心臓病を持ちながら障害者雇用で働く課題とはーー先天性心疾患当事者の猪又竜さんが運営するYouTubeチャンネルの魅力も紹介

公開日 2023年1月19日 最終更新日 2023年4月21日

心臓病を持ちながら障害者雇用枠で働く上で、つい無理をし過ぎたり病気のことを周りにうまく伝えられなかったりすることがあります。無理をし過ぎると、せっかくの仕事も長く続かないかもしれません。

長野県ヘルプマークディレクターの猪又竜さんは、そうした課題を解決するためにいくつか対策をされている一人です。

はとらく代表秋山との対談最終回となる今回は、障害者雇用枠で働くことへの課題、メンバーに病気のことを伝えるタイミング、自身が運営されるYouTubeチャンネルについてお伺いします!

※インタビューはオンラインで実施しております。記事中の写真は、猪又さんにご提供いただいたものを掲載しております。

心臓病を持ちながら障害者雇用枠で働くというテーマについてお伺いします。心臓病の人が障害者雇用で働く環境で、こういうのは課題だなと思うことはありますか?

猪又:
見た目では病気だとわからないということが、一番私たちのストレスがかかるところだと思うんです。だから「自分の口で自分のことを説明できるか・できないか」というのが、安定して働けるか・働けないかに大きく関わってくると思うんです。

見た目では病気があるかどうかわからないということは、自分の口から発信しないと相手に伝わらないということです。周りに自分の特徴を言わずにいると、体力的に辛いことでも頑張ってやらざるを得ない状況になってしまいます。

そうではなくて、周りに「自分は心臓病という特徴を持っている」ということをみんなに知ってもらって、合理的な配慮を受けられるところはきちんと受けてほしいです。その代わりに自分の得意なところで身の回りの皆さんをサポートすればいいのではないかと思っています。

そうやって、持ちつ持たれつの関係を作れるようになってほしいなと思います。そこが心臓病の人が障害者雇用で働く課題だと思いますね。

自分で相手に伝えることができなければ、自分の首を絞めるだけだと思うので。口頭で話ができる人はそれでもいいし、それが苦手だという人は書面で職場の人に伝えるなど方法はさまざまです。

とにかく自分から相手に伝えることができないのは課題だなと感じています。実際、そういう患者さんは多いので。そこは先輩患者からも伝えて行きたいですね。

自分のことを正しく知ってもらうために、しっかりと相手に伝えることが大切なのですね。猪又さんの場合だと、働いているなかでメンバーが変わっていくということもあると思います。そうしたときにどのようなタイミングで自分の病気のことを説明していますか?

猪又:
例えば私の会社では人事異動で上司が3〜4年で変わります。そのとき、必ず自分の病気のことを書いた書面を渡すようにしているんです。内容としては、病気の名前や病気の説明ですね。

加えて、一般的に先天性心疾患というのはこういうものですというのも伝えるようにしています。あとは飲んでいるお薬なども全部書面にしてます。

同僚も人事異動で入れ替わったりするときもあるので、チャンスがあれば自己紹介のときに病気のことを伝えるようにはしていますね。

また、社内で使っているメールの署名欄には「先天性心疾患があるので、〇時までしか働けません」というようなことを入れています。

そして会社では毎年必ず人権研修があるのですが、そのときに「少し時間貰えませんか」というふうに上司にかけあって、5〜10分くらい時間を貰って話をしたことはあります。常にアンテナを張っていて、機会があったら自分の病気について皆に知ってもらおうってことは考えています。

心臓病を抱えていて今後、障害者雇用で働こうとしている人に向けて、猪又さんからメッセージをお願いします。

猪又:
やはり自分から発信するところに尽きるかなと思いますね。やりようはいくらでもあるけれども、まずは自分が病気であることを隠さないこと。世の中にはいろんな人がいて、健康な人もいれば、さまざまな病気を抱えている人もいます。

いろんな特徴を持つ人がいる中で、その人が持つ特徴の一部が先天性心疾患になるわけなので。きちんとその特徴を伝えるということと、一度自分の限界を知るということですかね。限界を知ったらそこできちんと線引きをして、それ以上のところは合理的な配慮を受けながら仕事が続けられるように自分で調整をかけていきましょう、ということですね。

上司や周りの人が、勝手にあなたの病気について勉強して「こういう配慮が必要ですね」と言ってくれることは絶対にないです。だから、自分の病気をきちんと理解して、自分から伝えることが必要です。

私もすごく思うのが自分の病気をきちんと理解して、それをきちんと説明できるようになること、発信できるようになり、自分で自己管理ができるようになる。それが非常に理想の状態だと思っており、猪又さんはまさにそれを体現されていますよね。しかも、猪又さんはご自身で「Living With Heart~みんなの生き方~」というYoutubeチャンネルも運営されていますよね。ぜひ、こちらについても教えてください。

Living With Heart~みんなの生き方~については、こちら「Living With Heart ~みんなの生き方~」よりご覧いただけます。

猪又:
「先天性心疾患の人が、いきいきと、自分らしく生きていける社会になるために、できることをやる!」というビジョンをもとに、3人でYoutubeチャンネルを運営しています。

2015年に、患者である私、看護師の落合先生、医師の立石先生と、立場の違う3人が、同じ1つの夢『先天性心疾患の人が、いきいきと、自分らしく生きていける社会にしたい』という想いを語り合いました。

その後、私たちに何かできることはないかと会って語り合ったり、夜な夜なチャットで熱いディスカッションをしたりしながら、作成を始めたのが患者さん本人たちが登場する動画です。結局、いろんな本とかがあっても動画が一番伝わるんじゃないのかっていうのが結論でした。

しかも、お医者さんが「こういう人がいる」っていうのを話すんじゃなくて、本人が登場しなきゃだめだねっていう想いがあったので。本人の生き様を見てもらって、いろんな生き方があるよねというところを見てもらって参考にしてもらいたいと考えています。

動画を通して、先天性心疾患があってもこんなふうに大きくなって、こんなふうに大人になっていくんだ、自分の病気について小学生でもこんなに話せるんだ、ということを実感してもらえればと思っています。

ここまでお聞かせいただき、ありがとうございます。最後にこれは伝えておきたいということがあれば、教えてください。

猪又:
就労というテーマには、小さい頃からの一連の流れ、つまり移行期医療や自立支援について考えなければいけません。

移行期医療の中で、例えば青年期や成人期になった患者さんは、循環器内科に転科するという人も出てくるわけです。今まで親と一緒に診察室に入っていた患者さんが、本人だけで医師と話すようになるわけですが、その時にきちんと自分の病気のことを医師に言えるのか。

言える患者さんはセルフマネジメントができている可能性が高いですが、言えない患者さんは適時適切な医療がスムーズに受けられません。また、この時期は、学校生活や仕事が忙しいからという理由でドロップアウト(外来を中断すること)してしまう患者さんもいます。ドロップアウトしてしまうことは、自分の心臓の状態が分からなくなるということなので、適時・適切な医療を受けられなくなります。

自分の心臓の状態を理解してセルフマネジメントすること、ドロップアウトせずにきちんと病院に通うこと、全部ひっくるめて就労のテーマには大事だと私は思っています。そういうのをきちんとできていないと、多分、仕事を続けていけません。

こういうことを、やっぱり先輩患者が後輩患者に伝えていかなきゃいけないと思うし、親御さんに言っていかないといけないと思うんですよね。

中学生くらいになっても自分の病名を知らない子は本当にいますからね。そんな子どもを見て「大丈夫か?」って。病名を知らないのは親の責任なんですよね。「お父さんお母さん、そのままではお子さんは将来きちんと働けませんよ」と。そうしたことを先輩患者の立場から伝えていかないといけません。患者会がきちんともうちょっと一般社会に発信していかないといけないと思うんですよね。医師に頼ってばかりの部分が多すぎると思います。

親が子どもにどう伝えるかという問題や患者会の問題、本当にそれはあるなと感じますね。

猪又:
私の父を持ち上げるわけではないのですが、私の父はたぶん病気の息子の将来を見据えていたんだと思うんですよね。

「お前がきちんと説明できなきゃ周りの人はわかってくれないんだよ」っていうことは結構言われていたし、「お前には目も耳も口も普通にあるんだから、相手にきちんと伝えなさい」っていうのは言われていました。病気の説明ができるかどうかというのも父にチェックを受けていました。

私は病院の先生に病気について覚えなさいとか、絵が描けるようになりなさいと言われたことは一度もありません。「患者教育」という概念がないような時代でしたし。病気のことは全部父から教わりました。病気の心臓の絵が描けるようになったのも父から教わりました。父が「周りの人が勝手におまえのことを理解してくれるわけではない」ということも父から言われていたことで、大人になってから「親父が言っていたことは正しいな」というのが分かりました。

私が生まれたときは、医師から「10歳まで生きられません」と言われていたはずなのに、よく大人になることを見据えて育てたなと思いました。うちの父は大したものだなと今更ながら思っています。なので私が親にしてもらったように、先天性心疾患児を持つお父さんお母さんにはきちんと伝えていかないといけないですよね。

本当にそうですよね。この度は3回に渡り貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!

まとめ

3回に渡り、長野県ヘルプマークディレクターの猪又竜さんにご自身の過去や障害者雇用、運営されているYouTubeチャンネル「Living With Heart」についてお伺いしました。全3回のインタビューをきっかけにご自身やご家族の病気の理解を深め、障害者雇用に興味を持ってみてはいかがでしょうか。

※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

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医療ライター・編集者。「kakotto.」代表。先天性心疾患当事者。臨床工学技士として大学病院等に勤務経験を活かし、2016年にライターに転身。「易しく、優しい文章を」をモットーに、難しい医療のことを分かりやすく解説。