公開日 2025年3月10日 最終更新日 2025年3月10日
周産期心筋症により、重症心不全を経験し、現在、慢性心不全の状態で日々過ごしています。
復職から6年が経過し、いつか自分が経験してきたことを医療従事者に向けて発表することで、医療従事者に対しても患者の気持ちを少しでも理解してもらい、目的を共有してより充実したリハビリテーションの提供または実施が行えるのではないかと考え発表へ挑戦しました。
はじめての全国学会での発表を経験したため、お伝えできたらと思います。

執筆:kazumi
周産期心筋症・慢性心不全と共に理学療法士として勤務。2人の男の子を育てながら、悪戦苦闘の日々を過ごしている。執筆記事一覧
【目次】
前へ進むきっかけ
現在、理学療法士としてフルタイム勤務で、病院の定期受診や負担量などの業務配慮をいただきながら取り組んでいます。
そんな中、循環器分野の学術大会があり、循環器理学療法を通して、様々な奇跡を紹介したり、症例や理学療法にまつわるエピソードを紹介する企画がありました。
今まで、様々な学会の文献を見てきても患者本人が発表している内容を見る機会は、ほとんどありませんでした。そのためこの学会に参加し、理学療法士が心疾患を患ったからこその視点を発表することが、今後の心疾患患者の考えを知ってもらい、リハビリテーションへと繋がるいい機会になるとと思い、発表することにしました。
患者としての経験を発表する意味
病気をして、自分の病気について調べる方がいるのではないでしょうか。今は病室でもインターネットで調べることができ、病気について知ることができています。そして、どんな予後が待ち構えているのかも知ることができます。その情報を得たことで生まれた希望や不安などの感情と共に、治療に臨んでいる方もいるのではないでしょうか。
私自身も一般病棟へ転棟してから、インターネットを使って自身の病気について調べた覚えがあります。しかし、その時の状況としては再び自宅へ帰れるかどうかという状況だったため、調べたことに対して後悔し、落ち込むことも多々ありました。調べないで、先生たちを信じて治療に臨もうとも思いましたが、天井を見ていると不安が湧き出てきて、いつの間にかまたインターネットで調べている自分がいました。
当時、心臓を休める事が必要とのことでLVEDを装着し、心機能の回復を待つ状況でしたが、待つということに慣れていないため、今まで学ぶきっかけがなかった循環器理学療法を勉強してみることにしました。仕事柄、基本的なことは理解しているつもりでしたが、より自身の状況を当てはめながら見ていくと理解しやすく、「もしかして家に帰れる手段があるかも」という希望が生まれてきました。また、循環器理学療法について調べている時は時間の経過が早く、充実した感覚になっている自分がいました。そして、いつか理学療法士として働きたいという気持ちも僅かにありました。
とはいえ、入院中に回復するためにどんな経過を辿り、どんなことが待ち構えているのかがわからなく、とても不安だったため様々な文献を探しました。その中で同じような症状の症例を発表している方の抄録を見て、その時に何が自分に必要かが見えてきた気がしていました。図々しくも主治医や担当セラピストにその抄録を提示し、心臓リハビリテーションでの可能性を感じていました。
この時の経験が、今回の挑戦に繋がったんだと思います。
発表の予行練習にて
はじめは自分の病気を発表して恥ずかしくないかと思いましたが、主治医や担当だったセラピストへ相談すると、ここまでの経過を辿ることは珍しいとのことでした。
この経験が、今同じような病気で戦っている方にとっての、何かの手がかりとなるのではないかと感じ、思い切って発表することにしました。学会発表する際には、職場にて事前に発表を想定した練習を行なっています。その際に筆者の病気のことを初めて詳しく知ったスタッフもいました。
しかし、思っていたよりもスタッフには、病気の後遺症を持つ患者の気持ちが伝わっているようには感じませんでした。循環器疾患の患者を担当したことがあるかでも、スタッフの反応が異なる事がわかりました。
【関連コラム】
実際の発表では
予行練習での反応に不安を抱えながら当日を迎えました。今回の発表はシンポジウムという形で、15分間の発表となり、普段の発表よりも時間があったので、ICU・心臓リハビリテーション・自宅療養・復職とその時に感じた不安を大きく4つの「壁」とし、その時の壁の打開方法などを提示してきました。
内部疾患の方によく言われることがあるかと思いますが、見た目が普通であることに驚かれていたようでした。緊張をして脈拍が上がり、ウェアラブルウォッチで設定している脈拍の上限を超えていましたが、何とか無事に発表を終えることが出来ました。
発表後、若手のスタッフに伝えてほしいなどのお話を頂いたりと、自分の経験が心疾患患者のためだけではなく、若手のスタッフのためにもなり得る経験だったということがわかりました。
過去の自分のため、そして今病気に対する不安を抱えている人のために
はじめての全国学会での発表を経験し、エビデンスを築くために研究されている先生方の素晴らしい発表に感動した反面、自分の勉強不足を感じるものとなりました。
ただ、重症心不全からも復職することもできる場合があることを提示できたかと思います。今まで理学療法士として学会へ参加していた時は、結果の数字に着目していましたが、今回参加してみて、スタッフには毎日一緒にリハビリしているからこそスタッフの存在が大きい事や、スタッフの言葉は患者の気持ちに大きく影響することなどを心に留めてほしいと感じました。
患者側としては、目標を持ち、自分から動けるところは動いていくことが、前へ進むきっかけになると思いました。患者として気持ちが落ち込むことは多々ありますが、悔いなく生きることに覚悟を持っていく事が必要だとあらためて実感しました。