心臓疾患の人は障害者手帳を持つべき?取得するメリットや申請方法について解説

公開日 2022年12月1日 最終更新日 2024年9月12日

身体障害者手帳を活用することで、その人の障害の程度に応じてさまざまなサービスを受けられます。障害者手帳は心臓疾患の人も対象であるため、症状によって現在の生活で困っている場面があるようでしたら、ぜひ申請を検討してみましょう。

この記事では、心臓疾患の人が障害者手帳を持てる条件やメリットについてご紹介します。障害者手帳の仕組みを理解したうえで活用できれば、いままでの生活をより楽に過ごせるかもしれません。

障害者手帳には「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つがあります。心疾患のみの場合は「心臓機能障害」として障害の程度によっては「身体障害者手帳」の対象になります。

ライターの画像

監修:ami

精神保健福祉士/社会福祉士/介護支援専門員/男子高校生と、肺動脈閉鎖症/右心低形成の女子小学生の母。地域密着型の精神科診療所に17年間ソーシャルワーカーとして勤務。相談支援、デイケア運営、訪問等幅広い支援をチーム医療の一員として行う。病児出産後退職。現在は患者家族会活動と娘の推し活を一緒になって楽しむ毎日。Twitter:@ami7color

【目次】

心臓疾患の障害者手帳の等級

心臓疾患の障害者手帳には等級があり、1、3、4級があります。

それぞれの等級の障害の程度は、以下の表の通りです。

等級 心臓機能障害の程度
1級 身の回りの日常生活動作が極度に制限されている状態
3級 家庭内での日常生活動作がいちじるしく制限されている状態
4級 社会での日常生活動作がいちじるしく制限されている状態

等級ごとの具体的な認定基準について、それぞれ解説していきます。

出典:心臓機能障害【障害程度等級表】【認定基準】

心臓疾患の障害者手帳の認定基準

障害者手帳の認定には、各等級によって基準が異なります。ここでは18歳以上の各等級の認定基準についてご紹介します。

障害等級1級に該当する疾患

以下の①②どちらかに該当すると、1級に該当します。

①安静時または身の回りの日常生活動作時に、以下のいずれかの症状がある。

  • 心不全あるいは狭心症症状
  • アダムスストークス発作(不整脈によるめまい・失神)が繰り返し起こる

上記に加えて、以下のいずれか2つ以上の所見がある。

  • A. 胸部エックス線の所見で胸郭に対する心臓の幅の比較が60%以上
  • B. 心電図で陳旧性の心筋梗塞がある
  • C. 心電図で脚ブロックがある
  • D. 心電図で完全房室ブロックがある
  • E. 心電図で第2度以上の不完全房室ブロックがある
  • F .心電図で心房細動または心房粗動があり、心拍数に対する脈拍数の欠損が10以上
  • G. 心電図でSTの低下が0.2mV以上
  • H. 心電図で第Ⅰ誘導、第Ⅱ誘導および胸部誘導(V1を除く)のいずれかのT波が逆転している

②ペースメーカーやICD(除細動器)を植え込んでいる、または人工弁移植・弁置換を行っている状態で、身の回りの日常生活動作が極度に制限されている。

【関連記事】

障害等級3級に該当する疾患

以下の①②どちらかに当てはまると、3級に該当します。

①上記の1級のA〜Hのいずれかの所見があり、さらに活動時に以下のいずれかの状態がみられる。

  • 活動時に心不全あるいは狭心症症状が起こる
  • 頻回に頻脈発作を起こして救急医療を繰り返し行う必要がある

②ペースメーカーやICDを植え込んでいる状態で、家庭内での日常生活動作がいちじるしく制限されている。

障害等級4級に該当する疾患

以下の①②③どちらかに当てはまると、4級に該当します。

①活動時に心不全あるいは狭心症症状があり、さらに以下のいずれかの所見がある。

  • 心電図で心房細動または心房粗動がある
  • 心電図で期外収縮がある
  • 心電図でSTの低下が0.2mV未満の所見がある
  • 運動負荷心電図でSTの低下が0.1mV以上の所見がある

②心臓の浮腫があり、日常生活以上の活動がいちじるしく制限される。または頻脈発作を頻回に繰り返して日常生活の妨げとなる。

③ペースメーカーやICDを植え込み、社会での日常生活動作がいちじるしく制限されている

ペースメーカーやICDは、植え込んだ時点では基本的には障害等級1級と認定されます。そして、障害者手帳の更新(3年以内の再認定)のタイミングで、ペースメーカへの依存度や日常生活の制限の程度に応じて1級が継続されるか、3級、もしくは4級に等級が下がるか、判定されます。

診断書に記載されている活動能力の程度の欄は、この部分だけ見て判定する医師もいる位大事な項目です。選択式のため一目でわかりますから、診断書を受け取った瞬間に確認し、万が一非該当の項目に丸がついていたらその場で手帳の必要性を訴えて、丸をつける場所を直してもらえないか頼んでみましょう。

下記は、診断書の活動能力の程度に関する分類になります。

ア・・・非該当 イ・ウ・・・4級相当 エ・・・3級相当 オ・・・1級相当

  • ア:家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動については  支障がなく、それ以上の活動でも著しく制限されることがないもの又はこれらの活動で  は心不全症状若しくは狭心症症状が起こらないもの
  • イ:家庭内での普通の日常生活活動若しくは社会での極めて温和な日常生活活動については  支障がないが、それ以上の活動は著しく制限されるもの、又は頻回に頻脈発作を繰り返  し、日常生活活動若しくは社会生活に妨げとなるもの
  • ウ:家庭内での普通の日常生活活動又は社会での極めて温和な日常生活活動については支障  がないが、それ以上の活動では心不全症状又は狭心症症状が起こるもの
  • エ:家庭内で極めて温和な日常生活活動には支障がないが、それ以上の活動では心不全症状  又は狭心症症状が起こるもの、又は頻回に頻脈発作を繰り返し、救急医療を繰り返し必  要としているもの
  • オ:安静時若しくは自己身辺の日常生活活動でも心不全症状又は狭心症症状が起こるもの又  は繰り返してアダムスストークス発作が起こるもの

出典:心臓機能障害【障害程度等級表】【認定基準】 平成 26 年度東京都身体障害者福祉法第 15 条指定医講習会資料 

心臓疾患の人が障害者手帳を持つメリット

障害者手帳のメリット

手帳を所持することは、一定の障害の状態にある証明です。医療、福祉等各種の制度を利用するとき、毎回診断書を提出する必要がなくなります。また、障害者手帳を取得することには様々なメリットがあります。

①障害者雇用枠での就労が可能

1つ目のメリットは、障害者雇用枠での就労が可能な点です。民間企業には、障害者雇用率制度を守ることが義務付けられており、43.5人以上の従業員がいる企業は、全従業員のうち2.3%以上の障害者を雇用する義務があります。

また、重度身体障害者(身体障害1.2級)や重度知的障害者は、1人雇用することで2人分、時短勤務労働者(週20〜30時間)の場合は0.5人と計算されます。しかしこのルールは、労働者側には、あまり関係のない話なので、企業は従業員数の2.3%の人数の障害者を雇う義務があると覚えておいてください。

【例】

  • 従業員が500人の企業の場合:11人の障害者を雇用する義務がある
  • 従業員が10,000人の企業の場合:230人の障害者を雇用する義務がある

このように、従業員が多い企業ほど、多数の障害者を雇う義務があるため、障害者雇用制度を活用することで、大手企業への入社が目指しやすくなります。また、2026年に法定雇用率が2.7%まで引き上げられることが決定しました。そのため、今後より障害者雇用で働くチャンスが広がりました。

また、障害者雇用のある職場は、病気に対して配慮を受けやすい環境なので、働きやすいのが特徴です。

【配慮の例】

  • 業務内容の調整
  • 通院のための休暇
  • 通勤時間の調整や在宅勤務の許可

心臓疾患を持っていると、重いものを持つことができなかったり、定期通院が必要だったりする人が少なくありません。そういった場合でも、障害者雇用であれば、自分が快適に、無理なく働くために必要な配慮を会社側に要求できます。

また障害者手帳を持っている人は必ずしも障害者雇用で就労する必要はなく、一般雇用として働くことも可能です。

「就職・復職を希望してるけど身体面で不安がある…」と不安に思っている人は、ぜひ障害者雇用枠を活用してみましょう。また就職へ向けた各種の支援(就労移行支援、就労継続支援など)も利用できます。

障害者雇用については、こちらの記事「【2024年最新】障害者雇用の現状と課題【SDGs】」で詳しく解説しています。

※はとらくでは、完全無料で心臓疾患者専門のキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。

▶︎「はとらく」にキャリア相談をする

【関連コラム】

出典:事業主の方へ – 厚生労働省

②医療費の助成や税金の控除

2つ目のメリットは、医療費の助成や税金の控除を受けられる点です。医療費の助成では、指定されている医療機関の自己負担額が軽減されます。たとえば、東京都内に住んでいる人で1級の障害者手帳を持っている場合、医療費の自己負担額が1割になります。医療費の助成の条件は市区町村によって異なるので、お住まいの地域のホームページに問い合わせてみましょう。

また以下のような税金の控除も受けられます。

税の特例の区分 障害者 特別(重度)障害者
所得税 27万円の控除 40万円の控除
相続税 85歳に達するまでの年数1年につき10万円を控除 85歳に達するまでの年数1年につき20万円を控除
贈与税 精神障害がある人は、信託受益権の価額のうち3,000万円までは非課税 信託受益権の価額のうち6,000万円までは非課税
心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の非課税 給付金による所得は非課税 左に同様
少額貯蓄の利子等の非課税 350万円までの預貯金等の利子による所得は非課税 左に同様

そのほかにも都道府県によっては自動車税、軽自動車税の減免や、本人だけでなく扶養側が控除の対象となる特例もあります。

出典:障害者と税 – 国税庁

③公共交通機関・サービスの割引

3つ目のメリットは、公共の交通機関・サービス利用時に割引される点です。バスや電車、レジャー施設など、さまざまな場面で障害者手帳を提示すれば割安で利用できます。またミライロID(障害者手帳の情報をスマホで提示できる)など便利な方法もできていますので、上手く活用できると行動の幅が広がります。

【割引の例】

  • JR線:乗車料金が50%割引
  • 新幹線:乗車料金が5割引。特急料金には適用されないため、全体料金のおそよ25%割引
  • タクシー:運賃の10%割引
  • 映画館や水族館などのレジャー施設:50%割引(施設によって詳細は異なります)
  • 私鉄、路線バスは各社対応が異なる
  • 有料道路の通行料金割引
  • 携帯電話障害者向け割引サービス
  • 有料道路の通行料金割引
  • NHK放送受信料の免除

こちらも障害者手帳の等級や住んでいる地域によってサービス内容が異なります。場合によっては事前の申し込みが必要なときもあるので、詳しく知りたい人は自分の地域のホームページや障害福祉窓口で確認してみましょう。

そのほか、子育て中の方は保育所利用申請の際に手帳を所持している事を申し出れば点数の加算などがあり、有利になります。お住まいの自治体に確認してください。

また上記以外に、市区町村によっては障害等級に応じた福祉手当金が支払われる場合があります。

世田谷区の場合】

  • 身体障害者手帳1級、もしくは2級を取得した場合、月額16,5oo円の心身障害者福祉手当が支給される

世田谷区の場合は、上記のように1級もしくは2級の心臓機能障害と認定された場合、月額16,5oo円の心身障害者福祉手当が4月、8月、12月にまとめて66,00円が支給されます。この福祉手当は、もちろん非課税なので全額そのまま受け取れます。しかし4級の場合は、受け取れないため注意が必要です。

支給条件や支給金額は、市区町村によって異なるため詳細は役所にて確認しましょう。

心臓疾患の人が障害者手帳を持つときの注意点

前提として、障害者手帳を所有することにデメリットはなく、また返納も可能です。

しかし、障害者手帳の申請・交付には時間がかかる点には注意が必要です。障害者手帳の申請・更新にはさまざまな用意が必要であり、交付にも数ヶ月かかるケースがあります。そのため、すぐに障害者手帳を手に入れられるわけではありません。

また障害者手帳は、取得を希望したからといって必ず取得できるわけではありません。心臓機能障害での取得については、本記事で紹介した内容に該当していると主治医が判断した場合のみ取得が可能となります。

障害者手帳の認定によって、周囲に障害者であるのが伝わることを気にする方もいると思います。しかし、障害者手帳を持っているのを伝えなければ、特に周囲に気づかれることはないでしょう。そのため、障害者手帳を持つことに抵抗がある人も、取得しておくことをおすすめします。そして必要なときのみ、障害者手帳を活用しましょう。

障害者手帳の申請方法

窓口

障害者手帳を申請するためには、主治医に手帳取得の意向を伝えた上で、以下の書類が必要です。

  • 医師の診断書・意見書(診断書料が必要)
  • 申請書
  • 本人の写真
  • 健康保険証、マイナンバーカード等本人確認書類
  • 印鑑

各自治体の障害福祉窓口で「身体障害者手帳交付申請書」をもらえるので、そこに記載されたものを用意しましょう。交付申請はお住まいの福祉事務所、あるいは市役所で行います。詳しい申請方法は地域によって異なるので、窓口にて問い合わせてみましょう。

障害者手帳は基本的には更新する必要はありませんが、障害の程度の変化とともに等級も変わりそうな場合は、再度認定を行うケースもあります。その場合は、再度診断書の提出など手続きが必要になります。

この手帳の更新について、先天性心疾患で障害者手帳を取得した人が、18歳以降に手帳を更新する場合に「18歳以上用」の診断書を提出することで、降級や手帳の打ち切りをされるという例が少なくありませんでした。

この問題について全国心臓病の子どもを守る会は、以前から厚生労働省に改善要望を行ってきました。その結果、厚生労働省から再認定の場合でも、「18歳未満用」を使って「差し支えない」という解釈が2023年に示されました。

障害者手帳のメリットをおさえたうえで申請を検討しよう

障害者手帳は心臓疾患の人も対象であり、その等級に応じたサービスを受けられます。障害者雇用枠での就労や医療費の助成など、さまざまなメリットがあるため、心臓疾患が原因で生活に支障が出ている人は、ぜひ申請を検討してみましょう。

障害者手帳の交付に時間がかかる点、地域によって申請方法が異なる点をふまえたうえで、まずはお近くの福祉事務所や市役所に問い合わせてみましょう

5年間理学療法士として医療に従事し、全国規模の学会で演題発表の経験あり。2021年からフリーランスとして独立を決意し、現在は専業のWebライターとして活動中。過去に先天性の心房中隔欠損症を発症したが、早期治療済み。ゆるく自分らしく生きることが人生の目標。(Twitter:@kaisei_writer)