心臓リハビリに前向きになれないあなたへ

公開日 2024年9月17日 最終更新日 2024年9月17日

心臓病を発症して入院すると、多くの病院で心臓リハビリテーション(以外、心臓リハビリ)を受けます。心臓リハビリは、心臓病からの回復をサポートし、継続することで心臓病の再発を予防します。

しかし実際は、心臓リハビリにあまり前向きになれない人も少なくありません。私が病院で働いていた時、心臓リハビリの時間に病室へ迎えに行くと「まだやらないとダメなの?」「今日はやめておきます。」などと断られることがありました。

ほかにも、「もう元気なんで大丈夫です!」と断られることもありました。体調が落ち着いたら終わりではないのが心臓リハビリなのですが。そもそもいつまで続ければよいのでしょう。本記事では、心臓リハビリを継続することの重要性と継続する期間、そして継続していくためのヒントをお伝えします。

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執筆:大前 有香

理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。病院、介護施設、在宅と色々な分野で働いてきた。今は2人を子育てしながら家での新しい働き方を模索中。執筆記事一覧

心臓リハビリに前向きになれない人もいる

心臓リハビリは心臓病の回復に効果があり、退院のためにも必要です。医師や看護師からも説明を受けるため、ほとんどの人が積極的に参加していました。しかし、中には前向きになれない人もいて、病室へ迎えに行くと断られることがありました。そして、断られるパターンは大きく分けて2つでした。

運動が好きではない

心臓リハビリは、血圧や心電図、採血データなどに問題がなければ、決められたプロトコルに沿って積極的に運動を進めます。多くの病院では、有酸素運動としてエアロバイクを使用しています。運動が好きな人はジムに通う感覚で楽しく取り組めますが、運動が好きではない人にとってはやりたくないことであったりします。

また、運動習慣がない人は、運動による疲労や筋肉痛に敏感になりやすい傾向があります。そのため、「今日は足が痛い」「いつもより疲れてる」など体調を理由に断られることがあります。そのような場合は、看護師や医師とも相談しながらリハビリをやるべきかどうか決めます。

運動が心臓に負担をかけている可能性も否定できないからです。心臓への負担がなく、運動が必要と判断されても拒否が続く場合は、運動のレベルを下げるなどリハビリ内容を検討することもあります。

完全に回復したと思っている

運動に抵抗がなく積極的に実施していた人が、ある日突然やらなくなるパターンもあります。

問題なく運動ができているために、もう心臓リハビリは必要ないと思ってしまうのです。この場合、「自分で動いてるんで大丈夫です!」と言われます。このような人に対しては、活動計や万歩計を使って実際の運動量を確認したり、6m歩行など数値化できる評価を用いて必要な運動量が確保できているか、身体機能の低下がないかをしっかり把握する必要があります。

心臓リハビリに取り組む意義

心臓リハビリは、運動療法、栄養指導、心理的支援などを通じて心臓機能の改善を目指します。その効果は、心臓のポンプ機能、筋力や体力の向上などの身体的効果だけではなく、QOL(生活の質)の向上、ストレスや不安の軽減などの精神的効果にも及びます。

その他にも、心臓病による入院率や死亡率の低下への効果も大きいことが言われています。これらの効果は、目に見える効果として表れにくいのですが、意識してみると次のように少しずつ変化が起きていることに気づきます。

日常生活や社会生活で起きる変化

心臓リハビリを継続していくことで、筋力と体力が向上します。そうすると、駅の階段の上り下りや、早歩きをしたときに今までよりも息切れが少なくなっていることに気づきます。そして、体力がつき、日常生活での疲労感が軽減することで、家族や友人と出かけるなど活動的な生活を送ることができるようになります。

このように、ひとつひとつの変化は小さいことかもしれませんが、それが積み重なることで生活や活動範囲が変化していきます。そして、それは自信にも繋がり精神的な余裕も生まれてくるでしょう。

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心臓リハビリはいつまでやればいい?

このように、心臓リハビリは継続することで素晴らしい効果が得られます。では、いつまで継続すればよいのでしょうか。

日本心臓リハビリテーション学会によれば、心臓リハビリは「可能な限り一生涯続けること」が推奨されています。一生涯と聞くと途方もなく感じるかもしれませんが、例えばダイエットに置き換えてみたらどうでしょう。

ダイエットをしよう!と、がんばって運動して、食事管理をして目標体重を達成したとします。達成したからといって、運動もやめて、食事管理もしなくなったらどうなるでしょうか。あっという間に元の体重に戻ってしまうかもしれませんよね。いわゆるリバウンドです。ダイエットは、痩せたら終わりではなく、その体型を維持していくことが大切です。つまり、太らない生活習慣を一生涯継続する必要があるのです。

そして心臓リハビリも同様に、心臓病にならない生活習慣を一生涯続けることが必要なのです。

心臓リハビリを継続するためには?

心臓リハビリはダイエットと似ています。継続していくためには、無理なく楽しくやることが必要です。以下の点をヒントに、自分で楽しめる方法を探していきましょう。

家族や友人を巻き込む

ひとりではなかなかやる気にならない人は、家族や友人と一緒にやるのがおすすめです。一緒に運動できなくても、LINEなどで運動や食事の経過報告をするだけでも効果的です。SNSなどオンラインで仲間を作って一緒にやるのもいいと思います。

その際、運動や食事の内容は医師の指示に従い、家族や友人のペースに合わせたりしないように気を付けてください。

アプリを使う

ひとりでやりたい人は、アプリの利用をおすすめします。現時点で心臓病に特化したアプリは確認できていないので、「あすけん」などのダイエットアプリで運動と食事を管理してみてください。アプリ内のキャラクターが、アドバイスをくれたり励ましてくれるのでひとりでもがんばれますよ。

速く歩く

これは、本当に運動したくない人におすすめです。日本循環器学会のガイドラインによると、有酸素運動を、1回20〜60分、週3〜5回以上行うと効果的だそうです。この数字を見ただけで憂鬱になる人は、ぜひ早歩きを試してください。

例えば、平日は通勤で駅まで10分歩いていたとします。これを、いつもより少し速く歩いてみてください。心臓リハビリで推奨される運動強度は、「ややきつい」と感じる強さなので、そのくらいの速さで往復すれば20分の運動を週5回することになります。

通勤以外にも、買い物やごみ捨てなど、さらには家の中の移動まですべてを早歩きにするとすべて運動時間になるという裏技です。ただし、ウォーキング2o分と同じ運動量になるという訳ではなく、あくまで運動のきっかけとしておすすめします。

心臓リハビリは必要なもの

心臓リハビリの効果は、身体的な改善のように目に見えるものだけではなく、心臓病の再発予防や死亡率の低下のように目に見えないものにまで及びます。しかし、心臓リハビリは運動が中心であり、運動が好きではない人はあまり前向きになれないことが多いように感じます。

そんなときは、まず運動に対する抵抗感を減らすことから始めましょう。早歩きがその一歩になります。こんなことが運動になるの?と思うかもしれませんが、小さなことも積み重なると変化していきます。そして、ひとりでがんばらずに周りを巻き込みましょう。心臓リハビリは一生涯続くものです。自分なりに楽しく続けていける方法を探していきましょう。

理学療法士、心臓リハビリテーション指導士。病院、介護施設、在宅と色々な分野で働いてきた。今は2人を子育てしながら家での新しい働き方を模索中。