公開日 2024年3月15日 最終更新日 2024年7月4日
これから心臓バイパス手術を受ける方や受けた方で、以下のような悩みがある方はいませんか?
- 心臓バイパス手術後の生活で気を付けたらいいの?
- 心臓バイパス手術を受けた後はいつから仕事復帰できる?
- 心臓バイパス手術後には後遺症はあるの?
本記事では心臓バイパス手術、手術後の生活の注意点を解説します。
本記事を読むと、心臓バイパス手術後の生活での注意点が理解でき、健康管理ができるようになります。ぜひ最後まで読んで、手術後の生活に対する不安を解消し、安心した生活を送ってください。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
心臓バイパス手術とは
心臓バイパス手術(冠動脈バイパス手術=CABG)とは、心臓に酸素と栄養分を運ぶ冠動脈が詰まることで血液が流れにくくなった状態を改善し、血行をスムーズなるように改善する手術です。
狭窄・閉塞部位はカテーテル治療で改善できる場合もありますが、改善できない状態の血管の場合は心臓バイパス手術が必要となります。
心臓バイパスは、冠動脈の狭窄・閉塞部位を迂回するバイパス(新しい血管)を設ける手術です。狭窄・閉塞部位を迂回するためのバイパスは、グラフト(バイパスに使う移植する血管)を用いて、冠動脈の末梢と大動脈をつなぎます。
バイパスに使うグラフトでは、状態に合わせて以下の血管を使います。
- 内胸動脈(胸の動脈)
- 右胃大網動脈(胃の動脈)
- 大伏在静脈(足の静脈)
- 橈骨動脈(腕の動脈)
- 下腹壁動脈
心臓バイパス手術の適応
心臓バイパス手術の適応条件は「安定冠動脈疾患」と「急性冠症候群(急性心筋梗塞と不安定狭心症)」で異なります。
前提としてあらゆる疾患のガイドラインにおいて、治療方法の適応はⅠ→Ⅱa→Ⅱb→Ⅲにクラス分けされており、Ⅰが強く推奨、Ⅲは有害事象につながる可能性があり、Ⅱはその間です。以下では適応クラスⅠについて解説します。
「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版)」では、安定冠動脈疾患に対する心臓バイパス手術の適応は以下の通りです。
- 2枝病変及び3枝病変
- 左前下行枝の近位部病変
- 非保護の左主幹部病変
- 低左機能(EF35%未満)
「急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」では、急性冠症候群に対する心臓バイパス手術の適応は以下の通りです。
- PCIが不成功または技術的に困難で、虚血発作が持続し、薬物治療に抵抗性の不安定な血行動態(心原性ショックや心筋虚血由来と考えられる致死的不整脈)を呈する患者に対し、ハートチームで協議し緊急CABGを行う
- 薬物治療に抵抗性の虚血発作が頻発し、心筋虚血範囲の大きい(左主幹部または左前下行枝近位部の高度狭窄病変など)患者に対して、ハートチームで協議し早期CABGを行う
なお、心臓バイパス手術の適応は必ずしも上記の場合だけでなく、患者の状態に合わせてその病院のチームで治療方針を協議します。
心臓バイパス手術の対象となる疾患
心臓バイパス手術の対象となる疾患を紹介します。
狭心症
狭心症は冠動脈が狭くなり、血液の流れが悪くなる状態です。狭心症になると胸の圧迫や締めつけ、痛みが繰り返し起こり数分以内におさまるといった特徴の症状があります。
狭心症については、こちらの記事「狭心症の人に仕事の制限はある?治療を継続しながら働く方法を解説」で詳しく解説しています。
急性心筋梗塞
急性心筋梗塞は冠動脈に血栓ができて血管が詰まり、心筋の細胞が壊死してしまう疾患です。急性心筋梗塞では、安静時でも20分以上持続する激しい胸痛、冷や汗、吐き気、呼吸困難などの症状があります。場合によっては死に至ることもある疾患です。
心筋梗塞については、こちらの記事「心筋梗塞になっても仕事は続けられる?後遺症の有無や無理なく働ける方法を解説」で詳しく解説しています。
心臓バイパス手術の方法
心臓バイパス手術方法には以下の2種類があります。
- オフポンプCABG
- オンポンプCABG
それぞれについて解説していきます。
オフポンプCABG
オフポンプCABGとは、人工心肺装置という心臓を補助する機械を使わず、心臓を動かしたまま行う手術です。
オフポンプでの手術は、心臓を動かしたままなので患者の体にかかる負担が少なくすみます。それにより合併症を引き起こす可能性が減り、早期離床・早期退院へとつながります。
動かしたままの心臓への手術は、病状によっては不向きな場合もあるため、病院のハートチームが個々の患者に合わせて手術方法を決めます。
オンポンプCABG
オンポンプCABGとは、心臓を止めて人工心肺装置につないで行う手術です。
オンポンプでの手術は、心臓を一時的に止めるため手術がしやすく、手術後の状態も安定しています。しかし、人工心肺装置を使用することで脳梗塞や腎不全などの合併症を起こす可能性が生まれます。
心臓バイパス手術の流れ
一般的に標準治療計画(クリニカルパス)という入院から退院までを時間軸で表した計画表に沿って、治療スケジュールが組まれます。心臓バイパス手術の流れの例を以下で解説します。
術前
- 1. 手術の2~4日前に入院(抗血小板薬や抗凝固薬などを内服している場合はさらに早く入院する場合もあります)
- 2. 医師や看護師から治療方法の説明があります
- 3. シャワーか清拭にて身体を清潔にします
術当日
- 1. 点滴を開始します
- 2. 術後は集中治療室(ICU)へ入ります
- 3. 麻酔からの覚醒が早ければ、家族との面会ができる場合もあります
術後
- 1. 状態に応じて安静度が変わります
- 2. 身体の状態に合わせてリハビリを開始します
- 3. 状態に応じて徐々に一般病棟へ転棟となります
- 4. 医師や看護師から手術結果や退院後の生活について説明があります
心臓バイパス手術後の生活
手術が成功しても、退院後の生活に不安が残る場合もあります。
安心した生活を送るために、退院後の生活について解説していきます。
生活習慣を見直す
心臓バイパス手術後の生活では以下の生活習慣の見直しが重要になります。
- 食事
- 運動
- 喫煙
- 飲酒
- 血糖コントロール
血管狭窄の再発を予防するためにも、生活習慣を見直して健康的な生活習慣を送ることが心臓バイパス手術後の生活では重要となります。
生活習慣の見直す場合は、こちらの記事「生習慣活病と心臓病の関係性は?食事や睡眠を見直して予防・改善を目指そう」で詳しく解説しています。
手術後の後遺症は?
心臓バイパス手術後に以下の後遺症が起こる可能性があります。
- 胸骨を切開することによる胸骨の自然治癒に3ヶ月から半年程度(個人差あり)
- 不整脈
- 創部感染
- 循環不全
手術後には合併症のリスクや日常生活での注意点があるので、再発や後遺症が悪化しないよう生活する必要があります。
手術後に動悸や息切れ、胸痛などの体調に違和感がある場合は早めに医師に相談しましょう。
仕事復帰はいつごろから可能?
個人差はありますが、退院後1〜3ヶ月程度で仕事復帰をすることは可能です。しかし、仕事の復帰を考えている方は身体に負担のない生活を送ることが大切になります。
心臓に負担のかかりやすい生活は、狭心症や心筋梗塞の再発、後遺症の悪化につながる可能性があります。周りからの必要な配慮を得られたり、仕事の環境を変えることで退院後も継続的に働けるでしょう。
たとえば、以下の方法があります。
- 勤務時間や形態の調整
- 負担の少ない仕事への変えてもらう
- 身体的な負担の少ない職場への転職
- 手術後に身体的・精神的に負担のかからない生活を送るためには、はたらく環境を調整できるか職場へ相談しましょう。
このように心臓に負担のかからない生活を送ることで、仕事復帰してからも継続して働くことができます。
退院後に仕事復帰を考える方は、こちらの記事「心筋梗塞で入院した人が退院後の生活で気をつけるべき点とは?仕事復帰するときの注意点を解説」で詳しく解説しています。
やってはいけない仕事はある?
心臓バイパス手術後にやってはいけない仕事は心臓に負担のかかる仕事です。
心臓に負担をかけてしまうと、再発や後遺症の悪化につながる可能性があります。身体的・精神的負担の強い仕事は心臓にかかる負担も大きいので、職場からの配慮を受けたり、負担の少ない職場へ異動・転職したりするなどの対策が必要です。
具体的に、心臓に負担のかかる仕事・働き方の例は以下の通りです。
- 長時間労働
- 過重労働
- ストレスが強い仕事
- 夜勤
不規則な生活や生活習慣の乱れは糖尿病や高血圧・脂質異常症など、心臓に負担をかける原因になるので注意が必要になります。
そのため手術後にはできるだけ心臓に負担のかからない生活を送る必要があるので、働き方や職場について医師や職場とよく相談しましょう。
心臓病の人が心臓に負担をかけずに働く方法は、こちらの記事「心臓障害(心臓病)の人が転職すべき職場とは?体に負担をかけずに働く方法やおすすめの仕事を解説」で詳しく解説しています。
定期的な通院と服薬
異常の早期発見や早期治療、再発予防のために、退院後も定期的な通院と服薬の継続が必要になります。
内服薬も飲み忘れや自己中断が続いてしまうと、血栓形成や不整脈の出現などにつながり、危険な状態になる可能性があります。
長期的に安心した生活を送ることにつながりますので、定期的な通院と治療を継続しましょう。
心臓バイパス手術後の生活に関する注意点
心臓バイパス手術後の生活の注意点として、自分の体調の変化を意識する必要があります。
【注意するべき点】
- 血圧
- 脈拍
- 体重
- 息切れの有無
- 動悸の有無
- 体のむくみ
体調に異変が現れた場合、早めに医師の診察を受けたほうがいい場合があるので、早めに受診をしましょう。
心筋梗塞で入院した人が退院後の生活で気をつけることは、こちらの記事「心筋梗塞で入院した人が退院後の生活で気をつけるべき点とは?仕事復帰するときの注意点を解説」で詳しく解説しています。
術後の生活のことも考えることが大切
本記事では、心臓バイパス手術について以下の内容を解説しました。
- 心臓バイパス手術
- 心臓バイパス手術の流れ
- 心臓バイパス手術後の生活
心臓バイパス手術を受けた方が健康的な生活を続けるために、どのような生活を送るべきなのかについて把握することが大切です。
注意点を踏まえて、安心した生活を送れるようにしましょう。