。

手術を無事に終えた友人は退院し、少しずつ日常生活に戻っています。手術をしなければ意識しなかったかもしれない3つの柱。手術を終えても頭の片隅に残っていると思います。少しでも早く元の生活に戻れるよう、手術の後も継続していってほしいと願います。

手術の日が決まると、生活の多くがその日に受けて動き出します。手術や手術後に対して不安を抱える人も多いでしょう。そんな中で、少しでも良い状態で手術の日を迎えるためにできることがあります。

それがプレハビリテーションです。多くのプレハビリテーションは、整形外科領域や癌の手術を控えた人を対象にしていました。しかし、運動・栄養・精神ケアを行い、心身ともに安定させておくことは、心臓はもちろんどんな病気の手術前でも大切です。

そして手術を終えた後も、この3つの柱を大切に健康的な毎日を過ごしていけたらいいですね。

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理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。病院、介護施設、在宅と色々な分野で働いてきた。今は2人を子育てしながら家での新しい働き方を模索中。