不整脈で仕事を休むときの注意点 無理して働き続けることのリスクとは?

公開日 2022年10月10日 最終更新日 2024年2月18日

日本では、心臓突然死によって年間6〜8万人が亡くなっていると言われています。不整脈から来る動悸や息切れなどの違和感を覚えながら無理して働いていると命に関わります。

今回は不整脈を感じながら「仕事を休むべきか?」と悩んでいる方へ向けて、そのリスクや、仕事を休むときの注意点を解説していきます。

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監修:谷 道人

沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。

【目次】

不整脈とはどんな病気なのか?

心臓は電気信号によって、一定のリズムで動きます。このリズムの乱れが「不整脈」です。不整脈によって、血流が滞ると「血栓」と呼ばれる血の塊ができることがあります。

この血栓が、血管を塞ぐことで、脳梗塞や、腎梗塞につながります。また、不整脈は種類によっては突然死につながることも。どちらにせよ、不整脈には重大な病気を起こすリスクがあります。

参考:日本循環器学会 ​​不整脈の診断とリスク​​

不整脈の種類

不整脈には大きく分けて、以下の3種類があります。

  • 頻脈
  • 徐脈
  • 期外収縮

頻脈

1分間で拍動が100回以上になることです。電気を作る部位の異常で、余分な電気が生まれてしまい、脈が早くなっている状態です。

徐脈

1分間で拍動が60回以下になることで、心臓の中で電気が作られない、また電気が伝わりづらくなっている状態です。完全に電気が伝わらない場合は、急いでペースメーカーの植え込み治療が必要です。

期性収縮

いわゆる「脈が飛ぶ」状態です。正常に電気を発生する部位とは別の場所で電気が発生し、心臓の動きが乱れることで脈が飛びます。ほとんどの場合は自覚症状はありません。

不整脈を起こす原因

不整脈を起こす原因は主に以下の4つです。

  • 心臓の病気
  • 心臓以外の病気
  • 服用している薬の影響
  • 生活習慣の影響

それぞれを説明します。

心臓の病気

心臓の病気は不整脈に大きく関わります。不整脈につながる心臓の病気は以下の通りです。

  • 心筋梗塞
  • 心筋症
  • 心不全
  • 心臓弁膜症

上記は命に関わる病気なので、すぐに治療が必要です。

それぞれの病気については、こちらで詳しく解説しています。

心臓以外の病気

心臓以外の病気で注意が必要なのが高血圧です。血圧が上がることによって、心臓の負担につながり、不整脈が起こりやすくなります。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患も心臓との関連が高く、心疾患や不整脈につながります。

服用している薬

服用している薬によっては、不整脈を引き起こす原因につながります。たとえば、降圧剤や、抗うつ剤など、自律神経に働きかける薬の中には不整脈につながるものもあります。

薬の飲み方は必ず医師の指示に従いましょう。

生活習慣の乱れ

生活習慣病は不整脈の原因の1つです。ストレス、水分の不足、睡眠不足、肥満、過労、喫煙、アルコールの摂りすぎなど、自律神経が乱れるためです。

不整脈の他にも多くの病気につながるリスクがあるので、生活習慣には注意しましょう。

ストレスと心臓の関係については、こちらの記事「心臓病とストレスの意外な関係とは 適切な対処法も解説!」で詳しく解説しています。

不整脈の症状

不整脈の症状はさまざまです。たとえば不整脈によって脳に血液が運ばれなくなると失神、めまい、ふらつきを起こします。

また、心臓に血液が運ばれなくなると、動悸、息切れ、呼吸困難などを起こすこともあります。

不整脈の検査

検査は主に以下のものがあげられます。

  • 12誘導心電図
  • 運動負荷心電図検査
  • ホルター心電図検査
  • カテーテル(冠動脈造影)検査
  • 胸部レントゲン検査
  • 心臓超音波検査

一般的なのは12誘導心電図検査です。胸に電極を貼り、心臓の動きを観察します。早ければ5分で終わる検査です。

ほかには、電極を貼ったままベルトの上を走り、負荷をかけて動悸や息切れなどを再現して心臓の動きを観察する「運動負荷心電図検査」や、24時間、電極を貼って生活して、どの場面で心臓に負担がかかっているか、観察する「ホルター心電図検査」などが上げられます。

ホルター心電図検査は、普段通りの生活をすることが求められるため、検査中に仕事をしても問題ありません。

不整脈の治療

不整脈治療は「薬物治療」「非薬物治療」の2つに分かれます。

薬物治療は、抗不整脈薬などを用いた、薬物治療を指します。

非薬物治療は​​​

  • ​植め込み型心臓電気デバイス(心臓ペースメーカー)
  • 植め込み型心臓電気デバイス(ICD)
  • カテーテルアブレーション

上記の3つに分けられます。

心臓ペースメーカー

心筋に電気刺激を与えることで、心臓の正常な動きを促す医療機器です。

心臓自体の脈(自脈)を検知(センシング)し、一定以上の時間内に脈がない場合に、刺激(ペーシング)を行います。

ペースメーカーについては、こちらの記事「【今さら聞けない】ペースメーカーを植え込むと障害者に?障害者手帳との関係を解説!」で詳しく解説しています。

ICD(埋め込み型除細動器)治療

ICD(埋め込み型除細動器)心臓ペースメーカーとは機能が異なります。心臓の動きを管理してくれる機能に加えて、致死性の不整脈が出現すると、感知して、電気刺激を与えて自動で治療してくれます。

ICDについては、こちらの記事「心臓障害を持った身近な人との接し方を知りたい!ICD患者との向き合い方は?」でも解説しています。

高周波カテーテルアブレーション治療

不整脈の原因となる異常な電気刺激回路をカテーテルにより焼き切ります。

不整脈は仕事を休むべきか

結論から言うと、「この症状だから仕事を休む」という明確な基準はありません。

とはいえ、不整脈によって、めまい、息切れ、動悸、意識が遠のく、失神などが起こる場合は明らかに異常です。心室細動や、心室頻拍などの突然死を起こす不整脈につながるリスクもあります。

体調不良で仕事を休むことは恥ずかしいことではありません。動悸、息切れなどの異変を感じている場合は早急に病院へいきましょう。

通院のために仕事を休むときのポイントについては、こちらの記事「通院のために仕事を休んでも大丈夫?休むためには職場からの理解が大切!」で詳しく解説しています。

不整脈で仕事を休むことになったら

不整脈で仕事を休むことになったら社会人として必ず会社へ連絡しましょう。

では、上司へどのようなことを伝えればいいのか。ここからは不整脈で仕事を休むときの注意点を解説していきます。

自分の状況を事前に上司へ伝えておく

体調に違和感があれば休む前に自分の状況を伝えておきましょう。

  • 最近、体調がすぐれない
  • 動悸がすることがある
  • 階段を上がる際に息切れがある
  • 胸痛がある

不整脈や、そこからくる動悸や息切れは周囲の人に分かりづらいものです。会社側にも「安全配慮義務」があるので、必要があれば従業員を休ませなければなりません。

あなたが無理をして倒れることは会社にとってもリスクです。

上司としても、あなたの体調によって、病院受診を進めるもしくは、仕事上の配慮が必要になるので早めに体調について相談しておきましょう。

当日休むことになったら

当日、「動悸がする」「息切れがつよい」と思ったら早めに職場に連絡しましょう。体調不良は仕事を休むには十分な理由です。

とはいえ、「今日は体調が悪いから休みます。」とだけ伝えると少し印象が悪いかもしれません。いつから、どのような症状で、病院受診の有無などの詳しい状況を伝えましょう。

【伝え方の例】

「起床後から動悸があり、会社に向かっていたのですが息切れも強くなってきているようで、これ以上は動けそうにありません。病院受診したいので申し訳ございませんが、本日はお休みさせていただけますでしょうか?」

休みを取り、病院受診をするにあたって「診断書」などの書類が必要かは確認しておきましょう。

基本的に法律上、会社を休むのに診断書は必要ありません。とはいえ、社内規定に診断書の提出を記載している会社もあります。

1日の休みで、診断書を求めてくる会社は少ないでしょうが、不整脈は状態によって数日の安静や検査入院が必要なこともあります。また、診断書が必要な場合は、会社指定の書式があるかについても聞いておきましょう。

もし入院となったら

病院を受診して入院となった場合に会社に確認すべきことをまとめました。

  • 入院時に会社に伝えること
  • 入院中に確認すべきこと
  • 退院前にやるべきこと

参考:厚生労働省 心疾患の診断を受けた方へ

入院時に会社に伝えること

入院が分かったら、すぐに会社へ連絡しましょう。あなたが休むことで業務調整が必要なためです。急ぎの要件かつ細かな説明が必要になるので、極力電話で連絡するようにしましょう。

伝える内容は以下です。

  • 入院先の病院
  • 現在の病状・状態
  • 入院期間の見込み

上記は最低でも伝えましょう。

【伝え方の例】

「受診先の病院で、数日入院が必要になりました。状態によってはしばらく入院が必要とのことです。詳しい入院の見通しが分かりましたらすぐにご連絡いたします。ご迷惑おかけしてすみません。よろしくお願いします。」

入院期間の見通しが分かれば再度、連絡しておきましょう。

入院中に会社に確認すること

退院までに以下のことも確認しておきましょう。

  • 診断書は必要か?
  • 診断書に会社指定の書式があるか?
  • 病気休暇制度について

会社によっては、病気休暇制度や、休職制度を設けている場合があります。年次有給休暇は休んでいる間も給与が発生します。利用できる休暇制度はないか確認しておきましょう。

また、そういった制度を利用するにあたり、多くの会社では、退院後に診断書の提出が求められます。会社の指定の様式があるか、入院期間や療養期間など記載すべき内容があるかなどを確認しておきましょう。

退院前にやること

退院前にやるべきことは以下です。

  • 仕事の内容について医師に相談する
  • 診断書を作成してもらう
  • 退院日を上司へ報告する

それぞれを説明します。

①仕事の内容について医師に相談する

仕事ついて医師に相談しておきましょう。

  • どの程度まで仕事ができるか
  • いつから仕事に行って良いか
  • 制限される作業はないか
  • 注意点はないか

確認しておきましょう。また、生活面の注意点についても医師や看護師から指導があります。栄養、食事に関しては管理栄養士から指導があるのでよく聞いておきましょう。

特に食事については重症度によりますが、減塩や、低脂肪などの細かな注意点があるのでしっかり聞いておきましょう。

②診断書を作成してもらう

先ほども話しましたが、入院で長期的に仕事を休む際に、診断書の提出を求める会社は多いです。退院前に必ず医師に記載してもらいましょう。

仕事の制限がある場合は、医師の判断や意見を記載してもらいます。特に不整脈から来る動悸や息切れなどの症状は本人にしかわからない場合があります。

理解が得られず、自己申告で会社との業務調整をするのは難しいので、根拠となる診断書は必ず記載してもらいましょう。

③退院日を上司へ報告する

退院日が決まったら、上司へ報告しましょう。事前に仕事復帰の時期を医師に確認しておき、出勤日を調整してもらいましょう。また、自分の状態次第では、業務調整が必要です。

どの範囲まで仕事をして良いか、制限はないかも医師に確認しておきましょう。

仕事に復帰してから気をつけること

受診による休み明け、退院後の職場復帰後の注意点をまとめました。

  • 医師や病院スタッフの指導は守る
  • 職場に理解者を作る

それぞれを説明します。

医師や病院スタッフの指導は守る

重要なのが、生活面について病院での指導を守ることです。

  • 薬は自分の判断でやめない
  • 運動、食事の制限は守る
  • 自分の判断で通院をやめない

など、心疾患では生活上の制限が考えられます。

症状の悪化や、再発のリスクもありますので、必ず医師の指示には従いましょう。

生活上の注意については、こちらの記事「少し動くだけでも疲れやすい…心臓病の人がラクに生活するためのポイントを解説」で詳しく解説しています。

職場に理解者を作る

仕事に関しては、少なからず周囲の理解を得る努力が必要です。不整脈や、不整脈に関する症状は周囲からは分かりづらいものです。

【仕事への影響の例】

  • 動悸があるので飲み会でアルコールはあまり飲めない
  • 通院のため定期的に休まなければならない
  • 症状があるので重労働は断らないといけない

初めは心配されると思いますが、この状況が長く続くと、周囲の評価が悪い方向へ変化していくことも考えられます。不整脈で体調が悪い場合は、早めに上司へ相談しましょう。直属の上司が頼りなければ、その上の上司でも構いません。

また、信頼できる同僚がいれば、病気のことを話しておきましょう。病気のことを打ち明けるのは勇気がいることですが、病気や症状と向き合いながら仕事を続けるにはすくなからず、周囲の協力が必要です。

こちらのコラム『面接で絶望して就職後にも障壁…先天性心疾患者が体験した「一般企業で働くことの難しさ」』では、職場から理解を得る大切さについて執筆されています。

まとめ

今回は下記のことを解説しました。

  • そもそも不整脈とは?
  • 不整脈で仕事を休んでいいのか
  • 不整脈で仕事を休むことになったら
  • もし入院することになったら

不整脈は、動悸などは身体の異変を知らせるアラームのようなものです。過度な労働をすれば、一部ですが突然死につながることもあります。仕事を休むことは恥ずかしいことではありません。

健康に代えられるものはありません。これからの人生のためにも違和感を感じたら早めに病院を受診しましょう。

看護師&WEBライター。介護士歴7年、資格取得後に看護師へ転職。国立病院の循環器科を経験。現在は地域医療を学ぶために田舎の救急病院に勤務。検査、救急対応、外来対応、病棟看護なんでもやってます。(Twitter:@ns_shokpan)