公開日 2025年3月31日 最終更新日 2025年4月1日
はとらくは、心臓病への想いを持つ方にその想いを届ける場として活用いただくため、「はとらくで届けたい」と題して、寄稿文を募集しています。
今回は「はとらくで届けたい」第六弾として、完全大血管転位症を持つ臨床工学技士として活動する永山 太さんに想いを寄稿いただきました!

寄稿者:永山 太
完全大血管転位症を持つ臨床工学技士。所持している学会認定資格は、植込み型心臓不整脈デバイス認定士と、透析技術認定士、心血管インターベンション技師。
【目次】
自己紹介
私は、完全大血管転位症を持つ臨床工学技士として「心臓カテーテル室」で従事しています。29歳で2児のパパ。所持している学会認定資格は、植込み型心臓不整脈デバイス認定士と、透析技術認定士です。そして、身体障害者手帳は4級を所持しています。
臨床工学技士を目指したきっかけは、生後すぐに臨床工学技士に人工心肺装置や心臓カテーテル検査をしていただき、自分も同じように命を救う立場になりたいと思ったこと。また叔父が臨床工学技士ということもあり、ほかの医療職より身近な職業だったことも、きっかけの1つです。
2度の転職を経て、現在の職場へ
現在勤務している病院を含めて、これまで3つの病院で勤務してきました。1施設目は青森県の3次救急総合病院、2施設目は茨城県の2次救急総合病院、3施設目は3次救急の済生会横浜市東部病院です。
1施設目に勤務していた時点では、身体障害者手帳を所持していなかったため、健常者と同様に一般雇用で就職をしました。人工心肺業務だけではなく臨床工学技士業務全般、待機呼び出し業務や当直業務など、多くの業務を担当しました。田舎の病院ということもあり臨床工学技士の人数が少なく、年間約600時間もの時間外労働をしていました。
当時は、コロナ感染症罹患前ということもあり現在と比べると元気ではありました。そのため、待機呼び出し・当直業務では、緊急心臓カテーテル検査や急性血液浄化、体外式ペースメーカー、補助循環管理業務などまで行っていました。ですが、残業時間が多いため時々調子を崩すことがあり仕事を休むことがありました。
自分の最初の夢だった人工心肺業務のために必死に食らいついていたため多少体調が悪くても出勤してました。今思うとかなり負荷をかけていたと思います。しかし、結婚もして子供が生まれたため、そういった環境ではなくライフワークバランスがとれる病院で働きたいと思い、転職をしました。
2施設目も、同様に一般雇用での就職です。プライベートと仕事を両立ができる病院でしたが、主な業務が透析業務でした。透析業務は基本長時間立ちっぱなし、歩きっぱなしということもあり身体に負担がかかります。
そんな中、コロナ感染症に罹患したことをきっかけに体調が悪くなり、頻脈や動機、不整脈といった症状が顕著に出てきました。それ以降はβ遮断薬を内服することとなり、この時に障害者手帳を取得しました。そして、無理をせず自分の体調に合わせて働ける障害者雇用枠で、地元の神奈川県の総合病院へ転職しました。
3施設目(現在)は、心臓カテーテル室専従臨床工学技士として勤務しています。私が受けている職場からの配慮は、
- 1.待機・当直の免除
- 2.通院のための休みを必ずとれる
- 3.長期休暇を取りやすい
- 4.一般雇用と福利厚生は同じ
- 5.仮に卒倒しても心カテ室内のため循環器内科医や循環器専従臨床工学技士が近くにいるため安全
といったものが挙げられます。
やはり上司達も心臓カテーテル室の専従ということもあり、心臓病に理解が深く非常に働きやすいです。テクニカルスキルも、個々に合わせて指導をするという主任臨床工学技士の指導の下、現在は「循環器専従臨床工学技士の1人」として任せていただいています。300症例を超える治療を行い、2025年3月には「心血管インターベンション技師(ITE)」に合格しました。
主任臨床工学技士とは、体調不良の予兆やいつもと違うことがあればすぐに報告することで、今の信頼関係を作れたと思っています。最初からうまくいってるわけではなく、仕事についてお叱りを受けたり、ノンテクニカルスキルの指導を受けたりしました。しかし、仕事の面でも体調の面でも、些細なことでも直属の上司に報告することは重要だと思います。
【関連コラム】
心疾患を持つ人の現実は甘くない
ここからは、先天性心疾患で医療職を目指す学生に対して、私の経験をもとに現実的な話をします。
単刀直入に言いますが、先天性心疾患患者が医療従事者として働くことは「イバラの道」だと思います。理由の1つ目は、体力勝負なこと。2つ目は、先天性心疾患というものを周りの医療従事者が理解してくれるとは限らないこと。そして3つ目は、そもそも先人の先輩がいないため自分で道を切り開くしかないことです。
まずは体力面の問題について。待機や当直などの免除が仮にあっても、患者は24時間いつでも来ることが想定されます。勤務時間中は、たとえどれだけ疲れていても患者第一優先なので、すぐに担当業務を行わなければいけません。特に重症症例では、どうしても体力勝負になってしまう傾向があります。
2つ目は医療従事者であっても、先天性心疾患への理解が不十分という人もいます。実際に自分が体験したことは「心臓病の臨床工学技士なんて聞いたことない」「そもそも臨床工学技士になれるのか?」「心臓病に見えないため体調不良が起きても気のせいだ」などと言わたり、心臓病の先入観からレッテルを張られたりなどです。
周りからは、体調を崩すことを前提として見られているため、最初は1カウントとして考えてもらえていませんでした。一人で解決できる問題から、仲間からのサポートがなければ一人では解決できないような問題など、様々なことが襲ってくることになります。
最後は、先天性心疾患を持つ先輩臨床工学技士がいないため、全てにおいて自分が基準になる点です。なので、自分の意見をはっきり言わないと、どんどんと自分が苦しくなっていきます。何ができて、何ができないのか。はっきり伝えることが大事です。
にも関わらず、どうして僕が臨床工学技士を続けることができるのか。確かに辛いことや嫌なことも経験をしましたが、各施設で必ず仲間がいたことから続けることができました。そのためには前述したとおり、周りへの理解を得るための行動を心がけることが大事です。
特に現在の心カテ主任臨床工学技士には非常に良くしていただき、健常者でも難しいぐらいの症例数をこなすことができています。心カテ主任臨床工学技士がいたからこそ、今の自分がいるんだと思います。
医療従事者を目指す先天性心疾患を持つ後輩たちへ
一般的に先天性心疾患を持つ患者の大半は、事務職などのデスクワークを選ぶだろう。でも、君たちは強い信念を持っているからこそ、医療従事者を目指したのだと思う。私と同じように、もしくは私以上の問題と直面し、それらに立ち向かうことがあるかもしれないが、医療従事者になるという信念を強く持って、自分の中のできる限りのことでいいから一生懸命やってください。
あなたの将来を楽しみに待っています。もちろん、自分もいつか臨床から離れることがあっても、医療には貢献し続けたいと思ってます。