公開日 2022年8月26日 最終更新日 2024年5月4日
心臓障害(心臓機能障害)は内部障害で、他者にはわかりにくい障害です。
先天性心疾患や心房細動、狭心症など病状は個々に異なります。そして心臓障害を抱えながら働いている方の中には、無理をして心臓に負担をかけてしまう方が少なくありません。まずは、働きながら心臓障害になったらどうしたらいいのかを知りましょう。
さらに心臓障害患者にとって働いていけないのはどのようなときか、どのような職場が働きやすいのかもあわせて解説します。
また、各病気ごとに向いてる仕事について詳しく解説した記事もありますので、該当する病気をお持ちの場合はこちらもご確認ください!
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
- 社会人になってから心臓障害になった方が取り組むこと
- 心臓障害の方が転職すべき職場環境
- 「心臓障害がある方が働けない」のはどのようなとき?
- 心臓障害の方が働きやすい6つの条件
- 心臓障害の方におすすめの仕事
- 心臓障害を抱えて働くためにすべき3つの選択
- 心臓障害があっても仕事は続けられる
社会人になってから心臓障害になった方が取り組むこと
心臓障害は生まれつき持っている方もいますが、後天的に発症する方もいます。ここでは社会人になってから心臓障害を発症した場合の対応について、段階別に解説します。
【急性期】心臓障害になったからといって、仕事を辞める必要はない
心臓障害になったから、入院したからといってすぐに仕事を辞める必要はありません。
まずは医師に病状や治療期間を確認したうえで勤め先に現状を伝えてください。病気休暇制度や休職制度を利用し、しっかりと療養しましょう。そのうえで療養後に復職するか、もしくは転職するかといった点について、焦らずに検討しましょう。
【退院前】退院後の働き方について医師や職場と相談する
退院の目処が立ったら、まずは医師にどのようなスケジュールで復職してよいか相談しましょう。復職の時期は治療内容や心臓の状態によって異なるため、自己判断は控え必ず主治医の指示を聞きましょう。
そのうえで、職場に復職時期や段取りを相談してください。雇用者側が復職や業務制限に難色を示すケースもありますが、職場には「安全配慮義務」といって社員の命、身体等の安全を確保しながら仕事ができるよう就業上の配慮を行う義務があります。
就業上の配慮は、具体的には以下です。
- 配置転換
- 勤務時間短縮
- 時差出勤
- 在宅勤務・リモートワーク
必要があれば医師に診断書や主治医意見書の作成を依頼し、体に負担をかけない働き方ができるように調整しましょう。
【退院後】仕事に戻るならここに注意!
心臓障害を抱えて働くためには、適切な配慮が必要です。
心臓に負担となる働き方を避けるのはもちろんですが、心臓障害の既往がある方はそうでない方と比べて再発しやすく、重症化しやすい特徴があります。
再発を防ぎ安定した状態で働くために重要な2つのポイントを知っておきましょう。
薬は辞めない
退院後に処方される薬には心臓の筋肉の負担を軽減したり、血栓ができにくくしたり、脈を調整したりなどさまざまな役割があります。
しかし、飲み忘れても体調の変化を感じにくい薬もあるため、自己判断で薬を辞めてしまう人が少なくありません。
しかし薬を辞めたことで心臓の大きな血管が詰まったり、不整脈が起こったりなど、取り返しが付かない状態になる危険性があります。薬は必ず医師の指示どおりに服用しましょう。
定期通院を継続する
自覚症状がないからといって、定期受診を自己判断でやめてはいけません。心臓障害の場合長期的に経過をみていく必要があります。異常の早期発見・再発予防に繋がる定期受診をやめないようにしましょう。
心臓障害の治療と仕事を両立しながら働くときのポイントについては、こちらの記事「【心臓病】向いてる仕事や治療と両立させるポイントを解説」で詳しく解説しています。
リハビリ勤務制度を利用する
退院してから復職する場合、リハビリ勤務制度を利用するのもおすすめです。
退院後は体力が落ちていたり病気を発症したことによる体の変化が起きていたりするため、いきなり復職をすると心身への負担が大きくなってしまいます。
リハビリ勤務制度は、短時間勤務から復職し、数ヶ月かけて徐々に働く時間を伸ばしていく勤務制度です。この制度を活用することで、無理のない範囲で仕事を再開できます。
しかしリハビリ勤務制度は、会社によってルールが異なり、実施していない企業もあるため、リハビリ勤務を希望する場合はまず会社側に相談してみましょう。
実際に心臓病を発症してからリハビリ勤務制度での復職を経験した方の体験談はこちらの記事「リハビリ勤務(お試し勤務)って実際どんな感じ?自分が経験した復職プランを紹介」です。
心臓障害の方が転職すべき職場環境
つぎに心臓障害を持つ方にとって、避けるべき職場環境について解説します。
肉体労働
肉体労働は心臓に負担がかかる業務の代表例です。肉体労働の中でも心臓障害の方が一時的・永続的に注意しなければならないのは、次のような働き方です。
一時的 | 開胸術後に重いものを持つ |
永続的 | ペースメーカ植込み後の溶接作業や、植込み型除細動器植込み術後の大型及び第 2 種自動車運転免許などの作業制限。 そのほか、体脂肪計、MRI、アマチュア無線などの使用、そして発電設備、高電磁波に接する環境、電車の車両格納庫などに近づくことの禁止。 |
ペースメーカーや植込み型除細動器を挿入した方は、機器の誤作動を防ぐために上記の業務を避けなければなりません。
また、営業などの外回りも肉体労働に含まれます。できるだけ心臓に負担がかからない働き方を職場と相談しましょう。
ペースメーカーと植え込み型除細動器を植え込んだ人が仕事で気をつけることについては、こちらの記事「ペースメーカーを埋め込むと仕事にどんな制限があるか?注意すべき環境とは」「ICDとは?機能や植え込みにかかる費用を解説!生活や仕事に与える影響とは」でそれぞれ詳しく解説しています。
夜勤や長時間労働
夜勤のある仕事や長時間労働など不規則な生活は、生活習慣の乱れを引き起こします。生活習慣の乱れはメタボリックシンドロームや脂質異常症、糖尿病・高血圧のリスク因子でもあり、心臓障害の再発を招くリスクを上げる可能性があるため注意が必要です。
さらに世界中の45~84歳の中高齢者1,992人を対象におこなった研究では、不規則な睡眠パターンの人は心臓障害のリスクが2倍以上になると報告されています。
不規則な仕事の方は、できるだけ規則正しいリズムで働けるよう職場と相談しましょう。
ストレスの多い職場
ストレスは自律神経や内分泌系に影響をあたえ、心拍数の増加や心臓の収縮機能に負担をかけます。その結果、心臓障害(冠動脈疾患)のリスクをあげると報告されています。
現在の職場環境にストレスを感じる場合は、部署異動や転職を検討しましょう。
心臓病とストレスの関係については、こちらの記事「心臓病とストレスの意外な関係とは?影響を受ける病気や適切な対処法も解説!」で詳しく解説しています。
病気に理解のない職場
合理的配慮を受けられなかったり、受診のための休みが取れなかったりする職場は、心臓障害を抱えながら働くにはつらい環境です。仕事や人間関係にともなうストレスがかかり、心身に影響を与える可能性があります。
診断書をもとに病状について説明する、産業医の協力を仰ぐなどの方法がありますが、理解を得られなければ転職するのも一つの方法です。
「心臓障害がある方が働けない」のはどのようなとき?
心臓障害がある方が働けないのは、いくつかのケースが想定されます。実例をあげて紹介します。
医師より就労禁止の指示や診断書がある
復職に際し主治医の診断書が求められるケースがあります。復職の可否を主治医だけでなく、産業医が総合的に判断し就労が許可される場合もあるため、必ず職場に確認してください。
心臓の術後や植込み型除細動器やペースメーカー植え込み後には、業務内容に配慮が求められます。心臓障害の後遺症や入院・治療による体力低下がある場合も就業に配慮が必要です。ご自身の体力を過信せず主治医の指示に従いましょう。
手術直後
手術直後、特に開胸術後は就労に制限があります。心臓の手術の際に肋骨を切った場合、術後数ヶ月は骨がくっついたり傷が治ったりする途中のため、傷への負担を最小限にする必要があるからです。
主治医と相談しながら、焦らず無理のない範囲で働きましょう。
移動や日常生活動作で自覚症状の増悪がある
治療後や退院後には体力が低下し、今までは何ともなかったような行動でも疲れやすくなります。
しかし、動いたときに自覚症状が現れたりひどくなったりする場合は注意が必要です。特に初めて経験する症状や、休んでも改善しない場合にはできるだけ安静にし、速やかにかかりつけ医を受診しましょう。
動悸・不整脈・胸の痛み・息切れがある
動悸や胸の痛み・息切れは、心筋梗塞や狭心症・心房細動の症状の可能性があります。薬が処方されている場合は、指示に従って薬を使用しましょう。
仮に症状が良くなったからといって放置せず、必ずかかりつけ医に相談してください。症状がひどい場合には、救急車での受診を検討してください。
心臓障害の方が働きやすい6つの条件
心臓障害の方はどのような職場であれば働きやすいのでしょうか?厚生労働省は病気を持った人も働き続けられる環境づくりのために「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を策定しています。雇用者・企業はこのガイドラインを参考に、さまざまな病気を抱える方に働きやすい環境を整える義務があります。
今回は当ガイドラインや「心疾患の治療と仕事の両立 お役立ちノート」を参考に、心臓障害の方が働きやすい6つの条件をまとめました。
上記は、心臓障害の方が転職を検討すべき職場の条件です。誰もが働きやすい職場を探すのは難しいですが、このような職場であれば病気に対しての理解・配慮が得られ、医師からのサポートも比較的受けやすく比較的働きやすい環境といえるでしょう。
心臓障害の人におすすめの心臓に負担のかからない仕事
心臓障害の方におすすめの職種はオフィス内もしくは自宅でできる仕事、重い物を運んだり外回りをしたりなど肉体的な負担がない仕事です。代表的な仕事は以下です。
- 一般事務
- 人事
- 経理
- 企画職
- マーケター
- インサイドセールス(内勤型営業)
- エンジニア・プログラマー
- Webデザイナー
とくに一般事務職は、身体的な負担が少なく、また求人数が障害者雇用で最も多いため心臓障害の方におすすめです。
また、同じ業務でも在宅勤務・リモートワークにするだけで、身体的な負担を大きく軽減できるためとても働きやすくなります。病状に合わせ心身に負担をかけない働き方ができるとよいですね。
心臓病の人に向いてる仕事・向いていない仕事については、こちらの記事「心臓病でも出来る仕事とできない仕事の違いとは?向いてる仕事に転職する方法も解説」で詳しく解説しています。
心臓障害を抱えて働くためにすべき3つの選択
心臓障害を抱えて働く場合、下記の3つのポイントが重要です。
- 仕事上の配慮を求める
- 障害者雇用に切り替える
- 心臓障害の方が働きやすい職場に転職する
仕事上の配慮を求める
「同僚に迷惑をかける」と職場での配慮を遠慮される方もいるかもしれません。けれどもなんらかの障害をかかえる方は、障害者差別解消法により職場に「合理的配慮」を求めることができます。
合理的配慮とは、障害を持つ人からなんらかの助けを求める意思表明があった場合に、負担になりすぎない範囲で事業者や役所が求められる対応のことです。たとえば、バリアフリーや心臓障害がある人でも働きやすい労働時間・通勤方法の調整、定期通院の配慮があります。
対象は障害や社会の中にあるバリアによって、日常生活や社会生活に制限を受ける全ての人です。合理的配慮を受けられなかったり、不当な差別を受けている場合には改善を求めることができます。
しかし、心臓病を抱えながら企業で働いていく中で、正しい理解を得られないこともあります。下記は実際に心臓病を抱えながら働いていた方の体験談です。
「持病があることや日常生活は普通にできることを説明しようとするも、就業時間中の雑談という限られた時間の中では十分に伝えることができず…。病気を正しく理解してもらうことが難しくなっていきました。」
引用: 面接で絶望して就職後にも障壁…先天性心疾患者が体験した「一般企業で働くことの難しさ」
会社によっては、適切な配慮が提供されないこともあります。職場環境や業務内容が自分にとって負担になっていると感じた場合は、無理せず転職を選択肢に入れましょう。
また、従業員が50人以上在籍する職場では産業医の配置が義務付けられています。産業医は労働者の健康を守るために必要な専門知識を持った医師です。心臓障害がある方がどのように働くとよいのか、一緒に考えてくれます。総務や人事、健康管理室のような部署に所属していますので、ぜひ相談してください。
障害者雇用に切り替える
「障害者雇用」は、障害を持つ人の雇用の安定を実現するために制定された、障害者雇用促進法に基づいた働き方です。ここでいう障害者とは以下に該当する方です。
身体障害者 | 身体障害者手帳を所有している人 |
重度身体障害者 | 身体障害者手帳の1・2級を所有している人 |
知的障害者 | 療育手帳を持つ人、または知的障害者判定機関の判定書を持つ人 |
重度知的障害者 | 療育手帳を持つ人、または知的障害者判定機関の判定書を持つ人 |
精神障害者(発達障害者を含む) | 精神障害保健福祉手帳を持つ人のうち症状が安定し、就労が可能な状態にある人 |
そのほかの心身の機能障害者 | そのほかの心身の機能に障害があるために、長期にわたり職業生活に制限を受け、職業生活を営むことが著しく困難な人 |
心臓機能障害で障害者雇用の適応となるのは、身体障害者手帳1・3・4級の交付を受けている方です。2020年の改正障害者雇用促進法では「常勤換算で45.5人以上雇用している企業は障害者を1人雇用する義務がある」と制定されました。法改正をきっかけに以前よりも雇用の門戸が広がり、企業内での雇用の切り替えを可能とする企業も増えています。
障害者雇用のメリットは心臓障害を持つ人の心身に配慮した働きができる点です。デメリットは職種や働き方が限られる、給料が減る可能性がある、周囲に心臓障害があると知られてしまう点です。
心臓障害を抱えながらどのような働き方ができるか、どのように働いていきたいかは一人ひとり異なります。自分がどうしていきたいかを考えて、未来を描いていきましょう。
障害者雇用についてはこちらの記事「障害者雇用で正社員になれる?実際の雇用状況や正社員になる方法をご紹介」でも解説しています。
心臓障害の方が働きやすい職場や仕事に転職する
心臓障害を抱えながら発症前と同じ職場で働くことが難しい場合には、転職するのも一つの方法です。一人での転職活動が大変な場合は、両立支援コーディネーターやハローワーク、障害者雇用専門の転職エージェントなどの支援を受けましょう。
さらに、転職をきっかけに未経験の業種に転職する方のために、障害者就業・生活支援センターで職業準備支援や職業訓練を受けられます。公的な支援も利用し転職を成功させてください。
心臓障害があっても仕事は続けられる
心臓に障害があっても仕事を辞める必要はありません。病状によっては何らかの配慮が必要になる可能性がありますが、主治医や上司と相談しながら可能な範囲で働いてください。
仕事の内容や病状によっては転職を検討しなけれぱならないかもしれません。けれども心臓に障害があっても働ける職場がきっとありますので、諦めないようにしたいですね。