冠攣縮性狭心症の人はできる仕事に制限がある?転職活動や生活に活用できる制度を解説!

公開日 2023年6月29日 最終更新日 2024年2月18日

狭心症は、動悸や、締め付けられるような胸の痛みを発します。受診時に心臓の病気と聞いて「まさか自分が」と、驚いた方も多いと思います。

狭心症は状態によりいくつかの種類に分けられます。原因によって、対応や治療も異なるので、知識をつけておくのは重要です。

本記事は、安静時狭心症とも呼ばれる冠攣縮性狭心症の発症した方へ向けて下記を解説します。

  • 冠攣縮性狭心症とは
  • 冠攣縮性狭心症による仕事に制限はあるのか
  • 心疾患の方が働きやすい職場とは
  • 冠攣縮性狭心症で生活上の注意点

この記事を読めば、今後の見通しを立てる糸口が見つかります。ぜひ最後までご覧ください。

また狭心症については、こちらの記事「 狭心症の人に仕事の制限はある?治療を継続しながら働く方法を解説」で詳しく解説しています。

 

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監修:谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

【目次】

冠攣縮性狭心症とは

冠攣縮性狭心症は、冠動脈のけいれんにより、一時的に血管内が狭まり、心臓の筋肉への血流が滞る疾患です。狭心症は、状態によりいくつかの種類に分けられますが、6割が​​​​冠攣縮に関連していると言われています。

冠攣縮性狭心症により血管が詰まるのは、コレステロールの塊や、血栓によるものではありません。そのため、症状は一過性の場合が多く、時間の経過とともに発作は消失します。

冠攣縮性狭心症の原因

前述の通り、冠動脈の一時的なけいれんにより、血管内が一時的に細くなるか、完全に閉塞して、血流が滞って起こります。

こうした発作は下記に関連すると言われています。

  • 喫煙
  • 飲酒
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 動脈硬化
  • ストレス

リスク予防には、生活習慣が重要です。生活上の注意点は後述します。

冠攣縮性狭心症の症状

冠攣縮性狭心症の症状は下記の通りです。

  • ​​胸の中心あたりの胸痛
  • 動悸・息切れがする
  • 圧迫感がある
  • 冷や汗が出る

冠動脈のけいれんは、交感神経の働きにより、睡眠中や早朝から明け方に起こることが多いと言われています。

また、パニック発作でも上記に似た症状が現れる場合があります。心疾患との違いは症状の出かたです。パニック発作の症状は、同時に現れず、短い発作期間内に順に、現れるケースが多いようです。

初期では、軽いめまい、胸痛、動悸、中期では、嘔気、呼吸困難感、冷汗、終盤では知覚異常、死への恐怖といった具合です。

とはいえ、違いは当事者が自己判断できるものではありません。症状が出た場合は医療機関を受診しましょう。

冠攣縮性狭心症の検査

冠攣縮性狭心症は、どのような検査をするのでしょうか。心臓に関連した検査は主に下記の3つです。

  • 12誘導心電図
  • ホルター心電図
  • カテーテル検査

12誘導心電図は、四肢と胸部に電極を貼って、心臓の動きを観察する検査です。10分〜15分ほどで終わります。

ホルター心電図は、心電図により24時間心臓の動きを観察する検査です。冠攣縮性狭心症は、発作時以外、心臓の動きは正常である場合が多く、通常の心電図だけでは異常を確認できません。そのため、ホルター心電図で24時間心臓の動きを観察します。

カテーテル検査は、足や手首の血管からカテーテルを挿入し、造影剤を流して、レントゲン撮影する検査です。冠動脈内の攣縮(れんしゅく)を誘発する薬剤を入れて、冠動脈の変化や発作の状況を確認します。

ホルター心電図については、こちらの記事「​​ホルター心電図はどんな検査?検査の概要や仕事、生活への影響を現役看護師が解説」で詳しく解説しています。

冠攣縮性狭心症の治療

冠攣縮性狭心症の治療は、薬物療法が基本です。治療薬の種類は大きく下記の2つです。

  • 発作予防のための薬
  • 発作時に服用する薬

発作予防のための主な薬は、一部の電解質の細胞への取り込みを抑制して、発作を予防する「カルシウム拮抗薬」「ニコランジル」です。

発作時には、狭まった血管を拡張させて、血流を確保する効果がある「硝酸薬」が使われます。

なお「冠攣縮性狭心症は完治するのか?」と不安に思う方もいるかと思いますが、現時点では完治させる治療はありません。原因となる生活習慣の見直しや、ストレスの改善、高血圧や、脂質異常症の治療をしながら予防につとめましょう。

冠攣縮性狭心症で仕事の制限はあるのか

冠攣縮性狭心症になっても、症状が安定すれば職場への復帰は可能です。

しかし、原因によっては、再発の可能性が考えられるため、仕事内容の見直しや、業務調整が必要な場合もあります。たとえば下記です。

  • 仕事での身体への負荷が大きい
  • 普段から過度なストレスがかかっている
  • 休みがなく病院受診できない

これらは、再発にあたってリスクです。心当たりがある場合は、環境を見直しましょう。また、再発予防には定期的な受診が必要です。ひとりで判断せず、専門の医師や、医療スタッフのアドバイスに従いましょう。

仕事が制限される場合の目安

仕事や、運動量の制限の目安は、METs(身体活動強度)で表されます。

METsとは、安静時を「1」とした時と、比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動強度を示します。

たとえば下記です。

METs 日常生活/運動 職業
1 座っている
2.0 印刷:製造業、立位
2.5 着替え:立位 警察官:交通整理
3.8 やや早歩き
4.0 早歩き マッサージ師:立位
4.5 バドミントン 肉体労働や単純労働:全般
6.5 エアロビクス 肉体労働や単純労働:全般、きつい労働
7.5 ロッククライミング 引っ越し:重い荷物を運ぶ、または押す
8.0 ​​ランニング:134m/分 消防士:全般

出典:身体活動のメッツ(METs)表|医薬基盤・健康・栄養研究所

運動の制限は、医師や医療スタッフへ確認しながら、仕事復帰の話をすすめましょう。

心疾患の方の運動については、こちらの記事「​​心臓リハビリテーションって何をするの?心リハ指導士が伝えるリハビリの意義」で詳しく解説しています。

円滑に仕事の調整をすすめるためには

症状発症後は、できるだけ早めに、上司や職場へ必要に応じて連絡しましょう。時期により復職や、業務調整のための相談が必要です。

円滑に話をすすめるため、時期によって伝えるべき内容は下記です。

急性期
  • 職場への相談の上、必要に応じて現状と今後の見通しを報告
  • 休暇について職場に確認・相談
  • 病名や病状を伝える関係者
退院後
  • 治療内容や心機能を踏まえて自宅療養・復職の見通し
  • 復職までの大まかなスケジュールを検討する
復職前
  • 時期、復職に向けた段取りを確認
  • 業務量や勤務時間を相談
復職後
  • 業務量や勤務時間の相談
  • 自分自身の体やメンタル面について報告

出典:心疾患の治療と仕事を両立するノート|厚生労働省

復職には、自身の体やメンタル面も重要です。あとで体調を崩すきっかけにならないよう、しっかり現状を伝えましょう。

また、体調、メンタル面などの状態については、主治医の意見も重要です。復職時の注意点なども事前に確認しておきましょう。

心疾患の人が働きやすい職場とは

身体状況や、職業などによっては転職も必要になるかもしれません。

では、心疾患を抱えた方が働きやすい職場はどのような環境なのでしょうか。

  • 病気自体に理解がある
  • 業務内容に配慮がある
  • 障害者の雇用経験がある
  • 通院のための勤務調整に柔軟

心疾患は再発防止のためにも、定期的な受診が重要です。有給や、治療に関する休暇制度がある企業かは、事前に確認しておきましょう。

また、心疾患は、内部障害と呼ばれ、見た目に健康な人と変わりないため、周囲から理解が得られにくい傾向があります。

周囲の協力を得やすいように、事前に同僚や上司に相談して、関係性を作る努力は必要です。

就業や生活をサポートする制度

最後に冠攣縮性狭心症により、就業や生活に制限が出た場合、利用できる可能性がある制度や、サービスを紹介します。

  • 障害者年金
  • 身体障害者手帳
  • 就労移行支援

それぞれ詳しくみていきましょう。

障害者年金

障害者年金は、病気やケガにより働けなくなったり、生活に制限が出たときに、受給できる年金制度です。

可能性は低いですが、冠攣縮性狭心症により、症状が頻発して労働に支障が出る場合は、障害者年金が受給できる可能性があります。

障害者年金は、程度により、1級〜3級に障害の状態を分類しています。1級〜2級は、日常生活が制限されており、3級は働くことが制限されている状態です。

詳細は下記です。

1級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級 身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの

出典:障害等級表|日本年金機構

支給額は、加入している年金や、障害の程度、配偶者・子供の有無によって異なります。

障害年金については、こちらの記事「心臓疾患で障害年金はもらえるの?障害年金の仕組みと認定基準を徹底解説」をご覧ください。

身体障害者手帳

身体障害者手帳は、身体機能に一定以上の障害が残ったと認められる人へ配布される手帳です。

所有することで下記のメリットがあります。

  • 医療費の控除
  • 公共料金の割引
  • 障害者枠による雇用制度の利用
  • 所得税や住民税などの税金の軽減

認定基準は病名ではなく、障害の程度によるため、冠攣縮性狭心症に関連して障害が残った場合に、配布を受けられる可能性があります。心臓機能障害の場合の認定基準は下記です。

1級 心臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの
3級 心臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの
4級 心臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

出典:心臓機能障害|兵庫県

申請先は、居住地周辺の「福祉事務所」です。

障害者手帳については、こちらの記事「心臓疾患の人は障害者手帳を持つべき?メリットや申請方法について解説」で詳しく解説しています。

就労移行支援

就労移行支援は障害がある人の就労を支援するサービスです。

受けられるサービスの内容は下記です。

  • 就労に関する相談
  • 職業習慣の確立の支援
  • 職場見学、実習の支援
  • 求職活動や、職場開拓の支援
  • 挨拶・身なりなどのマナー習得の支援

本人の状況により、個別に計画を立ててサポートします。一般企業への就業が不安な場合にサポートがあるので状況によっては利用すると良いでしょう。

冠攣縮性狭心症で生活の注意点は

冠攣縮性狭心症の再発を予防するためには、動脈硬化を起こさないよう配慮が必要です。

動脈硬化のリスクになるのは下記です。

  • 喫煙
  • 飲酒
  • 過労
  • 糖尿病
  • 高血圧
  • ストレス
  • 脂質異常症

これらはすべて日常生活に関連した要素です。食事の適正化、禁煙、禁酒など、心当たりがある部分は見直しが必要でしょう。

糖尿病や、高血圧、脂質異常症に関しては、内服による管理が必要なケースもあります。病歴がある場合は、医師へ相談して、改善に努めましょう。

生活習慣、生活習慣病と心臓病の関係については、こちらの記事「生習慣活病と心臓病の関係性は?食事や睡眠を見直して予防・改善を目指そう
」で詳しく解説しています。

冠攣縮性狭心症に関連したよくある質問

最後に、冠攣縮性狭心症に関連して、よくある疑問に答えていきます。

  • 入院費はいくらか
  • 労作性狭心症との違いは
  • 心疾患から社会復帰をした人の例はありますか

入院費はいくらぐらいになりますか?冠攣縮性狭心症の治療は、薬物療法が中心です。

手術や、ステント治療などの、おおがかりな治療をした場合に比べれば、高額にはならないでしょう。とはいえ、治療内容や、入院期間により費用が変わるため、明言はできません。検査をふまえて数万円〜数十万円になる可能性はあります。

なお、自己負担額が一定額を超える場合は、高額療養費制度を利用して、医療費の払い戻しが受けられます。高額療養費制度については、こちらの記事「高額療養費制度の申請方法と注意点を解説!知らないと損するその他の制度も紹介!」で詳しく解説しています。

労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)との違いを教えてください

労作性狭心症は、冠動脈内に​​コレステロールの塊が蓄積し、血管が狭くなり、血流が悪くなる疾患です。

特に運動時(労作時)は、多くの血流が必要です。冠動脈の狭窄のために、心臓の筋肉に必要な血流が届かないと胸部症状を発症します。冠攣縮性狭心症では、プラークによる血管の詰まりはなく、その点は異なります。また、冠攣縮性狭心症により、症状が出やすいのは、睡眠中や明け方です。

どちらも、多くの場合は、動脈硬化が関連しており、その点は共通しているでしょう。

心疾患で社会復帰した人の例はありますか

「日本職業・災害医学会」による、心疾患患者を対象にした仕事復帰率の調査では、死亡患者を除いた場合、約80%が復職しているというデータが発表されています。

心疾患を発症した人は「もう元の生活には戻れないのでは」と、不安になる場合も多いと思いますが、実際には多くの人が社会復帰を果たしています。

当メディアでは、心疾患による障害を抱えながらも、社会復帰した人の体験談を紹介しています。気になる人は「はとらく」をご覧ください。

冠攣縮性狭心症になっても社会復帰は可能

本記事は下記について解説しました。

  • 冠攣縮性狭心症とは
  • 冠攣縮性狭心症による仕事に制限はあるのか
  • 心疾患の方が働きやすい職場とは
  • 冠攣縮性狭心症で生活上の注意点

冠攣縮性狭心症は、多くの場合、職場復帰が可能です。

しかし、状態によっては業務調整が必要であり、再発予防のために生活にも注意が必要です。

医師や医療スタッフへ確認しながら、無理のない生活が送れるよう配慮しましょう。

※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

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看護師&WEBライター。介護士歴7年、資格取得後に看護師へ転職。国立病院の循環器科を経験。現在は地域医療を学ぶために田舎の救急病院に勤務。検査、救急対応、外来対応、病棟看護なんでもやってます。(Twitter:@ns_shokpan)