理学療法士が患者の立場で心臓リハビリを経験して 当事者になったからこそわかること

公開日 2024年1月18日 最終更新日 2024年1月18日

周産期心筋症により重症心不全となり、補助人工心臓を装着し、心臓リハビリを経験しました。

理学療法士としてリハビリテーション(以下、リハビリ)のサポートをしてきましたが、いざ自分が整形外科などではなく、今まで関わることがなかった心臓病の患者の立場でリハビリを経験してきたので、その経験をお伝えできたらと思います。

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執筆:kazumi

周産期心筋症・慢性心不全と共に理学療法士として勤務。2人の男の子を育てながら、悪戦苦闘の日々を過ごしている。執筆記事一覧

【目次】

リハビリって綺麗事ではない

理学療法士としての自分

理学療法士(Physical Therapist :PT)は、怪我や病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力の回復や維持、及び障害の悪化予防を目的に、自立した日常生活が送れるように支援する医学的リハビリテーションの専門家です。対象としては、中枢神経疾患(脳卒中や脊髄損傷など)や整形外科疾患、呼吸器疾患、心疾患、内科的疾患(糖尿病など)、体力低下の方などです。その中に、心疾患の方を対象とした心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)があります。

筆者は中枢神経疾患や整形外科疾患が主疾患の方々を担当することが多く、現在は介護保険分野で働いています。そのため、心疾患が主疾患の方を担当したことがありませんでした。心疾患の方へのリハビリのイメージがほとんどなく、具体的にどんな事を行うのかわかりませんでした。

心臓病患者としての自分

周産期心筋症になるまで大きな病気をする事なく過ごしてきていたため、はじめて自分に心臓病の可能性があると知った時はショックでした。

歩いて病院を受診しましたが、血圧は測定できず、脈拍は180回/分となり、起坐呼吸状態。大学病院へ救急搬送され心エコーの画像を見て、逆流しており「やばいな」と感じていました。その後バルーンパンピングを行うも改善が見られず、多機能不全を起こしていた事から、体外式補助人工心臓を装着することになったそうで、せん妄がある状態から心臓リハビリが開始されました。

初めて経験する心臓リハビリに、他のリハビリと何が違うのかよくわかっておらず、ICUにいる時、理学療法士が一日たった20分くらいの運動で、他の時間は寝ているだけの状況が何に効いているのか疑問に思っていました。しかし、のちに自分がリハビリに対する考えがあった事で、考えの狭さを実感し、苦しめることになっていたことがわかりました。

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リハビリに対する考えのギャップ

筆者が過ごしたICUでは、理学療法士や作業療法士などのセラピストが心臓リハビリとして関わりますが、普段は看護師の方々の方が色々と身の回りのことができるようにとLVADを管理しながら寝返りや起き上がりの動き方を教えてくれました。また、ラインを気にしながら何人もの看護師が来て、立位練習をしてくれました。

これらもとても大切なリハビリであって、寝返り、座る事、立つことの必要性を十分に感じた時間でした。理論はわかるけれど、なぜできないのかと悔しい時間でもありました。

そしてセラピストからすると、一日20分でも“患者さんは今日も無事にリハビリをした。”と感じていたかもしれませんが、一日で考えるとリハビリをしていない時間の方が長いのです。その時間のコントロールをしていたのが看護師の方々で、患者の視点では、通常の看護業務に加えて、強力なリハビリスタッフの一員でもありました。

セラピストの心臓リハビリスタッフは、数値的な変化から効果を判定していたのかもしれませんが、患者側の内観としては変化がないため、本当にこのままで良くなるのかという不安が募りました。

一般病棟での心臓リハビリ

術後の状態も落ち着き、一般病棟へ移りました。LVADの管理上、トイレやシャワー、そして監視カメラがついている個室へ移り療養生活となりました。

リハビリの時間は、座ることや立つことが可能となってきたことから、今度は歩行練習が加わり、一人でトイレへ行けるようにとLVADのラインの管理をしながらのトイレまでの移動の練習などを行いました。病棟内歩行が行えるようになってからは、自転車エルゴメーターを午前・午後と行い、筋力強化や運動耐容能を向上するために実施してきました。

そこで患者にならなければわからなかったことがありました。それは「感覚」の大切さでした。

立つと歩くでは足に体重がかかる感覚の違いや床の上に足裏がついているという感覚、そして重力に対抗して体を起こして保っているという感覚などを痛いほど重要な感覚だと感じました。これは、心臓リハビリだからではない部分もありますが、長期間臥床を強いられている状況の方(廃用症候群の方)に通用することです。

初めて自室内を歩く練習をするときに、膝から下の感覚がぼんやりとしていて、こんな状態で歩けるのだろうかと恐怖を感じた時もありました。この時に、なぜICUにいる状態からリハビリが必要だったのかと理解することができました。関節の動きが硬くならないようにや筋力をつけるようになどの意味ももちろんあるのですが、それらが体にどのように影響するのかを感じました。

30分ベッドの横に座ることができたこと、介助してもらいながらシャワーができたこと、一人で髪を乾かすことができこと、ペットボトルの蓋を開けることができたことなど、当たり前にできていたことができなくなり、リハビリをしていく過程でできるようになった感動を感じることができました。

同時に、再発のリスク、LVADのポンプに血栓ができるリスク、転倒のリスク、生きていくことができるのかという大きな不安と共に過ごしてきた病棟生活。正直、理学療法士としてはここまで細かく考えられていただろうかと感じていました。

当事者になったからこそわかることがある

心疾患の患者となった時、病気をする前の理学療法士としての自分が恥ずかしくなりました。自分は患者さんにとって何ができていたのか、自分の態度は偉そうになっていなかったかと思いました。

そして、患者さんの不安な声にわかったような返事をしている自分も含めたセラピストに対して、心疾患の患者としての自分から「わかるわけないじゃん」と言いたいくらい、リハビリって綺麗事ではない事を経験しました。

心臓リハビリに限ったことではないかもしれませんが、身近な目標から見つけていくことで、変化を感じやすく、リハビリって裏切らないのだと思っています。

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周産期心筋症・慢性心不全と共に理学療法士として勤務。2人の男の子を育てながら、悪戦苦闘の日々を過ごしている。