公開日 2023年1月23日 最終更新日 2023年6月20日
“心不全”という言葉を聞いたことがある心臓病患者さんも多いでしょう。心不全は少しずつ進行し、最悪の場合、命を縮める病気だということはあまり知られていません。
しかし、心不全について正しく理解し、適切な治療と生活習慣の改善に務めることで心不全の進行を遅らせることができます。本記事では心不全の正しい情報と治療・生活上の注意点を、現役看護師がわかりやすく解説します。心不全を悪化させないために、心臓病患者さんとそのご家族の方は、ぜひ参考にしてください。
【目次】
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
心不全とは
心不全とは“心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気”と日本循環器学会と日本心不全学会は定義しています。
心不全は原因となる心臓の病気が完治しない限り、進行する可能性があります。またダメージを受けた心臓がもとの働きまで戻ることは少ないため、繰り返し心不全を発症するとダメージが蓄積し、命を縮めてしまう危険性が高いのです。
日本で1年間に循環器の病気で亡くなる方は約20万人。そのうち、約4割にあたる7万人の人が心不全で亡くなっています。また、心不全の分類でいちばん重症なⅣ度の方は1年間に半数が亡くなり、一般的ながんの死亡率よりも高くなっています。
心不全の原因
心不全はさまざまな理由で心臓が悪くなったために発症しますが、心臓を悪くしてしまう代表的な原因は以下のとおりです。
心臓を悪くする原因は、虚血性心疾患や心筋症・弁膜症・先天性心疾患・心奇形などの心臓の病気から、高血圧や糖尿病・動脈硬化などの心臓以外が原因の病気まで多岐にわたります。
また、複数の原因が関連して心不全を発症する患者さんも多く、早期の診断と適切な治療が患者さんの生死を分けるといっても過言ではありません。
心不全の種類
ひとことで“心不全”といってもその種類は多岐にわたります。代表的な3つのタイプの心不全を紹介します。
左心不全(さしんふぜん)と右心不全(うしんふぜん)
心臓の左側にある左心室(さしんしつ)が原因で発症する心不全を「左心不全」といいます。肺から血液を受け取って、全身に送り出す力が弱くなるのが特徴です。
心臓の右側にある右心室(うしんしつ)が原因で発症する心不全を「右心不全」といいます。全身から血液を受け取って、肺に送り出す力が弱くなるのが特徴です。
また、左心室・右心室のどちらも悪くなって発症する「両心不全」という心不全を発症するケースもあります。
収縮不全と拡張不全
収縮不全とは、肺や全身に血液を送り出す心室が収縮する力が弱くなったことで発症する心不全です。
拡張不全とは収縮する力は衰えていないのに、左心室が十分に膨らむことができなかったり、膨らむのに時間がかかることで発症する心不全です。拡張不全の心臓は、心筋が硬くなり膨らみにくくなっている特徴があります。
急性心不全と慢性心不全
急性心不全とは、短時間で急激に症状が悪化し心不全を発症した状態です。重症になると、命に関わる危険性が高い状態です。
慢性心不全とは、心不全が徐々に進行した状態です。
心不全であっても全身の状態は安定していて、ある程度の日常生活は支障なく送れる患者さんも少なくありません。
心不全の症状
心不全の症状は、その原因や重症度によって一人ひとり異なります。心不全の症状を原因別に大きく2つに分けてまとめました。
心臓から血液をうまく送り出せないと現れる症状
- 疲れやすい
- だるい
- おしっこがでない
- 血圧が低い
- 胸がドキドキする
血液の流れが滞ったために現れる症状
心臓の左右のどちらの血液の流れが滞っているかによって、現れる症状は異なります。
<左の心臓からの血液の流れが滞る>
- 動いたときに息苦しい
- 息苦しくて横になれない
- 夜息苦しくて目が覚める
<右の心臓からの血液の流れが滞る>
- むくみやすくなる
- 肝臓の血液の流れが悪くなると、食後にお腹のはりや痛みが生じる
心不全の検査
心不全の重症度や全身に与える影響などを適切に把握するために、問診・聴診など医師の診察以外にも次のような検査をおこないます。
心臓エコー検査
超音波を使って心臓の形や弁の動き、心臓の壁の厚さ、心臓の収縮力を調べる検査です。心臓に流れる血液の逆流の程度も調べることができます。
胸部エックス線検査
心臓に負担がかかり大きくなっていないか、肺に水が溜まっていないかなどを調べます。正常な心臓と肺の大きさの比率を心胸比といいます。
心胸比の正常値は男性は50%以下、女性は55%以下で、それ以上だと心臓が大きくなり心不全になっている可能性が高いと判断します。
心電図検査
心臓が動く時に流れる電気の刺激を波形に変換して記録したものです。心不全になると現れるという波形はありませんが、心不全の原因になる心筋梗塞や狭心症などの病気の発見に繋がります。
心臓カテーテル検査
脚の付け根や手首などの血管にカテーテルという細い管を入れて、心臓の大きな動脈に造影剤を注入して心臓の機能や血流などを評価する検査です。日帰りもしくは1泊入院でおこなわれます。
心不全の治療
心不全の治療のゴールは症状を改善するだけでなく、心臓の負担を軽減し長生きできることです。心不全の代表的な治療を以下にまとめました。
安静
心不全を発症したら、心臓にかかる負担を軽減し心臓を休ませる必要があります。できるだけベッドに横になっている時間を増やし、安静を保つようにしましょう。
食事療法
心臓への負担を減らす方法は安静だけではありません。むくみが酷い場合は、塩分や水分を制限し身体に水分が溜まってしまうのを防ぎ、心臓の負担を減らしましょう。
心臓病と食事の関係については、こちらの記事「心臓病に良い食べ物を摂取して悪化予防!避けるべき食べ物や食生活もご紹介」で詳しく解説しています。
薬物療法
もう1つ、心臓の負担を減らす治療方法があります。それは薬物療法です。心臓の血管を広げたり、血圧を調整したり、心臓が収縮する力をサポートしたり、患者さん一人ひとりの症状に合わせた薬を使用し心臓の負担を軽減します。
手術やカテーテル術
心臓弁膜症や狭心症・心筋梗塞などが原因で心不全を発症している場合には、手術やカテーテル術で心臓の血流を改善し心臓の負担を軽減します。具体的には、以下のような治療方法になります。
- 心臓弁膜症:人工弁置換術
- 狭心症・心筋梗塞:冠動脈バイパス術、経皮的冠動脈インターベーション
ペースメーカー挿入術
不整脈が原因で心不全を発症している患者さんで、薬やそのほかの治療方法でも不整脈が治療できない場合に心臓の動きをサポートするペースメーカーを挿入します。
両心室ペーシングや植え込み型除細動器などの種類があり、病状に合わせて一時的なペースメーカーと生涯に渡って使用するペースメーカーの2種類から選択されます。
ペースメーカーについては、こちらの記事「ペースメーカーを埋め込むと仕事にどんな制限があるか?注意すべき環境とは」で詳しく解説しています。
補助人工心臓(VAD)や心臓移植
内科・外科的な治療をおこなっても心不全が改善しない、症状が酷くなり生命の維持が難しくなった場合には心臓移植を目指します。心臓移植の待機期間中には、一時的に補助人工心臓を使用し心不全による全身のダメージを最小限に抑えます。
こちらの記事「VAD(補助人工心臓)装着後の仕事と働き方 私がVADでも働き続けたい理由」では、実際にVADを装着している人の体験談を執筆しています。
まとめ
心不全は進行する病気です。自分の心不全の原因や治療方法を正しく理解し、心臓に優しく生きていくことで、心臓を長持ちさせることができます。反対に心不全を繰り返すと少しずつ心臓の機能が悪くなり、癌患者さんよりも高い確率で亡くなってしまう可能性があります。
心不全や心臓病と上手く付き合うためには、正しい知識と適切な医療が欠かせません。どのようにしたらいいかわからない方は、はとらくのコラムを参考に、心臓に優しい働き方・生き方を実践してくださいね。