公開日 2023年10月25日 最終更新日 2024年2月18日
ペースメーカー植込手術をしたあとに「身体障害者診断書・意見書」を手にして驚いた人もいるのではないでしょうか。ペースメーカー植込術でなぜ障害者になるのでしょうか?
障害者という言葉にショックを受けた人も少なくないでしょう。ここでは「障害手帳の申請がなぜ必要なのか」を、今さら聞けない方に向けてお伝えしていきます。
監修:谷 道人
沖縄県那覇市生まれ。先天性心疾患(部分型房室中隔欠損症)をもち、生後7ヶ月で心内修復術を受ける。自身の疾患を契機として循環器内科医を志す。医師となった後も、29歳で2度目の開心術(僧帽弁形成術)、30歳でカテーテルアブレーションを受ける。2018年琉球大学医学部卒業。同年、沖縄県立中部病院で初期臨床研修。2020年琉球大学第三内科(循環器・腎臓・神経内科学)入局。2022年4月より現職の沖縄県立宮古病院循環器内科に勤務。
【目次】
心臓の役割
心臓は4つの部屋に分かれており、右心房・左心房・右心室・左心室です。人間に必要な酸素や栄養を血液が身体中のすみずみまで巡るよう、ポンプの役割をしているのが心臓。
全身に豊富な酸素を血液が供給し、戻ってきた二酸化炭素や老廃物を回収し血液を肺動脈を通して肺に送り、酸素を取り込みます。
健康な心臓は1日に約10万回、1分間では約60~80回収縮し、毎分約5リットルもの血液を送り出しています。心臓の右側は血液を肺へ、右側は血液を全身に送るポンプとして働いています。
ペースメーカーの植え込みが必要な人
心臓は規則的にリズムを刻んでいますが、病気などで脈の打ち方が乱れることがあります。これをまとめて不整脈と呼び、不整脈は通常よりも通常よりも脈が早くなる頻脈(ひんみゃく)と、脈が遅くなる徐脈(じょみゃく)、脈が途中で飛ぶ期外収縮(きがいしゅうしゅく)と大きく分けて3つのタイプに分かれます。
ペースメーカーが必要になるのはこのうちの徐脈が見られ、かつ下記に該当する症状がある人です。
- 失神
- ふらつき
- 強いめまい
- 動悸
- けいれん
- 息切れ
【ペースメーカーの対象となる疾患】
- 洞機能不全症候群:脈が遅くなる不整脈の一種で、症状としてはめまいや失神、息切れ、動悸が主ですが無症状の場合もあります。
- 房室ブロック:心臓の電気活動が阻害されている病気の一種で、心房と心室をつなぐ「房室結節(中継所)」の機能が低下して、電気信号が伝わらず脈が遅くなってしまいます。症状としては、疲労感、息切れ、足のむくみ、めまい、失神があげられます。
上記に該当しない人でも、場合によってはペースメーカーの対象になることがあります。
ペースメーカーについては、こちらの記事「ペースメーカーを埋め込むと仕事にどんな制限があるか?注意すべき環境とは」「ペースメーカーを入れた後の日常生活で気をつけるべきことを解説」でそれぞれ解説しています。
等級の基準
平成26年3月まではペースメーカー植込術を行った人は、一律に身体障害者手帳1級が交付されていました。しかし、平成26年4月から以下の表のとおりに等級の認定が行われています。
【等級ごとの基準】
等級 | 詳細 |
1級 |
|
3級 | ペースメーカー等をクラスⅡ以下の状態で体内に入れ、身体活動能力が2メッツ以上4メッツ未満の人 |
4級 | ペースメーカー等をクラスⅡ以下の状態で体内に入れ、身体活動能力が4メッツ以上の人 |
注意1)クラスとは日本循環器学会のガイドラインにおけるエビデンスと推奨度のグレードです。
注意2)メッツとは身体能力活動を示す値(運動時の酸素消費量が安静時に何倍に相当するかを示す運動強度の単位)
なお、体内に入れた場合日常生活活動の制限の程度が改善する可能性を踏まえ、3年以内に再認定を行います。また先天性疾患によりペースメーカー植込術を行った場合は、従来どおり1級の認定になります。
障害者手帳については、こちらの記事「内部障害の等級を解説!身体障害者手帳の取得方法や医療費助成制度とは?」で詳しく解説しています。
障害者手帳の再交付に必要な準備
ペースメーカー植込術を行ってから3年以内や3年後の再認定のあと、手帳の交付を受けた人から状態が変動したときの再交付の申請を行います。障害の程度に変化が認められた場合は、手帳の再交付が行われます。
厚生労働省では「体内に入れた後に日常生活活動の制限の程度が改善する可能性があることから、3年以内に再認定を行う」とされています。審査を実施する年月については手帳に記載されご本人へ通知があり、再認定申請時に必要な書類を持って窓口にて申請を行ってください。
【必要書類】
- 写真1枚(原則として1年以内に撮影したもの)
- 身体障害者診断書・意見書
- 個人番号(マイナンバー)を証明する書類
また申請者が手帳交付者と異なる場合は、以下のものが追加で必要になります。
- 申請に来られる方の写真付き身分証明書(運転免許証・パスポート・障害者手帳等)
- 手帳交付対象者ご本人の個人番号カード又は個人番号確認書類(コピー可)
診断書については、こちらの記事「心臓病患者は診断書が必要?診断書の必要性や疑問を徹底解説」で詳しく解説いています。
ペースメーカー植込後の日常生活
ペースメーカー植込術後、はじめは日常生活に不安を抱く方も少なくないでしょう。買い物や散歩、旅行など屋外に出ることをためらってしまうかもしれません。術後1~3ヶ月経過し、順調に体調が回復すれば、軽い運動も可能になります。
とはいえ、生活をするうえで不安に思うことは多々あると思います。これは自分一人で悩んでいても解決できないことなので、不安なことがあれば、随時主治医へ確認しましょう。
心臓病の方の日常生活の送り方については、こちらの記事「少し動くだけでも疲れやすい…心臓病の人がラクに生活するためのポイントを解説」で詳しく解説しています。
障害者手帳を取得するメリット
障害の等級や在住の自治体、所得状況等によって受けられる支援は異なります。申請するときに必ず確認してください。
【代表例】
- 障害者雇用枠への応募が可能
- 医療費の助成
- 一部税金の免除・減税
- 交通機関・インフラの割引
- 民間企業による割引
まず障害者手帳を取得すると、障害者雇用での就労が可能になります。障害者雇用枠で採用されると、障害に対する配慮を受けながら就労できます。
【配慮の例】
- 業務内容の変更
- 時短勤務や時差出勤の許可
- 通院休暇の取得
障害者雇用については、こちらの記事「【2024年最新】障害者雇用の現状と課題【SDGs】」で詳しく解説しています。
税金の免除、減税や、交通機関の割引などの金銭的な支援も受けられるため、日常生活にも大きな影響が出ます。
身体障害者手帳については、こちらの記事「障害者手帳の種類や等級ごとの違いを現役看護師が解説!」で詳しく解説しています。
障害者手帳の取得に抵抗がある方は、ぜひこちらのコラム「障害者手帳は持つべき…?心理的な抵抗があるときに知っておきたい取得のメリット」を読んでみてください。
まとめ
ペースメーカーを植え込んだからといって、生活が180度変わるわけではないため、障害者手帳を受け取ることに疑問が残るかもしれません。しかし、当たり前のことですが、障害者手帳はただなんとなく渡されているのではなく、必要だと判断された方しか受け取れません。
そして障害者と認定されることに、客観的なデメリットはありません。自分の病気と向き合って生きていくために、ゆっくりでもいいので、障害者手帳を持つことを受け入れていきましょう。
※はとらくでは、完全無料でキャリア相談を受け付けています。ぜひ、ご相談ください。