公開日 2023年5月11日 最終更新日 2024年2月18日
不整脈治療に使われるのがS-ICDです。体に植え込んで利用するため「生活の制限はないか」「仕事に支障がでないか」と、不安になっている方もいるのではないでしょうか。
今回は、S-ICDについて「従来のICDとの違い」「メリット、デメリット」「生活上の注意点」などを解説します。
これから植え込みを行う方の不安解消につながる内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
- S-ICDとは
- S-ICDとICDの違い
- S-ICDのメリット
- S-ICDのデメリット
- S-ICDの機能
- S-ICDの適応疾患
- S-ICD植え込み術
- S-ICD植込み時のリスク
- S-ICDにかかる費用
- S-ICDの誤作動
- S-ICD植込みによる生活の制限
- S-ICDの制限に注意しながら健康な生活を
S-ICDとは
「完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)」は、前胸部に小型の除細動器を植え込み、不整脈を自動で感知して、電気ショックを与える治療法です。
従来の「植え込み型除細動器(ICD)」は、血管内にリード線を留置しますが、S-ICDは皮下にデバイスを植え込むため、感染症、リード抜去時に血管内を傷つけるリスクが少ないとされています。
日本では、2016年から医療保険の対象になっています。
S-ICDとICDの違い
S-ICDは、従来型ICDと違いリード線を心臓内に留置しません。
心臓や血管内にリード線を留置しないため、感染症や、手術時の合併症が少なく、不具合が生じた時の抜去が容易です。
一方で、ICDにあった「ペースメーカー機能」はなく、不整脈感知で不利な点もあります。
患者本人の状態や、疾患に合わせて、ICD、S-ICDのどちらを植え込むかが選択されます。
ICDについては「ICDとは?機能や植え込みにかかる費用を解説!生活や仕事に与える影響とは」で詳しく解説しています。
S-ICDのメリット
S-ICDのメリットは下記の通りです。
- 1. 感染リスクが少ない
- 2. デバイス・リードを抜去しやすい
- 3. 植え込み時のリスクが少ない
- 4. リードの断線が起きにくい
- 5. 脇の下に植え込むので目立たない
前述したように、S-ICDは心臓や血管内にリード線を留置せず、皮下に植え込みます。
そのため、植え込み時のリスクは少なく、トラブルが起きたときも比較的容易に抜去できます。
また、デバイス本体は脇の下あたりに植え込むため目立ちにくいのもよい点です。しかし、痩せ型の場合は、植え込んだ場所がはっきりとわかる状態になります。
S-ICDのデメリット
S-ICDのデメリットは下記の通りです。
- 1. ペーシング機能がない
- 2. 本体が大きいため植込み時の傷は大きい
心臓内にリード線を植え込まないためICDで使えていた「ペーシング機能」や「抗頻拍ペーシング」といった、一部の機能が使えません。
また、本体サイズはICDに比べて大きく、切開による傷は3箇所に増えます。
S-ICDの機能
S-ICDは「心室細動」「心室頻拍」といった不整脈を自動で感知して、電気的除細動を行い、心臓を正常な動きに戻します。
なお、S-ICDにはペーシング機能はありません。
そのため、ペーシング機能によって改善する徐脈性の不整脈は治療の対象外です。
また、心室頻拍に対して、早いタイミングでペーシングを行い症状を改善する「抗頻拍ペーシング機能」もありません。
電気的除細動とは、心臓に強い電流を流して、バラバラになった心臓の動きを正常な動きに戻す治療です。
S-ICDの適応疾患
「心室細動」「心室頻拍」が対象です。※ふたつの不整脈は後ほど解説します。
それに伴い上記の不整脈を起こすリスクがある疾患がS-ICDの対象として検討されます。
- 心筋梗塞
- 心筋症
- 弁膜症
- ブルガダ症候群
なお、あくまでも上記の疾患が必ず対象になるわけではありません。患者の状態に合わせて、治療が選択されます。
「日本不整脈心電図学会」は、S-ICDの特性から下記の状態の患者に対して推奨しています。
- 静脈閉塞などがあり静脈にリードを植え込みづらい患者
- リード断線・感染リスクの高い患者
- 若年で経静脈リード寿命が懸念される患者
- 遺伝性不整脈疾患がある患者
- すでにペースメーカが植込まれている患者
出典:日本不整脈心電図学会
前述した通りS-ICDはペーシングや抗頻拍ペーシング機能がないため、徐脈に治療が必要な場合は適応ではありません。
事前の検査でマッチしない場合や、心臓の心室がいびつな動きをする「心臓同期障害」を治療する「心臓再同期療法」の適応がある患者にもS-ICDは不適切とされています。
心室頻拍とは
心臓は、大きく「心房」と「心室」の2つに分けられます。心室頻拍は、心室を発生源に起こる不整脈で、心拍数が毎分120回以上になる状態です。
心臓の異常な動きのため、全身に血液を送り出せず「心不全」や、心停止の一種である「心室細動」につながる可能性があります。
自覚症状として、動悸やふらつき、胸部の不快感がみられます。
心室細動とは
心室細動は、心室が無秩序にふるえて、正常に動かないため心臓から血液が送り出されなくなる状態です。
心室細動が起こると数秒で意識を失い、迅速に対処しないと数分で死に至ります。
心臓から血液が送り出されないため、脳に血液が運ばれず直ちに治療しなければ、命を取りとめた場合も重大な障害が残る可能性があります。
心室細動を発症した人の体験談はこちら「何の前触れもなく終わった22年間の健常者としての暮らし」です。
S-ICD植え込み術
S-ICDの植え込みは、静脈麻酔を使用し、呼吸の補助として酸素を投与します。
左胸部に、ポケットと呼ばれる本体を留置する場所を作成し、さらに2箇所を切開して皮膚の下にリード線を固定します。
本体とリード線を取り付けたあとは、S-ICDの治療対象である心室頻拍を誘発して、S-ICDが適切に作動するかチェックします。
問題がなければ、傷を閉じて手術は終了です。時間は1〜2時間ほどで、入院期間は人によって異なりますが、1週間〜1ヶ月が一般的です。
S-ICD植え込み術の体験談はこちら「寝てる間に終わったS-ICDの植込み手術 術後の痛みと腫れが予想外だったけどなんとかなる」です。
S-ICD植込み時のリスク
S-ICDは、血管内にリードやデバイスを留置しないため、ICDに比べてリスクは少ないとされています。
しかし、体の中に機器を留置するため、出血、感染のリスクがないわけではありません。
また、動作確認のため「心室頻拍」や「心室細動」を意図的に起こす試験をします。基本的にS-ICDにより適切に治療されますが、不備がある場合は、事前に準備してある体外式除細動器で治療します。
S-ICDにかかる費用
費用は医療保険を使用しても、100万円程度は必要とされています。
しかし、高額療養費制度を使用すれば、実際の自己負担額は「69歳未満」「一般的な年収」で、10万円前後になるでしょう。
高額療養費制度については、こちらの記事「高額療養費制度の申請方法と注意点を解説!知らないと損するその他の制度も紹介!」で詳しく解説しています。
高額療養費制度は、誰でも使用できる制度です。手続きが必要になるため忘れずに申請しましょう。
S-ICDの誤作動
誤作動(不適切作動)とは、治療対象となる「心室頻拍」「心室細動」以外の不整脈にS-ICDが作動することをさします。
誤作動が起こった場合は、経過をみることもありますが、感知周期の変更や、対象となる不整脈自体の治療が必要なケースもあります。
違和感があればすぐに主治医やかかりつけの医療スタッフへ相談しましょう。
S-ICDの誤作動を実際に体験したライターの体験談はこちら「S-ICDは誤作動する?筋トレしてたらS-ICDが勘違いして作動した話」です。
S-ICD植込みによる生活の制限
S-ICD植え込み後、多くの場合は元通りの生活に戻れます。
とはいえ、電気や磁力によりICDに影響が出ないよう注意が必要です。
この項目では、「生活面」「医療面」「仕事面」から解説します。
なお、生活上の制限は、必ず医師や医療スタッフの指示にしたがいましょう。
こちらのコラム「S-ICDを植え込んでみた結果 生活はそんなに変わらなかった」では、S-ICDを植え込んだ後の生活の変化について、ライターが体験談をまとめています。
生活面
生活面で注意が必要なのは下記の通りです。
影響を受けないもの | 影響を受ける可能性があるもの | 使用できないもの |
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出典:日本不整脈デバイス工業会
電子レンジ、テレビなどは影響を受けないとされています。
携帯電話やIH機器は決められた距離を保てば使用できるとされていますが、一部で使用中に電磁波が放出されるものもあるので注意が必要です。
また、使用できないものには全自動麻雀卓や、高周波治療機器などがあげられます。磁気がICDの作動に影響を及ぼす可能性があるため注意しましょう。
当事者が、S-ICD植込みによって感じた生活への影響についてはこちらの記事「S-ICDを植え込んでみた結果 生活はそんなに変わらなかった」でまとめています。
医療面
医療面では、医療機器の使用時に影響が出る可能性があります。下記の通りです。
影響がない機器・装置 | 影響を与える機器・装置 |
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※機器の種類により一定条件で可能
S-ICDにX線束が照射されると、作動に影響を与える可能性があります。検査時には、先に医師や検査技師などS-ICDの植え込み者であると申し出ましょう。
S-ICD植え込み者には、医療情報を書き込める「ICD手帳」が配布されます。受診時や緊急搬送時に提示するとスムーズに治療が受けられるでしょう。
仕事面
仕事面では、電磁波を浴びる可能性がある環境に注意が必要です。下記の通りです。
職種 | 詳細 |
溶解炉、溶着器 | 高周波溶着器、高周波溶鉱炉、一般電気炉、電気溶鉱炉など |
車、バイク | 自動車工場、鉄道車両、車検場、ハイブリッド車、電動いす、配膳車など |
農業機器 | 噴霧器、草刈機、トラクター、耕運機、コンバイン、脱穀機、搾乳機など |
船舶 | 漁船、タンカー、巡視船、レーダ、漁業無線、巻き上げ機、イカ釣り電球など |
木工機械 | チェーンソー、丸のこ、帯のこ、自動カンナ、木工旋盤、トリマーなど |
出典:ペースメーカ・ICD・CRT を受けた患者の社会復帰・就学・就労に関するガイドライン
S-ICDの制限に注意しながら健康な生活を
本日は下記の内容について解説しました。
- S-ICDとは
- 従来のICDとの違い
- S-ICDのメリット・デメリット
- S-ICDの適応疾患や植え込みにかかる費用
- S-ICD植え込み後の制限
S-ICDは、不整脈を治療する重要な医療機器です。植え込み後は多少の制限はありますが、基本的に元通りの生活を送れます。
「医療機器を体に植え込む」のは、不安があるかもしれません。とはいえ、命に関わる可能性がある選択です。
本記事に加え、医師や医療スタッフの説明をしっかり聞いて、理解して治療に取り組みましょう。
※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。